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卒業試験決着編
八話 1
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卒業試験、その言葉を聞いた洋助は首を傾げる。
「茜先生…?卒業、試験、ですか…?」
「そうだ、…なんだ?気付いてなかったのか?お前たち先月にこの教育機関を卒業した扱いになっているんだぞ?」
「あ…そうか…」
雪は手を叩き思い出す、それは大厄との戦いの日々で流していた通達。
茜が言う様に先月、正式に所属が教育機関から戦巫女として移った知らせ、それが意味するは学生としての生活には戻れない現実。
「私達、もう生徒ではなくなったんですね…」
少し寂しくなりながら口にする、それは巫女としての勉学に未練がある訳ではなく、ただ日々の忙しさに押し殺されその事実を忘れた事による寂しさ。
「そうだ、お前たちが立派に務めを果たしている間に皆卒業し、それぞれの道を歩んでいる、…私は、…な、個人的にお前たちにも簡単ではあるがちゃんと卒業式を送ってほしくてな、それで呼んだ訳さ」
心優しい方だと、理解していた。
しかしそれ以上に、その優しさよりも彼女はただ人として、ありふれた幸せを送って欲しい、その願いを込めて彼らに接していた。
「茜、先生…」
「茜さん…」
茜の心中を察し、洋助は静かに返答する。
「茜先生、試験、お受けします」
「おう、洋助ならそう言ってくれると思ったぞ」
すると、おもむろに茜は刀を握り、その刀身を抜く。
「――やはり、そうなりますか」
「…洋助、最後の稽古だ、実戦形式で私と戦え、ただし――」
「ただし、神力を使う事は許可しない――、ですよね?」
「っふ…随分物分かりがよくなった、生意気だな」
軽口を叩く洋助に穏やかな笑顔を向け、初めて彼女は抜刀した刀を構える。
「では、立ち合いは私がしましょう」
雪が二人の中間に割り込むと、相対する洋助も静かに刀を抜き、茜を見据える。
「―――」
息を呑む、そして一瞬の静寂。
茜は薄い、儚さすら覚える神力を纏い、動く――。
「ッは!!」
本気の打ち込み、その刃は真剣であるため両断されれば確実に死ぬ。
前線を退いた巫女とはいえ、その疾い剣戟は通常であれば脅威となる一閃。
――だが、茜が対峙するは死線をくぐり生き抜いた兵であり、そして教え子。
故に、その一閃は見切られ、空を切る。
「やるな洋助!これならどうだッ!?」
茜は仕掛ける、それは自身が最も得意とする体術を織り交ぜた我流の巴流。
基本となる上段からの振り下ろし、それを洋助は刀で弾く。
――ィンッ……!!
と、高く、鋭い鋼鉄の音が響くと、茜は左腕を空けて掌底をみぞおちに叩きこむ。
「ッつ、やはり、こう来ましたか…」
が、その一撃を洋助は予想し、直前で上半身を捻って躱す。
一連の技をいなされ、伸びきった腕を引き戻す瞬間、茜に隙が出来る。
「だぁッ!!」
反撃となる横振り、それは神力を纏わない生身であっても強烈な剣戟。
――瞬間、勝負が決まりそうになり、雪は自身の刀を抜こうと反応しかけた、だが、茜の経験と技術がそれを止める。
「甘いなッ!!はぁッ!!」
「ッな…!?」
洋助には、茜が視界から消えた様に見えた。
それは達人の技、サマーソルトキックと呼ばれる飛び込みの蹴り。
紙一重で横振りをブリッジ回避、そしてその勢いを利用してのバック宙返りから繋げるサマーソルトキック。
通常の戦闘経験、訓練では思いつきもしない早坂茜にしかできない戦闘術、今までの稽古で見せなかったその本気が、ここで本領を発揮する。
「ッ……」
しかし、洋助もそれに反応して顎に直撃する軌道を両腕による防御で凌ぐ。
その防御は次の攻勢に移行する構えでもあり、茜もそれを察する。
「いいぞッ!来いッ洋助ッ!!」
