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卒業試験決着編
―――2
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―殴打。
「がはッ…」
――殴打。
「っつ……」
―――そして、殴打。
その勢いは徐々に茜が優勢となり、奇しくも昔の修行風景が描かれる。
「…はぁっ…はぁっ…どうした?この程度か?まさか神力が使えないから勝てないって事は無いよな?」
「―――もちろんッ…です…」
打ち込まれた打撃が、徐々に身体に響いてくる。
身体は軋み、剣戟にもわずかな鈍さが現れてくる、その影響は大きくはないが確実に拳を打ち込まれる隙となる。
「――洋助くん…」
心配そうに見守る雪が、名前を小さく呟く。
同時に、仕切り直された間合いが詰められ、決着の時が近付く。
「はぁぁぁッ!!」
「だぁッ!!」
呼応する叫び。
両者の切っ先は神速で交わり、その速度は増していく。
ッィィン……ッィン…キィン…!!
火花が、――散る。
もはや心地良さすら覚える残響は、試験などという枠を超えて本気の斬り合いと化していた。
「―――取ったッ!!」
確信したのは茜。
度重なる打ち合いを先に制して、弾きを重ね姿勢を崩した洋助に止めの一撃を叩き込もうとする。
「………ぁ」
その挙動を見て、洋助に一つの可能性がよぎる。
それは稽古の際に何度もよく見た一撃、故に、次の挙動は決まっており――。
「はぁッ!!」
崩れた体勢であったとしても、それを躱し、返す事が――出来た。
「そこまでッッつ!!」
激昂するが如く響く掛け声、それは立ち合い人である雪のもの。
その瞬間ピタリ、と二人の動きは止まり、息を切らして間合いは開かれる。
「―――はぁ~……教え子に負けるか、まぁ…、悪い気はしないな」
本気で悔しがるが、その顔は清々しい笑顔を浮かべ汗をかく。
「……はぁッ!……はぁ…!……はぁ…」
洋助は止めていた呼吸を再開するのに必死で、言葉は出ず、片膝を着いて肩で息をする。
「…なんだ情けない、こんな巫女一人相手にしただけでお手上げじゃ、これから先何も守れないぞ?」
「…はぁ…っ…わかっては、…います…ですが、やはり茜先生は流石です、他には無い確かな技術と強さがあります…」
「はいはい、ありがとな…まぁ、とりあえずはおめでとう、洋助」
茜は懐から煙草を取り出して、火を着ける。
いつもの縁側まで移動し、穏やかな日差しに晒されて、煙を吐く。
「洋助くん…血が…ちょっと待ってて」
「あ、ごめんな雪、これぐらいなら別に…」
戦闘中に刀が頬を掠め、血を流して染まる。
優しい手つきで雪はハンカチでそれを拭い、手持ちの絆創膏で止血する。
「帰ったら楓さんに怒られるな、こりゃ…」
「なんだったら私も怒ってる、洋助くんはもっと身体を大事に立ち回った方がいいよ…どうしていつも前のめりの戦いをするの…?」
「……うーん、必死だからなぁ、あんまり考えた事ないな…」
「はぁ…、やっぱり私が立ち合いして良かったよ…」
頭が痛くなりながら、雪は手当を終える。
と、茜は二本の筒を両手に持って戻り、一本は洋助の頭を叩いて渡し、もう一本を雪の手元に優しく渡す。
「ほれ、少し荒々しい式になったが、お前たち、おめでとう…」
それは卒業証書、少しだけ華やかな意匠が施された巫女に相応しい筒であった。
「お前たちは巫女教育機関関東支部において、全ての課程を修了したことを証明する、改めておめでとう、巴雪…、そして赤原洋助」
「茜さん…ありがとう、ございます…」
「先生…、ありがとうございますっ!」
せめて人らしく、それを第一にしてきた茜の卒業式。
それは慎ましく、だが確かな気持ちが込められ執り行われた。
「いいか、お前たちは巫女である以前に一人の人間だ、辛いことも悲しいことも確かにある、だがそれを巫女であるからと抱える事はない、それを忘れるなよ、まぁ…と言っても洋助は厳密には巫女ではないし、一人で突っ走るだろうがな」
苦笑いで語り、雪を見据える。
「だからな、…雪、お前が洋助をちゃんと見てやれ、そして雪もまた洋助を頼りなさい、これが世話焼きな私が言える最後の助言だ…」
「……はいっ!」
満足して灯は頷き、そして洋助に視線を移す。
「そして洋助、お前の皆を守りたいという夢、それはきっと身に余る大望なのかもしれない、けど、けどな…、私はもしかしたら、お前ならやってくれるかもしれない、そんな気がしてならないんだ」
「――はい」
「だから、――守り切れ、その夢も、人も、そして雪を守って幸せになってくれ、それが私が望む願いだ、できるか?」
「――はいッ!任せて、くださいッ!!」
確かな誓いを胸に、また一つ少年は想いを刻み、そして成長していくのであった――。
「がはッ…」
――殴打。
「っつ……」
―――そして、殴打。
その勢いは徐々に茜が優勢となり、奇しくも昔の修行風景が描かれる。
「…はぁっ…はぁっ…どうした?この程度か?まさか神力が使えないから勝てないって事は無いよな?」
「―――もちろんッ…です…」
打ち込まれた打撃が、徐々に身体に響いてくる。
身体は軋み、剣戟にもわずかな鈍さが現れてくる、その影響は大きくはないが確実に拳を打ち込まれる隙となる。
「――洋助くん…」
心配そうに見守る雪が、名前を小さく呟く。
同時に、仕切り直された間合いが詰められ、決着の時が近付く。
「はぁぁぁッ!!」
「だぁッ!!」
呼応する叫び。
両者の切っ先は神速で交わり、その速度は増していく。
ッィィン……ッィン…キィン…!!
