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撃滅の夜叉兵編
十四話
しおりを挟む灯を抱きかかえ、佇む洋助は物悲しい表情であった。
「洋助…おまえっ…赤城さんはどうしたッ!」
「彼は俺が殺した」
「―――嘘です、赤城様は逃げると仰いました」
「嘘ではない、俺に夢を語って、勝手に生きて、――死んだ」
「……ッ!?」
姉妹は動揺し、同時に目を合わせる。
「…そんな、…まだその時じゃないって…」
「――菘、潮時です、恐らく赤城様はここを起点と見たのです、退きましょう」
彼女達は悲しさを堪え、冷静に事を運び撤退する。
洋助もまた、灯を抱えている以上無理な戦闘を望まず、それを見逃す。
「赤原さん、赤城様が貴方に語った言葉、それは全て真実であり、決して道を外れた物ではありません、それを理解しているのなら、貴方なりの行動でそれを示してください」
「―――わかっている、つもりです…」
その別れ際、芹は赤城の大義を確認する。
彼女の目元には涙が流れ、赤城の死を理解し、受け入れていた。
「俺なりの行動で…か、いったい、それは…」
遠くなる天草姉妹を見つめ、その答えを模索する。
洋助は行動するための決意と覚悟を備えた、しかし、その方法は未だ不明瞭であり、皆を守るためにどうすればよいのか、悩み、考えた。
――こうして、赤城の死によってこの戦いは幕を下ろした。
今回の任務で裏切った六名の神威の巫女うち、四名の捕縛に成功。
残り二名となる天草姉妹に関しては、篝火の残党勢力として依然捜索中となり、その消息は不明である。
さらに、篝火の後ろ盾となる組織の存在、未だ残る巫女の脅威から夜叉巫女部隊は予断を許されない状況であった――。
―――
――
「―――以上が、大まかな報告書かな」
「そっか…大変、だったんだね…洋助くん」
自室でパソコンを操作し文書を読む洋助。
隣には定位置となる雪が近くで座り、距離を縮める。
「灯さんが結構酷い怪我してるから、今度お見舞いでも行こうか」
「うん…そう、だね…」
「―――?…雪、どうかしたか?」
肩に寄り添い、悲しげな表情の雪は元気が無い。
それを不思議に思い、雪の頬に手を置いて顔を見る。
「洋助くんは…人を、斬ったんだね」
「―――あぁ…そうだな、嫌いになった?」
「…いつか、こんな日が来ると思ってたから覚悟はあった、けど、やっぱり悲しいし辛いよ、どうして洋助くんばかりが嫌な役目を押し付けられるの…」
頬に置いた手に、雪の柔らかくもしっかりとした手が重なる。
その温かく優しい手に安心し、洋助は気持ちを吐き出す。
「皆を守るためには、時に非情になり、手を汚す覚悟もしなければならない、俺は今回の戦いでそれを思い知った」
「けど…それじゃ…洋助くんがあまりにも不憫で、可哀想だよ…」
「――確かに、辛い時も悲しい時もある、けど、その時にいつだっていてくれるのは雪、君がいるから俺はこの大望に挑める、だから本当に大丈夫なんだ、雪さえいれば」
重ねた手はいつしか指が絡まり、その繋がりを厚くする。
それはお互いが離れぬよう、忘れぬように深く深く刻むように。
「―――ぁ」
そして洋助は雪を押し倒すと、その優しさに甘えるよう口付けをするのであった――。
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