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最終決戦編
十話
しおりを挟む―――童子切安綱、鬼丸国綱、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次。
悠然と並ぶ名刀の数々、それを惜しげも無く披露し手身近にある一本、童子切を抜き取ると、構えを魅せる朧。
「俗物相手にはちともったいないが、失われし名物を見せてやろう…」
「――人が造りし刀ならば、何も問題はないッ!」
どのような伝説があろうとも業物はその域を出ない。
桜花紫電は最悪の大厄を切り伏せ、その力を宿し唯一無二の刀となったが、目の前の天下五剣は芸術的価値と、刃物としての価値を兼ね備えた業物に過ぎない。
故に怯まない、洋助は天下五剣に引けを取らない紅葉を握り直す。
「……っぐ…っつ……あああぁぁぁ!!!!」
そして斬り落とされた左腕は、その残骸が蒼炎で燃え尽きると同時に再構成される。
朧からすれば、何度斬り落としても同じ結果となる事実を見せ付けられ、その命を断つ手段が狭められる。
人間を見る眼差しではなく、化け物と対峙する覚悟で朧は踏み込み、人外同士の戦いは激しさを増して再開される。
――――キィンッ…!!…ィン…!ギィィィン……!!
先ほどの戦いが、大嵐がぶつかり合う激しさだとすれば、業物同士の打ち合いを中心に繰り広げられる今の戦いは、さながら舞い落ちる木の葉の様な激しさ。
その例えは比喩ではなく、童子切と打ち合う紅葉はその度に赤い火花を綺麗に散らせる。
高速戦闘におけるその斬撃と火花は、常人には花火めいた輝きに見えるだろう。
「――小癪なッ!!」
先に苦戦を強いるは朧。
いまや大厄と神力の二つの力を伏せ持つ洋助に、単純な技量と胆力に押され精彩を欠いて剣戟を鈍らせる。
その隙を見計らうと、歴史的価値の高いその刀を容赦無く叩き割り、致命の一撃を打つ。
「はぁぁぁッ!!」
「なめるなッ!」
地に差した二本目、鬼丸を抜き取る。
と、同時に彼の追撃を防いでは後方に吹き飛ぶ朧。
ガァァァン……。
周囲にあった切り刻まれた建物に打ち付けられ、朧は確かなダメージを受ける。
瓦礫を被り、その高潔で美しい見た目は埃と砂に塗れて汚れる。
「儂に……血を流させるか…」
起き上がる朧は擦り傷と切り傷で頬に血が滲み、その表情も険しくなる。
そこにゆっくりと歩を寄せる洋助は、起き上がろうとする朧に追撃する。
「はぁッ!!」
「図に乗るなッ!!」
ガキィンッ……。
鬼丸と紅葉は鍔摺り合いに持ち込み、一進一退の攻防を拡げる。
「洋助ッ……一つ教えてやるっ!…お主と同じように、大昔に皆を救おうとして大厄に挑み続けっ!!そして最悪の結果を迎えた巫女がおったッ!」
悲痛の訴えは、刀身に籠められた力を強くする。
それに対する洋助も力を込めて抵抗する。
「その巫女もまたッ!!悲劇を繰り返さぬ様に神力を還そうと試みたッ!!だがッ…それも虚しく失敗し、悪戯に大厄の被害を増やしただけッ!!この意味がわかるか洋助ッ!?」
鬼丸の刀身にひびが入り、打ち合う瞬間に砕けて散る。
粉々となる鉄の破片を舞い散らせながら、三本目となる三日月宗近を引き抜く。
「だからってッ…このまま人を生贄にして神力を繋ぐなんて間違ってるッ!!貴方が出来なかった事をっ…俺がやり遂げるッ!!」
朧の剣戟を弾き、真っ向から否定する洋助。
徐々に押され始める朧は退き気味に刀を駆るが、その勢いに押されて三日月宗近を弾かれる。
「っぐぅ……」
体勢が崩れ、苦し紛れの反撃を切り返すが、軸を外した受けは無慈悲にも三日月宗近を二つに折り、国宝、業物の数々を破壊しながら競り勝つ。
朧もまた、出し惜しむことなく四本目となる大典太を抜くと、残った数珠丸も引き抜き二刀流を構える。
伝説の剣豪、宮本武蔵の再来が如くその二本の刀を駆る。
「来るがよいッ!洋助ッ!!」
「朧ッ!!」
手数の多くなった連撃に、疾風と化した洋助ですら捌き切れずに傷を負う。
―――右、左、上段、下段。
様々な範囲から怒涛の斬撃を受けながらも、それを躱し、弾き、受ける。
そして一撃が致命的な威力を伴う斬撃を朧が放つと、それを甘んじて受けては十字の形に大きな傷を負う洋助。
「がはッ……!!」
胴に入るその亀裂は、大量の蒼炎を流しては燃える。
朧は止めを刺そうと二刀の業物を振り上げ、首を刎ねようとするが、身体の再構築と補修が想像以上に早く、洋助は持ち直す。
「――なんじゃとッ…!?」
振りかざした大典太と数珠丸は、一本を紅葉に流されて空を切る。
そしてもう一本である数珠丸を手の平で受け止められ、貫通してはそのまま握られる。
「ッ!?」
流れ出る蒼炎が数珠丸に滴り、そのまま大典太を弾かれては超至近距離で紅葉を振られる。
距離を取ろうにも、鍔部分にまで貫かれた手は数珠丸を掴んで離さず、防御を強いられ大典太を雑に盾にする。
―――バキィン…!!
四本目となる天下五剣の破壊。
最後の一本となる数珠丸も、押さえつけられては地面に叩きつけられる。
「だぁッ!!」
最後の名刀を踏みつけて刀身を粉砕さる。
鉄の残響が鳴り、朧は大きく後退して距離を取る。
「―――五剣を破壊するか……」
「……はぁッ…はぁ…」
己の宝剣、名刀を削りながら戦う朧に対し、身を削って命をすり減らす洋助。
両者の戦は、朧が片膝を着いて決着を迎えようとしていた――。
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