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最終決戦編

四話

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 洋助と焔の激突による都市部大橋付近で起きた大規模な爆発、その騒ぎは篝火を動かすには充分すぎる事象であった。

 「―――姉さんっ!!あの爆発は洋助が戦っている証拠だっ!!うちらも出るべきだ!」
 「……ええ、そうですね…いずれにせよ本部も黙って見ているとは思えません」

 その様子を遠方から眺める天草姉妹は、神力の暴発現象による爆破を二度にわたり見る。
 異様な戦闘規模を不気味に思いながらも、彼女達は洋助の言葉を尊重すると同時に、先導者であった赤城の方針を思い返す。

 「赤城様がこの事態すら予測していたとすれば、洋助さんは必ず朧の元へ辿り着きます、――であれば、我々篝火はそれを全力で支援致しましょう」

 芹は薙刀を振りかざし、後ろに控える巫女達に告げる。

 「本部内に残る巫女を炙り出し、洋助さんが戦いに集中できる戦況を作ります、各個本部付近へ赴き、陽動をお願い致します」

 ――ガチャリ、それぞれの巫女が刀を握ると、鋼鉄音が重なる。

 「皆さん、御武運を」

 そう芹が告げると、巫女達は一斉に飛び出して都市機能が止まった無人の街へ駆ける。
 彼女達を見届ける天草姉妹も、それぞれの得物を携える。

 「芹、姉さん…」
 「菘、恐らく我々の戦いはこれが最後となりましょう、お互い、無事に帰りましょう」

 祈るような気持ちで視線を交わす二人は、可憐な少女に似合わない物騒な凶器を構えて高い高層ビルから飛び立つ。


 ――今、巫女同士の大きな戦の舞台が幕を開ける。


 そして時を同じくして、本部の特殊機動部隊隊長である水島も動いていた。

 「―――赤原君…いったい、君は…」

 朧の命令を受け、大厄と化した赤原洋助の討伐に向かった焔。
 その現場確認と補佐を担う機動部隊は部隊を編成して、崩れ落ちた大橋に向かっていた。

 「…水島さん、今いったいこの街で何が起こってるんですかっ…我々はただ黙って命令を聞いているだけなんですかっ!」

 部隊員の一人がその心中を水島にぶつける。
 その疑問はこの車両に乗る全ての隊員の気持ちであり、そして水島自身の葛藤でもある。

 「――俺達は兵士だ、命令は絶対であり、そこに疑念や疑心を持つことは無駄だ」

 だが、彼はその答えを敢えて冷たく突き放す。
 そして沈黙が生まれるその道中、機動部隊は崩壊しながら燃え盛る大橋に着く。

 「なんだ…これは…」

 およそ人が争ったとは思えぬ有り様。
 川を隔てたその橋は、中央から瓦解し鉄骨部分が剥き出しとなっている。

 さらに、戦いの形跡として矢が至る所に撃ち抜かれており、その凄まじさが窺い知れる。
 あまりの壮絶な戦闘規模に、部隊は慎重に動く。

 「……水島さん…やはり、彼は本当に大厄に成り果てたのでしょうか…」
 「わからない、だが、俺は赤原君の存在が脅威になるとは思えない」
 「隊長…」

 この地獄めいた炎の戦場を見て尚、彼は洋助を信じていた。
 それはこれだけの戦いでありながら、血の痕跡が一つも無い事を確認し、その本質が変わっていないと確信した為である。

 「――あれはっ…!?」

 橋下の川の縁、そこに青年が一人、青い炎を撒き散らして倒れていた。

 「赤原君ッ…!?」
 「隊長っ…危険です!近寄ってはいけませんっ!」
 「……彼はまだ人間だっ!!責任は俺が取るッ!!」

 装備を脱ぎ捨て、急いで彼の元へ向かう水島。
 移動用のワイヤーを駆使し、対岸の橋へ着地すると降下して川へ飛び込み駆ける。

 「――赤原君ッ!?しっかりしろッ!!おいッ!!」
 「―――っ…」

 辛うじて息をする彼は、両腕と上半身に酷い火傷を負って爛れる。
 その傷を補修しようと、蒼い炎と呪詛の刻印が拡がっては大厄のそれになる。

 「起きろッ……赤原君ッ!?大厄になってはダメだッ!!」
 「――うぅ……みず、しま、さん…?」
 「そうだっ…私だ、だから起きろっ…赤原君ッ!」

 必死に呼び止めるも彼の意識は混濁しており、今にも消え入りそうである。

 「―――ほむ、ら…さんが、川に……はや、く…捜索、を…」
 「水瀬君がっ…?まさかっ…」

 川底を見る水島は、焔が川へ落ちた事を察する。
 灯の死亡報告を聞いていた水島は、焔の精神状態が不安定な事も予想していた。
 
 故に焔を斬れない洋助が、取り乱した彼女を傷つけぬ為に川へ叩きこむのは自然であり、この行動に水島は決心した。

 「機動部隊へ告ぐ、赤原洋助の身柄を保護して帰還する、お前たちは下流を辿って水瀬焔の捜索を急げ」

 完全な命令違反となる判断をし、部隊へ通達する。
 その決断に各隊員は動揺し困惑するが、混迷を極めるこの状況で何が正しいのか彼らは決める。

 『了解ッ!!』

 機動部隊もまた、水島を中心に己の信念がため行動を始めたのであった――。
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