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撃滅の夜叉兵編
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「そも…お主は大厄をどう考える?洋助」
「――ぇ…と、そうですね、人に危害を加え、その正体も不明な天災…」
「そう、それじゃ、何故、あ奴らは人に危害を加えるか、そう考えた事はないか?」
「それは、人が憎いから…、或いは彼らなりの侵略行動、かと…」
考えを聞き、少し眉をひそめて足元の扇子を拾う朧。
「なるほど、ありふれた推論じゃな」
「…では、他に理由があるのですか?朧様はそれを知っているのですかっ!」
仮に、不老不死と呼ばれる彼女が大厄の全てを知っていたとすれば、この何百年それを隠していた、もしくは言わなかった事になる。
その事実が頭をよぎり、洋助は前のめりになって問い詰める。
「単刀直入に言おう、大厄とは神の遣い、いわば我々人が崇めるべき存在じゃ」
「――は…?」
何を、言っているのか理解できず、間の抜けた声がでる。
「そんな…、神の遣いというなら、なぜッ!?人を襲うのですッ!?」
「洋助…、あれらと戦い見てきたならわかるはずじゃ…、本当に大厄は人を無意味に襲っていたか?お主の父母がどうなったか覚えておらぬか?」
「なにを、そんな…」
閉ざしていた記憶の片隅に、確かにそれは刻まれている。
人に危害を加え、襲う、大厄はそう言い伝えられていたが、不自然な点は確かにある。
「苦難、惨苦…、これらは人を襲う、――じゃが…その寸前に大厄はどうしていた?」
「それは…それ、は…」
身に覚えがある、襲ってくる大厄は確かに物理的な行動を起こしこちらに危害を加える、だが、その命を奪うとき、その姿形は変化していた。
「あれらは…、大厄は、命を奪うのではなく、還すのだ…あるべき所へ」
人を無力化し、動けなくして、その蒼い炎で浄化し消滅させる。
そのために大厄は自らの身体を分解し、炎として人を劫火で焼き尽くす、かつて見た両親の死に様は確かにそうであった。
「――でも、なんで…そんな、そんな事を…」
「分からぬか?お主が使っている力は何だ?科学がもたらしたものか?それとも人間が進化した故の力か?」
「――神力ッ…これも神の御神託…」
「そうじゃ…、もう答えは明白じゃろ?」
では、仮にそうであれば、――非情な予想が考えられる。
その結論を口にしようとするが、恐ろしさに洋助は震える。
「なぁ…?洋助?お前、一度死んでおるじゃろ?」
「――は…」
「言わなくても分かる“向こう側”を見たのだろう?」
一つ、思い当たる情景。
それは今でも夢に見る、水底で見た孤独な社、そして真っ白な世界。
「儂はな、洋助、…お主を気に入っており、また少し疎んじてもおる、それは向こう側と繋がっておりながら、何故その力の使い方を間違っておるのか、そう思ってしまうからじゃ」
「俺、は…」
「今は理解せずとも良い、だがそれを理解し、儂と共に正しい道を歩んではくれぬか?さすればこの日ノ本、後の世まで安寧が約束されよう」
その言葉が意味するは、つまるところ生贄の選出であり、人の生を否定する事。
「神力を……、維持するために大厄に人の命を喰らわせるんですかッ!?」
「それも必要な犠牲、堪えろ、洋助」
――神から授かり神力、その代償は人の命である。
故に大厄はその代償を求め、神に代わり人の世からその命を奪いに来る。
洋助が本部に所属してからは、大厄被害者が激減した事によってその命が減り、神も少しずつその代償を求め、寄越す遣いである大厄を強力にしていく、それが大厄の正体であった。
「なぜ神力を神に返さないんですッ…!これがなければ――」
「小僧がッ!!知った口を聞くなッ!!」
怒号が飛ぶ、その威圧だけで空気が揺れる。
今にも切り殺されそうな雰囲気に吞まれながらも、彼は屈しない。
「この四百年…四百年じゃッ!!日ノ本は戦国の混沌から脱し、血で血を洗う歴史からようやく抜け出した…かと思えば、今度は海の向こうから日ノ本を狙おうと戦禍が起きた…、神力が無ければその被害はもっと酷かったであろう、今の諸外国からのこの立場を得ているのはひとえに巫女の、神力のおかげであるッ!それを何故手放すッ!!」
朧の背には、気が遠くなる程の歴史が背負われ、そしてその言葉もまた正しい。
だが、それでも、洋助には納得できなかった、人の身でありながら命を選別するように投げ捨て、巫女のみが持つ神力を存続させてきた事を。
「わかりました…、朧の様の考えも、これからのこの国未来も」
「―――っ…そう、か…」
「ですので、俺からも提案させて頂きたい」
「申せ」
拳を握り、覚悟を決める。
「朧様のおっしゃる案件、何であれ謹んでお受け致します、その中で大厄と神力の意味をまた見つけていきたいと思っております、そして――」
震えは止まり、その瞳は真っ直ぐと、彼女を写す。
「これから来る大厄は俺が打ち払います、それが艱難辛苦だろうが、それ以上の存在であってもその全てを討ち滅ぼし、撃滅致しましょう」
不老不死、原初の巫女、そして剣士としても格上である相手を前に、大見得を切る。
「――はっははっ!!これは面白い、大した傑物よな洋助!!」
「……恐縮であります」
「よい、ならば見せてみろ、儂ですら成し得ない大業をこなしてみよっ」
頭を下げ、その場を後にする洋助は生きた心地がしなかった。
その後ろ姿を見届ける朧は、心から笑った感覚を懐かしみ、宝刀桜花紫電を仕舞う。
「――励めよ」