激化する打ち合い、そして格闘戦、師と弟子の戦いは実力が拮抗する、だが――。
「茜先生…?卒業、試験、ですか…?」
「そうだ、…なんだ?気付いてなかったのか?お前たち先月にこの教育機関を卒業した扱いになっているんだぞ?」
「あ…そうか…」
雪は手を叩き思い出す、それは大厄との戦いの日々で流していた通達。
茜が言う様に先月、正式に所属が教育機関から戦巫女として移った知らせ、それが意味するは学生としての生活には戻れない現実。
「私達、もう生徒ではなくなったんですね…」
少し寂しくなりながら口にする、それは巫女としての勉学に未練がある訳ではなく、ただ日々の忙しさに押し殺されその事実を忘れた事による寂しさ。
「そうだ、お前たちが立派に務めを果たしている間に皆卒業し、それぞれの道を歩んでいる、…私は、…な、個人的にお前たちにも簡単ではあるがちゃんと卒業式を送ってほしくてな、それで呼んだ訳さ」
心優しい方だと、理解していた。
しかしそれ以上に、その優しさよりも彼女はただ人として、ありふれた幸せを送って欲しい、その願いを込めて彼らに接していた。
「茜、先生…」
「茜さん…」
茜の心中を察し、洋助は静かに返答する。
「茜先生、試験、お受けします」
「おう、洋助ならそう言ってくれると思ったぞ」
すると、おもむろに茜は刀を握り、その刀身を抜く。
「――やはり、そうなりますか」
「…洋助、最後の稽古だ、実戦形式で私と戦え、ただし――」
「ただし、神力を使う事は許可しない――、ですよね?」
「っふ…随分物分かりがよくなった、生意気だな」
軽口を叩く洋助に穏やかな笑顔を向け、初めて彼女は抜刀した刀を構える。
「では、立ち合いは私がしましょう」
雪が二人の中間に割り込むと、相対する洋助も静かに刀を抜き、茜を見据える。
「―――」
息を呑む、そして一瞬の静寂。
茜は薄い、儚さすら覚える神力を纏い、動く――。
「ッは!!」
本気の打ち込み、その刃は真剣であるため両断されれば確実に死ぬ。
前線を退いた巫女とはいえ、その疾い剣戟は通常であれば脅威となる一閃。
――だが、茜が対峙するは死線をくぐり生き抜いた兵であり、そして教え子。
故に、その一閃は見切られ、空を切る。
「やるな洋助!これならどうだッ!?」
茜は仕掛ける、それは自身が最も得意とする体術を織り交ぜた我流の巴流。
基本となる上段からの振り下ろし、それを洋助は刀で弾く。
――ィンッ……!!
と、高く、鋭い鋼鉄の音が響くと、茜は左腕を空けて掌底をみぞおちに叩きこむ。
「ッつ、やはり、こう来ましたか…」
が、その一撃を洋助は予想し、直前で上半身を捻って躱す。
一連の技をいなされ、伸びきった腕を引き戻す瞬間、茜に隙が出来る。
「だぁッ!!」
反撃となる横振り、それは神力を纏わない生身であっても強烈な剣戟。
――瞬間、勝負が決まりそうになり、雪は自身の刀を抜こうと反応しかけた、だが、茜の経験と技術がそれを止める。
「甘いなッ!!はぁッ!!」
「ッな…!?」
洋助には、茜が視界から消えた様に見えた。
それは達人の技、サマーソルトキックと呼ばれる飛び込みの蹴り。
紙一重で横振りをブリッジ回避、そしてその勢いを利用してのバック宙返りから繋げるサマーソルトキック。
通常の戦闘経験、訓練では思いつきもしない早坂茜にしかできない戦闘術、今までの稽古で見せなかったその本気が、ここで本領を発揮する。
「ッ……」
しかし、洋助もそれに反応して顎に直撃する軌道を両腕による防御で凌ぐ。
その防御は次の攻勢に移行する構えでもあり、茜もそれを察する。
「いいぞッ!来いッ洋助ッ!!」
激化する打ち合い、そして格闘戦、師と弟子の戦いは実力が拮抗する、だが――。
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