55 / 79
撃滅の夜叉兵編
十二話
しおりを挟む走る洋助、一刻も早く赤城を捕らえ灯の加勢に赴く、彼の心情はそれでいっぱいであった。
「赤城ッ!!」
重い鋼鉄のドアを蹴飛ばし、裏口に続く地下駐車場へとたどり着く。
そこには、和装を着て腰に刀を携えた翁面を被った男、赤城幸助がいた。
「来たか…」
「大人しく投降しろ、お前の仲間は今交戦中で助けは来ない、諦めろ」
刀を向け、本気の殺気を纏って警告する洋助。
それを感じ取る赤城は、相変わらず飄々として語る。
「洋助、お前は皆を助ける、その想いで戦っているな?」
「――何を、いきなり…」
「その想いが本気なら、今の朧の方針が本当に正しいか疑問に思わないか?そして奴に利用されている巫女が哀れに見えないか?」
淡々と続ける赤城は、決して命乞いや時間稼ぎで話している訳ではない、その翁面の奥に見える瞳の真剣さがそれを物語っていた。
「大厄の正体、それを知っているな?」
「そ、それは…」
「朧の言う通り大厄は神の遣い、故に神力の代償として無垢な命は日々奪われる、……それも、朧が死者数を管理している、大厄対策本部などと言う組織を使って」
赤城の話す内容は酷く説得力があり、洋助の知り得る事実と重なる。
だからであろう、一刻を争うこの状況においても、彼の言葉に耳を傾けてしまうのは。
「朧はな、洋助?大厄を討ち続けた先に顕現する恐ろしい力に怯え、民の命を道具の様に投げ捨て大厄の出現を抑えている、これは許されることか?」
「う、うるさいっ…」
「そもそも神力を神に還せば大厄は現れず、巫女もまた存在しない、故に無駄な血は流れず巫女という業に縛られた少女も居なくなる、素晴らしい事じゃないか?」
その言葉は確かに正論であり、否定は出来ない。
だが、それでも間違っている事はある。
「例え…その目的が正しくとも、方法が間違っているッ!お前だって人を殺して自分の考えを押し付けているッ!!」
「……そう、だな、死人の数は違えど、本質は一緒かもしれんな…」
反論される赤城は驚く程素直に、自身の矛盾を認める。
「だが、洋助、……これはより多くの命を救うための偉業、僕も、皆を守りたかった、ただそれだけさ…」
「赤城…、お前は、なにを…」
その男は、掲げた目標の為に生き方を間違えたある青年の可能性。
故に、洋助はその姿に酷い嫌悪感を覚え、激怒する。
「勝手に、…勝手な事ばかりやって、皆を…守りたいだとッ!?ふざけるなッ!!」
「そうだ、自分勝手にやってそれがこのざまだ、……だから、俺を乗り越えて先の未来を見せてくれ、洋助」
そして、赤城は抜刀すると無謀にも斬りかかる。
死に往く彼を、怒りで血液が沸騰する熱さで迎え撃つ。
「赤城ッ!!お前はッ!!何がッ…何をしたかったんだッ!!」
「――これが俺の答えだ、……僕は、俺が目的を果たすために十年以上前から準備していたッ!!そして今、それが成就されるッ!」
刀を振り言い放つ赤城は、剣聖と並び称されてもおかしくない技量を持つ。
しかし、いかな達人であろうと相手は人外の力を持つ洋助、その切先は躱され、終わりを迎える。
「ふざけるなッふざけるなッふざけるなッふざけるなッぁぁぁ!!!!」
子供じみた怒り方で、がむしゃらに刀を弾く洋助。
その怒りは赤城に対してでもあり、なにより、この巫女を取り巻く環境が歪んでいる事に対しての怒り。
――だからこそ、決断し、答えをはっきりと見つけなければならない。
気付けば、洋助の持つ刀は赤城の心臓を突き刺し、赤い血が垂れ流されていた。
「―――俺は、間違わない、そして後悔も矛盾もしないッ…」
「……それでよい、お前は、自分の答えを必ず見つけてこの世界を変えてくれ、民の為にも、巫女の為にも……」
ぐったりと倒れる赤城は、静かに息を止める。
その顔は翁面で隠れて見えず、覗く瞳だけが安らかに閉じていたのであった――。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる