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撃滅の夜叉兵編
一話 二年後
しおりを挟む――二年後、戦いの形態は大きく変化していた。
『首都高速において大厄が発生、―――カテゴリ…艱難辛苦ッ!?』
およそ三十台前半には巫女はその神力を失い、一般的な生活を許され始める。
その神力を失う兆候は、二十代後半に徐々に神力は弱くなり、青色の神力が薄く輝いてくる。
『一番隊を現地に手配ッ…別任務中の特殊遊撃部隊にも援軍要請中となりますッ』
よって、戦いの全盛と言える年代は神力と剣技の技術が伴う十代後半から二十代前半、どれだけの才能があろうとこれだけはどんな巫女も抗えず、数年で部隊の編成が変わる事は珍しくなく、うら若き乙女たちはそのかけがえのない時間を捧げていく。
『――こちら一番隊……ダメですッ!?艱難辛苦が止まりませんッ、至急応援をッ…きゃぁぁぁぁぁ!?』
だが、この絶対的な法則から外れた兵が一人、存在した。
『一番隊戦巫女ッ!?応答してくださいッ!?――指令ッ!?渡り巫女からも現場のサポートを要請しますっ…このままでは…ッ』
二年という月日が、その青年の圧倒的な実力を開花させる。
「――こちら管制室、総司令の権限を持って命ずる、特殊遊撃部隊赤原洋助、直ちに符術による空間転移で現場へ向かえ」
『指令ッつ!?単独での符術による空間転移は未だ安定せず、危険ではッ…』
渡り巫女の心配をよそに、その男は力強く返答した。
「――指令、了解致しました、座標情報を送ってください、……それと、渡り巫女の方々もありがとうございます、必ず皆を守ってきますので、安心してください」
モニターに映るは首都高速で起きている艱難辛苦による襲撃の瞬間、そして――。
「座標確認、行きますッ!!」
懐から大量の符を散らし、陣を形成する洋助。
本来、空間転移は大量の神力と神威の巫女達が管理する神社の力場によって成立する、が、この男は強引ともいえる神力の操作と、予め用意した簡易符術陣形による荒業で転移しようとしている。
「うおぉぉぉぉッ!!!」
こじ開ける勢いで符を操作すると、向こう側の景色が見えてくる。
その瞬間を狙い、洋助は飛び込む。
『洋助さんの反応、消えましたッ!?』
「直ぐに反応を追えッ!」
モニターと生体反応から消えた洋助に驚きながら、渡り巫女達は符術を用いてあらゆる景色を捜索する。
すると、ありえない場所でありえない物を見たような顔をして、一人の渡り巫女が報告する。
『――あ、赤原さんを……発見、しましたッ……ただ…艱難辛苦の上空ですッ!?上空800メートル、…只今700メートルの高さに居ますッ!?』
「何ッ!?出現座標を誤ったかッ!?」
管制室から悲鳴のような声が聞こえる中、当の本人は酷く冷静であった。
「―――」
頭から落下し、冷たい風が体を叩きつける。
徐々に近づいてくる地上の風景、そこには禍々しき空気を漂わせ、蒼い炎を纏う艱難辛苦が大太刀を振りかざし、巫女を襲おうとしていた。
「――ッ、はぁぁぁ!!」
視界に艱難辛苦を捉えると、体勢を変え抜刀する。
そして、青い、とても鮮やかで濃い蒼を纏い、洋助は艱難辛苦に激突する。
『―――赤原部隊員、艱難辛苦と衝突……、生死は、不明――』
その光景は、粉塵と大厄から流れる蒼き炎の揺らめきで分からずにいた。
上空から艱難辛苦と激突し、爆発を伴う衝撃で生きているのは絶望的に見えた、そう、見えていたのだ、だが――。
「だああああぁぁッ!!!!」
粉塵を切り裂き、半壊している艱難辛苦が洋助と斬り合いながら姿を現す。
『――生きていますッ…、赤原さん生存っ、艱難辛苦と交戦中ッ!』
「…よし、一番隊を戦線から離脱させろ、負傷した者は帰還させ、戦えるものは周りの苦難、惨苦の相手をさせよ、随時被害状況も報告せよ」
本部の体制が決まりつつある中、単騎で突っ込んだ洋助は激戦を繰り広げる。
「――ウォォォ…!!」
地の底から轟く唸りは、艱難辛苦の炎の揺らめき。
落下の勢いで切り裂き、鎧は砕かれ、血となる炎も噴き出し爛れ続ける。
だがそれでも、戦いの狂気は残り続け、兜から垣間見る赤い瞳孔は洋助を捉える。
「うぉぉぉッ!!」
もはや、あの時とは違う。
洋助の神力は二年前の大規模な大厄の侵攻から、依然として強くなり続けている。
そして剣技も、格闘も、更には符術ですら習得した彼に死角などなかった。
「―――滅びろッ」
黒鉄の刀が、蒼い炎を切り裂いて右腕を落とす。
もがき苦しむ艱難辛苦は、火事場の馬鹿力と言わんばかりに残った片腕でその大太刀を振り回す、その様は削岩機が如く間合いにある全ての物を巻き込み破壊する。
このままでは避難している巫女も危ない、そう判断すると洋助はその大太刀の間合いに入り、荒れ狂うそれを止めに入る。
「っぐ…」
一撃目を躱し、残った片腕を切ろうとするが大太刀は生きた蛇の様に追撃する。
すかさずそれを弾く、が、流石に体格差と得物の大きさが違い、吹き飛ばされ精彩を欠く着地をする。
「ウォォォッ!!ォォォ……ッ!!」
その着地を狙い、艱難辛苦は特攻めいた追撃に繋げる。
もはや獣の如き姿と成り果て、大厄とも呼べぬ醜い獣となったそれを、静かに迎え撃つ。
「来い……終わりにしよう…」
振りかざす大太刀を、落ち着き払った剣戟で切り返す。
――ガキンッ…!!
その大太刀は二つに折れ、間合いが短くなった刀身に脅威は無くなる。
もはや攻撃の手段が無くなった艱難辛苦に、最後の一撃となる縦一閃の斬撃を食らわせ、止めを刺す。
「―――はぁ…」
振り抜いた刀を下げ、呼吸をする。
背後で炎を撒き散らし、霧と化して消滅する大厄を見もしない洋助は、まさに撃滅の兵であった。
「艱難辛苦の撃破を完了しました、残党の討伐に合流します」
『ぁ、……お願いします』
戦巫女の環境は、大きく変わった。
この二年で急成長した洋助は、その実力を遺憾なく発揮し主力以上の力を見せ付けた。
今までは前線を張っていた一番隊を中心に、他部隊との連携で機能していた戦巫女だったが、いまや形を変えて洋助を始めとした特殊遊撃部隊を中心に回っていた。
その要因は洋助の実力に寄る物も大きいが、もう一つ、大厄側の要因もある。
「二年前に艱難辛苦が出現してからこれで三体目…、か…」
およそ半年に一度のペースで出現する艱難辛苦、この存在が洋助の存在に依存する要因である。
現在、単騎で艱難辛苦を撃退できるのは洋助のみ、また、それに匹敵する実力を持つのも遊撃部隊の灯と焔、そして一番隊隊長の雪となるため、戦巫女の戦闘態勢の変更は余儀なくされた。
この現状に、一石を投じる者があるとすればそれは――。
「洋助……再び悲劇を、…惨劇を繰り返すつもりかの…困ったものじゃ…」
――朧、彼女はこの二年、静観していた。
が、ここから巫女を取り巻く環境は変わり、運命は動き出そうとしていた。
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