艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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大厄と成りし兵編

二話

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 神力を持たぬ人間と、巫女の実力。
 それは明白であり、通常であれば戦いの余地など無く捻り倒される。

 ――が、例外も確かに存在し、巫女に匹敵する存在の者を大厄撃破者とも呼ぶ。

 そしてその一人である巴宗一郎、彼の実力が今、最強の兵である洋助に降りかかる。

 「―――はぁッ!!」

 攻め立てるは洋助、神速の切っ先は剣聖の肩を狙う。
 その軌道は眼で追うことも困難であり、必殺の一撃でもある。

 しかし、紙一重でそれは躱される。
 一切の無駄を排し僅かな動きでそれを見切る、まさに達人。

 「―――」

 表情すら変えず冷静な宗一郎、命の危険すら感じないその顔は、次の一手を狙っていた。

 「……っ…」

 柄を逆手に握り、持ち手の部分を小さく打ち込む剣聖。
 それを避けようとする洋助だが、相手の動きに対して大きく動く隙を恐れ、甘んじて胴にそれを受ける。

 「―――ほぉ…」

 そこで初めて、宗一郎は声を漏らす。
 
 状況をよく見ている、そう感心して剣聖は刀を切り返して仕掛ける。

 「然らば参る」

 洋助が神速であれば、剣聖は光速。
 消えるが如く深く姿勢を沈めると、腰だめに力を溜めて斬り放つ。

 「洋助くんッ!?」

 その立ち合いを見ていた雪は、その斬撃が決まり叫ぶ。
 思わず自身の刀を引き抜きかけて試合を止めようとする、が、その心配は杞憂に終わる。

 「まだだぁッ!!」

 斬撃の軌道は頭を狙った即死の一撃。
 それを洋助は、顔に横一線の傷を負って受けきる。

 「だぁッ!!!」
 「―――むッ!?」

 ―――流れる血潮が、刹那的に空を舞う。

 そして、最強の二人が立ち合いは、驚くほど短い時間で終了する。

 「―――俺の勝ちです、宗一郎さん」
 「……うむ、見事である」

 顔の傷から溢れる血が、どくどくと流れては頬を滴る。
 あの一瞬、距離を詰めて刃を首に放った洋助は動きを止めて勝ちを確信する。
 宗一郎もその度量と覚悟を認め、彼の勝利を素直に認める。

 「―――洋助くんッ!?……どうして、こんな危険な試合をッ…」
 「ごめんな、雪……いつも怪我ばかりして心配かけて」
 「……本当に、こんな大怪我して何を伝えたかったのッ…私は…」

 手持ちのハンカチで洋助の顔を拭い、止血する雪は泣きそう顔で訴える。
 
 ――その手を優しく握る洋助は、息を整え、目線を合わし、静かに告白する。

 「雪、……俺と、―――結婚、して欲しい」
 「――――ぇ」

 その瞬間、彼女はこの一連の出来事を理解した。

 彼は自身の祖父である宗一郎に打ち勝ち、その力を証明して婚約を申し込もうとした。
 きっとそれは、皆を守るという願いに釣り合う確かな強さを証明するため、そして雪の婿として剣聖よりも強いと証明するため。

 「―――本当に、ようすけ、くんは、ばか…」
 「ああ…本当に、そう思うよ…」
 「こんな怪我して、血だらけになって…、死にかけてプロポーズする人なんかいないよ…」

 必死に押し留めていた涙が溢れ、雪は泣きながら洋助にしがみ付き寄り添う。
 彼もまた、血に隠れた顔を涙で濡らして雪を抱きしめる。

 「――私は、洋助くんが大好きです、…貴方の妻として、これからも支えていきたい」
 「ありがとう、雪、…俺は君を絶対守って、幸せにする」

 そして今日、大厄に襲われた一般家庭で生まれた少年は、名家である巴家の婿となった。
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