上 下
57 / 79
撃滅の夜叉兵編

十四話

しおりを挟む

 灯を抱きかかえ、佇む洋助は物悲しい表情であった。

 「洋助…おまえっ…赤城さんはどうしたッ!」
 「彼は俺が殺した」
 「―――嘘です、赤城様は逃げると仰いました」
 「嘘ではない、俺に夢を語って、勝手に生きて、――死んだ」
 「……ッ!?」

 姉妹は動揺し、同時に目を合わせる。

 「…そんな、…まだその時じゃないって…」
 「――菘、潮時です、恐らく赤城様はここを起点と見たのです、退きましょう」

 彼女達は悲しさを堪え、冷静に事を運び撤退する。
 洋助もまた、灯を抱えている以上無理な戦闘を望まず、それを見逃す。

 「赤原さん、赤城様が貴方に語った言葉、それは全て真実であり、決して道を外れた物ではありません、それを理解しているのなら、貴方なりの行動でそれを示してください」
 「―――わかっている、つもりです…」

 その別れ際、芹は赤城の大義を確認する。
 彼女の目元には涙が流れ、赤城の死を理解し、受け入れていた。

 「俺なりの行動で…か、いったい、それは…」

 遠くなる天草姉妹を見つめ、その答えを模索する。
 洋助は行動するための決意と覚悟を備えた、しかし、その方法は未だ不明瞭であり、皆を守るためにどうすればよいのか、悩み、考えた。


 ――こうして、赤城の死によってこの戦いは幕を下ろした。


 今回の任務で裏切った六名の神威の巫女うち、四名の捕縛に成功。
 残り二名となる天草姉妹に関しては、篝火の残党勢力として依然捜索中となり、その消息は不明である。

 さらに、篝火の後ろ盾となる組織の存在、未だ残る巫女の脅威から夜叉巫女部隊は予断を許されない状況であった――。

 ―――
 ――

 「―――以上が、大まかな報告書かな」
 「そっか…大変、だったんだね…洋助くん」

 自室でパソコンを操作し文書を読む洋助。
 隣には定位置となる雪が近くで座り、距離を縮める。

 「灯さんが結構酷い怪我してるから、今度お見舞いでも行こうか」
 「うん…そう、だね…」
 「―――?…雪、どうかしたか?」

 肩に寄り添い、悲しげな表情の雪は元気が無い。
 それを不思議に思い、雪の頬に手を置いて顔を見る。

 「洋助くんは…人を、斬ったんだね」
 「―――あぁ…そうだな、嫌いになった?」
 「…いつか、こんな日が来ると思ってたから覚悟はあった、けど、やっぱり悲しいし辛いよ、どうして洋助くんばかりが嫌な役目を押し付けられるの…」

 頬に置いた手に、雪の柔らかくもしっかりとした手が重なる。
 その温かく優しい手に安心し、洋助は気持ちを吐き出す。

 「皆を守るためには、時に非情になり、手を汚す覚悟もしなければならない、俺は今回の戦いでそれを思い知った」
 「けど…それじゃ…洋助くんがあまりにも不憫で、可哀想だよ…」
 「――確かに、辛い時も悲しい時もある、けど、その時にいつだっていてくれるのは雪、君がいるから俺はこの大望に挑める、だから本当に大丈夫なんだ、雪さえいれば」

 重ねた手はいつしか指が絡まり、その繋がりを厚くする。
 それはお互いが離れぬよう、忘れぬように深く深く刻むように。

 「―――ぁ」

 そして洋助は雪を押し倒すと、その優しさに甘えるよう口付けをするのであった――。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...