火花が、――散る。
もはや心地良さすら覚える残響は、試験などという枠を超えて本気の斬り合いと化していた。
「―――取ったッ!!」
確信したのは茜。
度重なる打ち合いを先に制して、弾きを重ね姿勢を崩した洋助に止めの一撃を叩き込もうとする。
「………ぁ」
その挙動を見て、洋助に一つの可能性がよぎる。
それは稽古の際に何度もよく見た一撃、故に、次の挙動は決まっており――。
「はぁッ!!」
崩れた体勢であったとしても、それを躱し、返す事が――出来た。
「そこまでッッつ!!」
激昂するが如く響く掛け声、それは立ち合い人である雪のもの。
その瞬間ピタリ、と二人の動きは止まり、息を切らして間合いは開かれる。
「―――はぁ~……教え子に負けるか、まぁ…、悪い気はしないな」
本気で悔しがるが、その顔は清々しい笑顔を浮かべ汗をかく。
「……はぁッ!……はぁ…!……はぁ…」
洋助は止めていた呼吸を再開するのに必死で、言葉は出ず、片膝を着いて肩で息をする。
「…なんだ情けない、こんな巫女一人相手にしただけでお手上げじゃ、これから先何も守れないぞ?」
「…はぁ…っ…わかっては、…います…ですが、やはり茜先生は流石です、他には無い確かな技術と強さがあります…」
「はいはい、ありがとな…まぁ、とりあえずはおめでとう、洋助」
茜は懐から煙草を取り出して、火を着ける。
いつもの縁側まで移動し、穏やかな日差しに晒されて、煙を吐く。
「洋助くん…血が…ちょっと待ってて」
「あ、ごめんな雪、これぐらいなら別に…」
戦闘中に刀が頬を掠め、血を流して染まる。
優しい手つきで雪はハンカチでそれを拭い、手持ちの絆創膏で止血する。
「帰ったら楓さんに怒られるな、こりゃ…」
「なんだったら私も怒ってる、洋助くんはもっと身体を大事に立ち回った方がいいよ…どうしていつも前のめりの戦いをするの…?」
「……うーん、必死だからなぁ、あんまり考えた事ないな…」
「はぁ…、やっぱり私が立ち合いして良かったよ…」
頭が痛くなりながら、雪は手当を終える。
と、茜は二本の筒を両手に持って戻り、一本は洋助の頭を叩いて渡し、もう一本を雪の手元に優しく渡す。
「ほれ、少し荒々しい式になったが、お前たち、おめでとう…」
それは卒業証書、少しだけ華やかな意匠が施された巫女に相応しい筒であった。
「お前たちは巫女教育機関関東支部において、全ての課程を修了したことを証明する、改めておめでとう、巴雪…、そして赤原洋助」
「茜さん…ありがとう、ございます…」
「先生…、ありがとうございますっ!」
せめて人らしく、それを第一にしてきた茜の卒業式。
それは慎ましく、だが確かな気持ちが込められ執り行われた。
「いいか、お前たちは巫女である以前に一人の人間だ、辛いことも悲しいことも確かにある、だがそれを巫女であるからと抱える事はない、それを忘れるなよ、まぁ…と言っても洋助は厳密には巫女ではないし、一人で突っ走るだろうがな」
苦笑いで語り、雪を見据える。
「だからな、…雪、お前が洋助をちゃんと見てやれ、そして雪もまた洋助を頼りなさい、これが世話焼きな私が言える最後の助言だ…」
「……はいっ!」
満足して灯は頷き、そして洋助に視線を移す。
「そして洋助、お前の皆を守りたいという夢、それはきっと身に余る大望なのかもしれない、けど、けどな…、私はもしかしたら、お前ならやってくれるかもしれない、そんな気がしてならないんだ」
「――はい」
「だから、――守り切れ、その夢も、人も、そして雪を守って幸せになってくれ、それが私が望む願いだ、できるか?」
「――はいッ!任せて、くださいッ!!」
確かな誓いを胸に、また一つ少年は想いを刻み、そして成長していくのであった――。
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