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最終決戦編

八話

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 身体は冷え切り、心は擦り減る。
 水に流されるこの体は、戦いの熱を冷まさせては軋む。

 水瀬焔は、水面に叩きつけられて微動だにせず流されていた。

 「―――」

 彼女は己を恥じる。
 それは疑念と怒りを洋助にぶつけた事、そして彼が最後まで彼女を信じ、自らが死に至る傷を負いながらも生かしてくれたことに。

 涙が溢れて止まらず、それは水に流れては悲しさを隠す。
 もはやこのまま溺れ死のうか、そう思っては脱力する。

 「………ッ…」

 だが、この命がある意味を問う。
 彼が死を覚悟しながら残してくれた命を問い、焔は最後の力を振り絞る。

 「―――ごほっ…!!がはッ…!」

 だが、神力は底をつき、身体も満足に動かせぬ焔は呼吸が出来ずにもがく。
 重くなった巫女装束が、水底に引き寄せようと下に沈む。

 ―――その時である、急に体が浮く感覚。

 それは暖かな手で体を引き上げ、水面から救われる。
 右腕から感じる体温は、とても親しみのあるやわらかな感触、その手の温もりに焔は不意に顔を上げる。

 「-――っ…」

 冬の空に突き刺さる風。
 それすらもどうでもよくなる温かさがしっかりと伝わり、焔は泣き枯らした涙を再び流す、その意味は安堵、嬉しさを伴って。

 「あ、あかり……さんッ…!」

 朧に出撃を命じられた際、それに添えられた灯の死亡報告。
 何度も、何度も間違いだと思い込んで絶望し、そして洋助に諭され生きる意味を説いた。

 その意味が、今、しっかりと目の前に写される。

 「―――ったく…もう少しで溺れるとこだったじゃない?焔?」

 手繰り寄せた手は桐島灯の手で、それはしっかりと繋がれる。
 お互いにもつれるように岸に上がると、二人は倒れて綺麗な夜空を見上げる。

 「……どうして、てっきり、私は……」
 「あー…、心配かけてごめん、洋助を助けようとしたらドジってね…」
 「灯、さん…灯さんッ……!!」

 焔は灯の胸に飛び込み、その不安や寂しさを埋める様に抱き着く。
 失ったと思っていた温もり、そして優しさ、それらを忘れぬよう刻み込み、強く、強く抱き締める。

 「ううッ……うぅ…私は、洋助さんに…酷い事をっ……」
 「いつも私達に心配かける罰よ、それぐらい許すわよあいつなら」
 「ですが、ですがッ…!」
 「―――いい?焔?洋助は洋助の信念を持って戦ってる、焔だって貴方なりの信念があって戦っていた、それだけの事じゃない?」

 いつもの軽い笑顔で返すと、灯は焔の頭を軽く撫でる。
 子供をあやす様に優しく、優しく。

 「あ、かりさん……」
 「わかった?わかったならそんな顔しないっ!最強の巫女がそんな顔してたら情けないわよっ!!」

 激励されると同時に灯は立ち上がり、街の方角を振り向く。

 「――それに、私達の務めは終わっていない、大厄が攻めてきてる」
 「―――え?」
 「焔、……私はね、瓦礫の中で白い風景を垣間見たの、本来暗い、冷たい場所で」

 かつて見たその情景に、焔の記憶が巡る。

 過去、神力を初めて解放した際も白い“向こう側”を覗き、通常とは異なる神力を宿した。
 同じ物を見たとしたならば、灯にも何か変化があった、そう感じ取る焔。

 「そしたらね、目が覚めると不思議と力が溢れて、――こりゃ死んでる場合じゃないって思ったよ」
 「それ、は…」
 「あの風景が何なのかは分からない、けどやらなくちゃいけない事は分かる、大切な人を守る事、皆の命を守る事、でしょ?焔?」

 活気溢れるその言葉を聞き、焔の瞳に生命の鼓動が漲る。
 二人に使命が背負われ、神力の青色が濃くなっては強くなる。

 「おっしゃる通りです、灯さんっ…!!こんな所で足踏みしている場合ではありませんっ!大厄を討ち、出来る務めを果たしますッ!!」
 「流石焔ッ!あたしの最高の相棒だよ!!」

 二人の巫女は神力を纏い飛び立つ。
 人を救い、大切なものを零れ落とさぬ様に。

 そして、大厄対策本部では大きな衝撃と爆発が発生し、最強の二人が激戦を繰り広げていた―――。
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