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最終決戦編

二話

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 駆ける、駆ける、疾駆の如く駆ける洋助。
 夕日は落ちて都市の明かりが眩しく映るなか、蒼の輝きを纏って洋助は駆ける。

 転々と建物に乗り移り、遠くに見える広い敷地の対策本部に向かう洋助。
 その途中、街中に響き渡る放送と外灯に映る避難警報が、彼の存在が大厄と知らしめる。

 『現在、東京都に人型と見られる大厄が侵攻中です、近隣住民の皆様は至急避難してください、繰り返します――』

 繰り返される警報は鳴り響き、都市は人の姿を消してその機能が完全に止まる。

 そして、人通りと交通の途絶えた道を突き進み、川を挟んだ大橋に差し掛かる時、その対岸に見知った巫女が大弓を構えて佇む。

 「―――焔……さん?」

 今までの比ではない大きさの弓、その頑強な造りである大弓は、地面にアンカーを突き立ててこちらに標準を定めていた。

 風が舞う、その勢いで焔の黒き巫女装束は翻って暴れる。
 そして、尋常ではない神力がその弓に籠められ、洋助はこの状況を察する。

 「どうして……どうしてっ…焔さんっ…!!」

 届かぬ声が風に消える。
 数百メートル離れた場所にいる焔は、呟く。

 「貴方がいて、何故っ……何故灯ちゃんはっ…!」

 灯の死亡報告を聞いた焔は、その怒りを洋助にぶつける。
 無論、何かしらの事情があったであろう事は承知しているが、それを汲んでも焔は納得できず、自ら戦場に赴き洋助に答えを問いに来た。

 大弓はたわみ、焔は腰を深く落として弓を構える。
 その矢として使われるは――刀。
 柄の部分が剥き出しになり、鋼鉄の切っ先が彼を狙う。

 「―――まさか、それをここで使うのかっ…」

 何より懸念するのは、大地を穿つ程の威力を持つその力を街中で使用する事実であった。
 更に、その矢の軌道は洋助を狙うと同時に、避ければ背後の住人が避難している街中を狙っていた。

 洋助は選択を迫られる。
 背後の罪なき人々を見捨てるか、その流星を受けとめるか。

 「――貴方は絶対に避けません、人々を守ると誓った貴方なら」

 確信している焔は、その大弓を力強く握り締める。
 実際その確信は事実であり、洋助もまた覚悟を決める。

 遠くに見える青い輝きが最大となると、それに対する蒼き輝きも最大となる。

 「はぁぁぁッッ!!!!!!」

 前進する洋助、少しでも着弾時の衝撃を和らげつつ、その衝撃を下に広がる川に流す為に橋の中央に向かう。

 「射抜きますッ!!!」

 深い、深い姿勢から解き放たれる流星と化す矢は、史上最大規模の力を備えて洋助に向かって射出される。


 ――――ィィィィィィィィィンッ………!!!!!


 風を断ち切りながら空気を揺らし、その異常な弾速を持って矢となる刀は轟く。
 迎え撃つ洋助は、降り注ぐ隕石を相手にする心地となり抜刀する。

 「ハァァァッ!!!!」

 視界が青く染まり、斬り放った斬撃に感触が残る瞬間。

 ―――ガキィィィィンッ……!!

 鉄と鉄がぶつかり合う衝撃音が響き、その破壊力もまた横に広がる。
 大橋の中央で撃ち落とした刀は、洋助によってその衝撃力を下方向に流されて橋を切断し、川の水面に叩きつけられ水飛沫を立てた。

 「―――……」

 焔は崩壊する大橋を眺めて水飛沫を浴びる。
 豪雨の如き勢いで滴る水は、焔の涙を隠して落ち着く。

 そして束の間の静寂が訪れ、爆炎と粉塵が晴れて視界がはっきりとしていくと、そこには大厄の形相となった彼が刀を握り締めて立っていた。

 「………っぐ…」

 流星を撃ち落とした代償は、両腕を焼き尽くして蒼き炎を纏わせて終わる。

 「――これが、大厄となった貴方の力ですか…」

 その力に、焔は悲しげな表情で応えるのあった――。
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