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最終決戦編
九話
しおりを挟む電光石火、疾風迅雷、紫電一閃、そのどれもが当てはまる戦い。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!」
紫電の稲妻が迸り、音を通り越して移動する。
無論その稲妻は朧であり、その速さも音速、故に斬撃も目で追えぬ速度で繰り広げられ、刀身の長さ以上の衝撃波が放たれる。
「はあッ!!!」
雷撃が一振り、その度に空気が裂かれる。
轟雷となりし斬撃が洋助を襲い、かつ桜花紫電の切っ先が同時に向かう。
―――まさに雷神、紫電の火花が飛び散っては桜の花びらと化す。
打ち合えば神力を削がれ、電撃が身体を這う。
だが、避けようにも光の疾さのそれは絶対不可避、死への強制二択――かに見えた。
「―――これを避けるかッ……洋助ッ!!!」
―――朧が雷神であれば、洋助は風神。
目に見えぬ疾さを、眼で捉えられぬ速さで避ける。
それはさながら風の如くであり、斬ろうにも刀は空を切り、そして虚しく地を抉る。
―――ガァンッ!!!!
その一撃を避ける度に範囲内の施設は倒壊し、崩れる。
二人の戦場は大厄対策本部を超え、街へ繰り出し、二つの影が破壊を執行する。
「洋助ッ!!お主の姿を見て見よッ!!どちらが災いかッ!?どちらが人間かッ!?」
「―――そうだっ…、俺は大厄と化し、この行動もまた間違っているかもしれないッ!!だけど……それでもっ…、貴方の行いも正しいとは言えないッ!!」
その問答は刹那の間に交わされ、斬撃の残響音でかき消される。
そして、嵐の勢いで振り放たれる剣戟は激化していく。
風がうねり、道路の舗装が剥がれ、建物は瓦解して崩れる。
仮に民間人がいればそれは一瞬で吹き飛び、切り刻まれて無くなるだろう。
「この戦いに正解などないッ!!なぜそれが分からぬッ!!無益な争いを起こしているのはお主の本位でもなかろうッ…!!」
「多くの犠牲を払ってでもっ!俺は未来を変えるッ!!」
その言葉に、朧は仕切り直して反論する。
「それが偽善、…身勝手なのだっ…神力の統治の元、正しき平和を導きながら最低限の犠牲でそれを維持する…これこそが大勢の民が望み、求めている世界ッ!!そして日ノ本ッ!!儂は三百年の時間を掛けてこれに辿り着いたッ!!」
朧の超音速の太刀筋は、洋助の右腕を根こそぎ切り取る軌道を描く。
それを見切って体を捻ると、急接近して上段から叩き切る。
――――ゴウォッ……!!!
風圧が薙ぐと、辺りは破壊されてぽっかりと空洞が開く。
朧は弾く事の出来ない上段の振りを紙一重で躱すと、その綺麗な長い黒髪を切り落として反撃に打って出る。
「滅びろッ!洋助ッ!!!」
刹那の回避は、代償として朧の長髪を奪い、美しき髪を短く彩る。
妖艶な雰囲気を纏っていた朧は、その印象を活発な女児に変えて剣戟を打ち込む。
「―――ッ!?」
その瞬間、回避に徹していた洋助が左腕で桜花紫電を受け止める。
迷いも戸惑いも無く腕を差し出した彼に、朧は動揺し動きに濁りが生じる。
焔に焼かれた左腕は、その爛れを補うために大厄の手甲が纏われていた。
その左腕を関節から斬り落とし、跳ねた腕は上空へ舞って漂う。
―――血は流れず、蒼き炎を撒き散らしながら洋助は片腕で紅葉を振るう。
「……っぐ…」
たまらず朧は引き下がろうとするが、それを許さず追撃する。
ここにきて打ち合いを仕掛ける洋助に、乗せられる形で剣戟を返すと、桜花紫電は電撃を伴って稲妻を走らせる。
が、その衝撃で宝刀は弾かれ、朧の手から離される。
「―――狙いおったな……洋助…」
「っつ……その電撃、片腕一つで凌げるなら安いですよ…」
「大厄の力で体の制御が外れたとはいえ……存外、奇抜な戦い方をする…」
「桜花紫電の力が無い以上、貴方には勝ち目は無いはずです、諦めてください」
弾かれた宝刀は、洋助が遮るように地に刺さっている。
無理に拾おうとすればその隙を狙われ、かといって素手で戦えば彼の剣技に切り伏せられる。
「―――諦める?戯言を抜かすな小僧が……」
「なに?」
「紫電は儂の取り得る戦術の一つに過ぎぬ、侮るな」
両手を広げる朧は、桜花紫電を出現させる転移術を展開させる。
その背後、突如顕現する五本の刀が威圧感を醸し出す。
「往くぞ、今度は天下五剣が相手をしよう」
名刀、国宝と呼ばれし秘匿された刀が、今、朧の手によって抜刀された。
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