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卒業試験決着編

七話 

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 教育機関から最寄りの駅を降り、ゆっくりと歩く二人は道すがら話す。

 「…そういえば、最近渡り巫女の部署に通っているみたいだけど、何してるの洋助くん?」
 「あぁ…、符術を覚えたくて符の作成と使い方を無理のない程度に習ってる、けどこれがまた難しくてな…はは」
 「それは、渡り巫女になりたいの?」
 「いや、そういう訳ではないけど、…符術を実戦で活用できたら便利かなって…」

 剣術、神力のみならず他分野から学ぼうとする姿勢に雪は感心し、同時に呆れる。

 「ほんと、修行ばかだよ洋助くん」
 「自分でもそう思う、けど思い付いたら行動してみたくて…つい、な」
 「灯さんから剣術学んで、水島さんから体術を教えてもらって、更には渡り巫女からも符術を学ぶ…本当に秀才ね」

 彼の原動力の始まりは復讐心から来たものである、だが、それらを乗り越え皆を守るために努力し、更なる力を求め真っ直ぐに成長している。

 ――そんな彼の姿に雪は惚れ、好きになってしまった。

 「どうせならどこか寄っていかないか?またクレープでも食べる?」
 「そ、それはっ…!」

 その単語を聞き、目を光らせる雪。

 初めてクレープを食べて以降、雪は自主的にお店に赴いては店舗の雰囲気に気圧され買えずにいた、故に久しぶりになるクレープの期待は高まり、その頬も緩んでしまう。

 「い、行きましょう!売切れたら大変だわ!」
 「そんなに急がなくても大丈夫だよ、ゆっくり行こう」

 早足になる雪を引き止めるため、自然と手を引く洋助。
 何気ない行動であったが、それは、紛れもない恋人の距離であり、二人の手は重なる。

 「――あっ、ごめん、ついっ!?」

 慌てて気付き、話そうと緩めた手は雪の力強い気持ちにより離れなかった。

 「――いいよ、このままで…」
 「…っ~」

 流石の洋助も顔は赤くなり、心臓の鼓動が早くなる。

 「じゃ、行こう」

 せめて気付かれまいと冷静を装い、少しだけ口数を減らすが雪はそれも見通していた。
 何故なら雪も、緊張と嬉しさで心臓の鼓動が早くなっていたからである。

 ぎこちなく、だが穏やかな足取りが歩まれる、それは二人のこれからの関係性を表すように、ゆっくり、ゆっくりと、幸せを噛み締めながら二人は進む。

 そうして午前中の時間は過ぎ去り、当初の目的である懐かしい教育機関の校門をくぐる。

 「…これ、勝手に入って大丈夫なのかな?」
 「自分が思っている以上に洋助くんが有名な事自覚した方がいいよ、警備の人も顔パスって事で通したのよ」
 「そう、なのか…まぁ、とりあえずどこに向かえばいいんだろ?茜先生から何も連絡無いんだよなぁ…」

 手紙の詳細を訊こうと連絡を入れても、未だ返ってこず困り果てる洋助。
 すると雪が一つの可能性を思いつき、提案する。

 「あそこは?修行で使ってた演習場、案外煙草吸うために行ってるかも」
 「なるほど、それもそうだ、よし向かおう」

 確信を得て施設内を周る、その風景は走り込みでよく見た風景で感慨深くなると、雪もまた懐かしさを覚えながら天気の良いこの風景を歩く。

 「あ、見えてきたな」
 「結構そのまま残ってるね、なんか安心した」

 当時の鍛錬していたまま、その場所はあった。

 「うーん…、けど茜先生いないな、どうしようか?」
 「天気もいいし、風も気持ちいいし、少し早いけどお昼にする?」
 「ああ、いいなそれ、ここで食べよう」

 持っていた荷物を手渡し、雪は手際よくお弁当を並べる。
 色鮮やかでありながら、バランスのとれた理想的なお弁当がそこにはあった。

 「おぉ…豪華だな」
 「お母さん、張り切っていたから」 
 「――雪が作ったのは…これかな?」

 感や経験から言ったのではなく、それだけひと際形が崩れ、焦げ付いた卵焼きがそこにはあった、まさか見逃すはずもなく、おもむろに箸を運び洋助は覚悟を決める。

 「―――っ」

 緊張、それは前に起きた事件からくるトラウマ的な反応。

 ある程度巴家で食卓を囲んだ洋助は、一つ学習したことがある。
 それは雪が恐ろしく料理が下手であるという事、それも殺人的に、である。
 
 何を勘違いしたのか洗剤を入れたお米を食べさせられた時は目が回り、またある時は卵焼きだった物にまな板がくっついた状態で出てきた時は命の危険を感じた。

 その数々の出来事が、今、走馬灯の様に脳内で流れ、理性がその卵焼きにストップを掛ける、が、それ以上に滾る想いが彼の勇気を後押しさせた。

 「いただきます!」

 一口、その卵焼きを食べる。

 「……どう、かな?」
 「雪」

 真剣な顔、その表情に雪の背筋が伸びる。

 「雪、これ…美味しいよ、本当に」
 「ほ、ほんと?よかった~…」

 人は積み重ねれば上達し、そして成長する。
 剣であっても、料理でもあってもそれは変わらず、洋助はその雪の変化に心を打たれ、優しい気持で満ち溢れる。

 「雪…本当に料理が上手になったね」

 箸を静かに置くと、洋助は姿勢を直し、雪を見据える。

 「あの時、俺は君の事が好きだと言った、その気持ちは今も変わらず、むしろあの時よりも好きになって、俺は今ここにいる」
 「――うん…」
 「だから、改めてここで伝えて、俺は明日からの関係性に新しい気持ちで臨みたい」

 深呼吸、酷くうるさい心臓を正し、洋助は二度目の告白をする。

 「雪、君が好きだ、だから…これからは恋人として付き添ってほしいっ」
 「――はい、こちらこそよろしくお願いしますっ…」

 また一つ、新しい一歩を踏み出す二人は照れてお互いを見られない。
その状況を打破するが如く、懐かしい声が二人に掛けられる。

 「終わった?お二人さん?」
 
 そう、早坂茜である。

 「茜さん!?」
 「茜先生!?」

 すっかり忘れていた目的の人物は、ありえないタイミングで介入してきて激震が走る。
 
 「い、いいい、いつから!?そこにっ!?」
 「すまんな、弁当食い始める時に声掛けようとしたら、なんかいい感じになってて…つい、な?」
 「あぁぁ…恥ずかしい…茜さん酷いですよ…」
 「気にするな、青春なんてそんなものだぞ」

 カッカッカ、と心から愉快そうに笑う早坂は、からかいこそすれど馬鹿にすることは無く、優しい目つきで二人の幸せを祝福した。

 「はぁ……、それよりも、茜先生!俺達に用があってここに来るように手紙を寄越したはずです、何かあったんですか?」
 「それそれ、本題はそれだよ洋助」

 いつもの悪戯な笑みで言うと、次に発する言葉実に単純明快であった。


 「卒業試験をするぞ、洋助!」


 大厄との戦い、日々の鍛錬、その全てに時間を費やした少年は、気付けば十八の年を過ぎていたのであった――。
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