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撃滅の夜叉兵編

八話 

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 篝火の先導者、赤城幸助の行方不明から一週間。
 赤城の護送に関わりながら、それに失敗した責任を感じる洋助は篝火に関する情報を待っていた。

 「――……」

 しかし、大厄撃破に専念させるためか篝火の動向を知る事は無く、洋助は一人取り残される感覚に陥っていた。
 そのため朧に直接話を訊こうと強引に赴くが、警備を担当する巫女に止められる。

 「――赤原さんッ!?何をしているのですかッ!!」
 「朧様に会う、通してくれ」
 「無理ですよッ!面会の許可が無ければ通せません、諦めてくださいッ!?」
 「そうか……すまない」

 年下である巫女は刀を抜く寸前であり、それを見て一瞬諦める素振りを見せる。
 が、それはフェイントであり、油断した巫女は手を後ろに回され帯刀した刀を奪われる。

 「……え?」

 何が起きているか理解できず、巫女は呆然とする。
 気付けば自分の刀を壁に突き刺され、その防刃コートを貫かれ動きが固定される。

 「悪い、少しこのままでいれくれ」
 「な、なにを…待ちなさいッ!」

 呼び止めにも応じず走る洋助、もはや重大な軍規違反であるが覚悟を決める。

 「朧様ッ!お話がありますッ!!」

 たどり着くは朧の執務室であり書斎である部屋。
 それを勢いよく開けて叫ぶ洋助は、煙管を咥える朧に睨まれる。

 「どうした騒々しい…何か用かえ?」
 「朧様…先の任務の失敗は申し訳ありませんでした…、しかし、その対応となる人事異動を含めてお話があります!」
 「――ふむ…相も変わらず暑苦しい奴じゃな…が、まぁよい」

 カンっ…と煙管を火鉢に打ち付けて振り返る。
 その美しい足を組み、はだけた着物から見える脚線美は非情に魅力的である。

 「まず、篝火に関する情報を知っている事で構いませんので教えてください、赤城を逃がした失敗を取り返す為にも、俺にこの件任せて頂きたいです」
 「―――ほう…?」

 朧の妖艶な魅力すら届かないほど、洋助は必死に打診する。
 その様子を悪童のように見つめる朧は、酷く愉快そうに反論する。

 「しかしなぁ…洋助?お主は先の戦いで人を斬る事に躊躇っていたと聞くぞ?」
 「それ、は…」
 「お主に斬れるのか?相手が巫女であっても?」
 「――ッ…き、きれ、ます…」

 そう口にするが、手は震え呼吸が乱れる。
 なんと情けない姿だと、見るに堪えず朧は檄を飛ばす。

 「笑止千万ッ!そんなか弱い意志で何が斬れるッ!?下がるがよいッ」

 一喝され、たじろぐ。
 
 だが、皆を守ると誓った以上その被害を広めてはならない、機動部隊として役目を果たした犠牲者の死を無駄にしないためにも。

 「俺は、斬りますッ!!」
 「甘いわっ、左様な力で何が出来る、大人しく大厄を狩っていればよい」
 「―――なら、試しますか?」

 ――――瞬間、空気が凍る。

 紛うことなく纏うは殺気と神力、その二つが空気を震わせ、冷たくする。
 洋助に宿る蒼き神力が瞳から漏れ、その輝きは鬼神の如き形相であった。

 「っは……悪くは無い…じゃが…ちと生意気が過ぎるぞ?」

 思わず感心する朧は、身を乗り出し、―――構える。

 「―――がはッ…!?」

 その僅か一瞬、洋助は吹き飛ばされ書斎に激突して倒れる。
 本棚はへし折れ、重い資料がバタバタとなだれ落ちて埋もれる洋助。

 「がぁッ!…っぐ……!?」

 立ち上がろうともがくが、身体は痺れて動かない。
 必死に喘いで息を整えようにも、その呼吸の仕方を忘れるほどの激痛と痙攣、更には纏った神力が剥がされる様に霧散する。

 「……これは駄賃だ、くれてやる、良い授業料じゃろ?」
 「―――はぁッ…ッぐ…」

 徐々に体の感覚が戻り、本の山からなんとか抜け出す。
 そして、ゴミを見る目で見下され、朧は最後の機会を与える。

 「つい先ほどじゃ、篝火の拠点を突き止めた」
 「……え?」
 「新設した対巫女を想定した部隊、――夜叉の巫女、彼女らと共に拠点を叩き、赤城の捕縛、及び殺害をせよ、よいな?」

 それは、朧の慈悲でもあり、厳しさの表れ。

 ボロ雑巾の如き有様の洋助は、与えられた戦場を刻んで赤城との決着をつけに往く。
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