そう言い残し、朧は静かに煙管を咥え、黄昏の表情で煙を吐いたのであった――。
「――ぇ…と、そうですね、人に危害を加え、その正体も不明な天災…」
「そう、それじゃ、何故、あ奴らは人に危害を加えるか、そう考えた事はないか?」
「それは、人が憎いから…、或いは彼らなりの侵略行動、かと…」
考えを聞き、少し眉をひそめて足元の扇子を拾う朧。
「なるほど、ありふれた推論じゃな」
「…では、他に理由があるのですか?朧様はそれを知っているのですかっ!」
仮に、不老不死と呼ばれる彼女が大厄の全てを知っていたとすれば、この何百年それを隠していた、もしくは言わなかった事になる。
その事実が頭をよぎり、洋助は前のめりになって問い詰める。
「単刀直入に言おう、大厄とは神の遣い、いわば我々人が崇めるべき存在じゃ」
「――は…?」
何を、言っているのか理解できず、間の抜けた声がでる。
「そんな…、神の遣いというなら、なぜッ!?人を襲うのですッ!?」
「洋助…、あれらと戦い見てきたならわかるはずじゃ…、本当に大厄は人を無意味に襲っていたか?お主の父母がどうなったか覚えておらぬか?」
「なにを、そんな…」
閉ざしていた記憶の片隅に、確かにそれは刻まれている。
人に危害を加え、襲う、大厄はそう言い伝えられていたが、不自然な点は確かにある。
「苦難、惨苦…、これらは人を襲う、――じゃが…その寸前に大厄はどうしていた?」
「それは…それ、は…」
身に覚えがある、襲ってくる大厄は確かに物理的な行動を起こしこちらに危害を加える、だが、その命を奪うとき、その姿形は変化していた。
「あれらは…、大厄は、命を奪うのではなく、還すのだ…あるべき所へ」
人を無力化し、動けなくして、その蒼い炎で浄化し消滅させる。
そのために大厄は自らの身体を分解し、炎として人を劫火で焼き尽くす、かつて見た両親の死に様は確かにそうであった。
「――でも、なんで…そんな、そんな事を…」
「分からぬか?お主が使っている力は何だ?科学がもたらしたものか?それとも人間が進化した故の力か?」
「――神力ッ…これも神の御神託…」
「そうじゃ…、もう答えは明白じゃろ?」
では、仮にそうであれば、――非情な予想が考えられる。
その結論を口にしようとするが、恐ろしさに洋助は震える。
「なぁ…?洋助?お前、一度死んでおるじゃろ?」
「――は…」
「言わなくても分かる“向こう側”を見たのだろう?」
一つ、思い当たる情景。
それは今でも夢に見る、水底で見た孤独な社、そして真っ白な世界。
「儂はな、洋助、…お主を気に入っており、また少し疎んじてもおる、それは向こう側と繋がっておりながら、何故その力の使い方を間違っておるのか、そう思ってしまうからじゃ」
「俺、は…」
「今は理解せずとも良い、だがそれを理解し、儂と共に正しい道を歩んではくれぬか?さすればこの日ノ本、後の世まで安寧が約束されよう」
その言葉が意味するは、つまるところ生贄の選出であり、人の生を否定する事。
「神力を……、維持するために大厄に人の命を喰らわせるんですかッ!?」
「それも必要な犠牲、堪えろ、洋助」
――神から授かり神力、その代償は人の命である。
故に大厄はその代償を求め、神に代わり人の世からその命を奪いに来る。
洋助が本部に所属してからは、大厄被害者が激減した事によってその命が減り、神も少しずつその代償を求め、寄越す遣いである大厄を強力にしていく、それが大厄の正体であった。
「なぜ神力を神に返さないんですッ…!これがなければ――」
「小僧がッ!!知った口を聞くなッ!!」
怒号が飛ぶ、その威圧だけで空気が揺れる。
今にも切り殺されそうな雰囲気に吞まれながらも、彼は屈しない。
「この四百年…四百年じゃッ!!日ノ本は戦国の混沌から脱し、血で血を洗う歴史からようやく抜け出した…かと思えば、今度は海の向こうから日ノ本を狙おうと戦禍が起きた…、神力が無ければその被害はもっと酷かったであろう、今の諸外国からのこの立場を得ているのはひとえに巫女の、神力のおかげであるッ!それを何故手放すッ!!」
朧の背には、気が遠くなる程の歴史が背負われ、そしてその言葉もまた正しい。
だが、それでも、洋助には納得できなかった、人の身でありながら命を選別するように投げ捨て、巫女のみが持つ神力を存続させてきた事を。
「わかりました…、朧の様の考えも、これからのこの国未来も」
「―――っ…そう、か…」
「ですので、俺からも提案させて頂きたい」
「申せ」
拳を握り、覚悟を決める。
「朧様のおっしゃる案件、何であれ謹んでお受け致します、その中で大厄と神力の意味をまた見つけていきたいと思っております、そして――」
震えは止まり、その瞳は真っ直ぐと、彼女を写す。
「これから来る大厄は俺が打ち払います、それが艱難辛苦だろうが、それ以上の存在であってもその全てを討ち滅ぼし、撃滅致しましょう」
不老不死、原初の巫女、そして剣士としても格上である相手を前に、大見得を切る。
「――はっははっ!!これは面白い、大した傑物よな洋助!!」
「……恐縮であります」
「よい、ならば見せてみろ、儂ですら成し得ない大業をこなしてみよっ」
頭を下げ、その場を後にする洋助は生きた心地がしなかった。
その後ろ姿を見届ける朧は、心から笑った感覚を懐かしみ、宝刀桜花紫電を仕舞う。
「――励めよ」
そう言い残し、朧は静かに煙管を咥え、黄昏の表情で煙を吐いたのであった――。
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