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遊撃部隊入隊編

おまけ2 茜と務

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 これは、洋助が遊撃部隊として活躍するもっと前の話。

 戦力増強のため新設された特殊機動部隊、その人材の選抜は自衛隊、警察、そして能力が高く評価された公務員に限り、水島務もまたその一人に選ばれた。

 警官として勤めていた彼は、大厄出現に伴い市民の避難誘導をしていた。
 だがその時、偶然にも現場に居合わせた彼の妻と娘が目の前で襲われ、命を落とした。

 「―――ッ…!!」

 それ以降、復讐に囚われた水島は恐ろしい程の訓練と実戦を重ね、ついに単独での大厄撃破を果たすのであった。

 「くたばれッ…!」

 苦難の頭を捻じ切り、蒼い炎を撒き散らす。
 その姿はまさに修羅、復讐の鬼となり果てた水島は部隊内でも異質な存在であった。

 「水島…これ以上は危険です、一度立て直しましょう」
 「――いや、巫女が到着する前に我々が一体でも多く大厄を引き付けなければ、市民の避難が困難になる、俺はこのまま苦難を誘導する」

 心にもない建前であるが、その進言は的確であり冷静。
 復讐のため自らの手で大厄を討ち滅ぼしたい水島は、自分の命ですら天秤にかけて作戦を続行する。

 「――わかりました、ですが、単独で動くのは危険です、部隊を分散させて撃退と避難を行います、いいですね?」
 「構わない、了解した」

 隊長である彼に諭され、作戦行動に戻る水島。
 実力も判断力も水島が優秀であるが、個人の復讐に囚われている事を加味され、一部隊員として活躍している。

 「水島ッ!!右後方に苦難二体ッ!!こちらに向かってきます!」
 「―――ッ!」

 と、部隊に合流する前に苦難に襲われる。

 二人は連携を取りながら弾幕を張り、距離を取らせぬ様に撃ち続ける。
 頭に、腕に、胴体に弾丸が直撃してもまるで意に介さず、その朽ちた鎧を砕きながら前進してくる苦難。

 「マズいッ!!このままでは近寄られるッ…!!」
 「――隊長、後方から援護を」
 「何を…待てッ!水島ッ!!」

 制止を振り切り、こちらから距離を詰める水島は砕けた鎧を見抜いてそこに肘打ちを叩きこむ。

 「……無茶苦茶だ」

 その光景を見た隊長は、水島こそが人外なのではと錯覚する。
 
 人が大厄を吹き飛ばし、あまつさえ討ち取ろうとしている、それは凡人には異様な姿に見え、鬼人の如き様であった。

 「砕けろッ!!」

 続く二体目に拳を打ち込み、動きの止まる苦難の関節をあらぬ方向に曲げる。

 ――バキンッ…!!

 硬い木材が折れる音、苦難の腕は細枝の様に容易く折られる。
 そして、私怨の籠った止めを刺し、苦難を蒼い炎に還す。

 「水島ッ!?後ろだッ!!」

 目の前の憎悪に気を取られ、背後に苦難の接近を許す。
 隊長が迎撃しようと銃を撃ち込むが、足を止めるには至らず、折れた刀を握る苦難が追撃する。

 「―――」

 ここまでか、そう思考が巡る水島は覚悟を決める。

 ――しかし、爆発的な衝撃音と共に苦難は斬り倒される。

 「何してんだアンタらッ!!さっさと退いて民間人の保護を優先しやがれッ!!」

 現れたるは戦巫女。
 その巫女は勢い良く飛び出して水島を守る、と同時に彼に近付く。

 「…あんた、大厄撃破者とか言われてる水島だな?」
 「そうだが…それがどうした?」
 「あっそう――」

 すると、その戦巫女は襟をつかんで、振り上げた手を彼の頬に思いきり打ち付けた。

 「――何をする」
 「あんた、鏡見た事あんのか?そんな憎しみが籠った顔してたら何も見えないわけだ、あれ見なよ?」

 指差され視線を移すと、茂みに隠れている小さな女の子が一人。
 彼女は怯え、震えて、声も出せずただ丸くなって涙を流していた。

 「ッつ!?」

 ――その子の姿が、亡くなった娘と重なり我に返る水島。
 
 水島は、復讐に囚われて目の前の大厄しか見えず、同じ悲劇を繰り返そうとしていた、その愚かさを悔い、恥じ、目覚める。

 「すまないっ…私は…」
 「後悔は後でしろ、今は一人でも多くの命を救って」

 戦巫女は己の使命を果たすため、その場から離れようとする。
 その別れ際、彼女は一言だけ付け加える。

 「――私は戦巫女一番隊、早坂茜、……さっきはぶったりして悪かった」

 小さく謝り、その姿は見えなくなる。
 取り残された水島は、己の未熟と弱さを認め、その瞳に光を灯す。

 「隊長ッ…、俺は女の子を保護して戦線から退きます、警護をお願いします!」
 「ああ、もちろん、しっかり守ってください!」

 ここから彼の歩みは踏まれた、過去に囚われ、復讐者になり果てる事も無く。
 
 早坂茜と水島務、後に戦巫女と特殊機動部隊の要となる二人の昔話であった――
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