31 / 79
卒業試験決着編
一話
しおりを挟む
冷たい、水の中。
手足は凍え動かない、だが必死にもがき、水面に向かう。
助けないと、巡る思考は冷静さを失い、黒く染まる。
何も見えない、ただ暗闇が広がる。
「―――――っ」
もはや方向感覚も失い、立っているのか浮いているのかも分からない。
その中でぽつり、と神社がそびえ立つ。
水底であるはずの場所に騒然と佇み、孤独にそれはそこにある。
―――これは…ようやくか、三百年以来かのぉ?
不意に聴こえる女性の声、それは頭に直接響き渡る。
返事をしようとも声は出せず、ただ息苦しさだけが残る。
―――お前さん、これ以上は近寄るな、神力と一緒に消えるぞ?
忠告を受ける、どうやら神社に近付いていたらしい。
向こう側は明るく輝き、白い風景が広がっている。
―――なるほど…、神力と深く繋がっておるのか、故に死の間際ここに迷い込んだか。
社に人影が見え、その人物は狐の様な耳を生やしてこちらを見る。
―――ふむ、帰ろうにもお前さんの体が壊れておるな、このままでは体ごとこちら側へ来てしまう…。
少し考え込むように狐の巫女は顔をしかめ、白いあちら側から提案する。
―――その心の臓…、代わりの物を用意する、さすれば元の時間に戻れよう、が、二度と人としての生は歩めん、よいか?
意味は分からない、だが、俺は戻って戦わねばならない、そのためならば―――。
「……構わない、俺は人の道を外れよう」
「契約成立、じゃな…、次は死ぬなよ、洋助…」
突如、胸が蒼く光り輝く。
感覚の無かった手足は熱を取り戻し、動き出す。
神力が巡り活力が湧くと、水中に叩き戻される感覚。
呼吸は苦しく、水中を漂う。
そして、想うは雪への気持ち、それを頼りに神力を爆発させ、浮上する―――。
――――
―――
――
ただ静かに、雪は正座して寄り添っていた。
「……おはよう、雪」
「おはよう、洋助君」
巴家で目覚めて夢を見る、艱難辛苦に襲われ水底に落ちた光景を。
あの戦い以来時折夢に見る、それは忘れぬように戒めの如く。
「大丈夫?うなされてたけど…」
「あぁ…ちょっとな」
心配をかけまいと笑って誤魔化すが、雪はそれを察し洋助の頭を撫でる。
分かっていても照れる洋助、少し顔を下げて隠してしまう。
「体調…どう?検査では異常無いって言うけど…心配よ」
「不思議な事に前より調子良いぐらいだ、今日の任務もこなすさ」
大厄の大量出現、その戦いにおいて洋助は心臓を貫かれ死に扮した。
しかし、異常な回復能力で心臓は即時修復、さらに神力の効果も上がり艱難辛苦を退けた。
その異質な状態は戦闘後も続き、研究機関での精密検査を経てその力を調べている最中である。
「それにしても…戦いから二週間しか経っていないのに任務に参加って…、洋助君も本当に物好きね」
「ずっと部屋にいるよりは健康的だよ、それに雪とも一緒にいられるだろ?」
「っ…そういう事を、当然のように…」
今度は雪が顔を赤くする、しかし隠しはせずに目を合わせる。
お互いの気持ちを知り得た今、恥ずかしさよりも勝る感情が二人の距離を縮める。
「早く朝食食べて行きましょ、母さんも待っているわ」
「楓さんを待たせるのはマズいな、すぐ準備するよ」
「…ほんと、母さんには弱いよね洋助君…」
「そ、そうかな?」
図星を突かれて苦い笑いで返す、こういったしたたかな所が楓さんに似ている。
「雪、起こしに来てくれてありがとな、準備したら向かうから先に行ってくれ」
「わかった、調子悪かったらちゃんと言ってね」
「ああ、もちろん」
返事をして着替え始める。
その身体には心臓を穿たれた跡がしっかりと残っており、痛々しくも傷口は確かに塞がっている。
「―――」
軽く傷をなぞる、それは何故生きているかも分からない程の傷。
洋助は夢に見たやり取りは報告していない、あまりにも非現実的であり、死の間際に見た幻覚かもしれなかったから。
だがこの傷を見る度に、自分が間違った行動をしたのではないか、そう頭によぎる。
「悩んでも仕方ない、お務めだ」
意識を切り替え、身支度を整える。
自身の身体に変化は未だ無い、だが、夢でのやり取りが現実だとしたらいつかきっと破滅の未来が訪れる、洋助はそんな悪い予感を振り払って前を見た――。
手足は凍え動かない、だが必死にもがき、水面に向かう。
助けないと、巡る思考は冷静さを失い、黒く染まる。
何も見えない、ただ暗闇が広がる。
「―――――っ」
もはや方向感覚も失い、立っているのか浮いているのかも分からない。
その中でぽつり、と神社がそびえ立つ。
水底であるはずの場所に騒然と佇み、孤独にそれはそこにある。
―――これは…ようやくか、三百年以来かのぉ?
不意に聴こえる女性の声、それは頭に直接響き渡る。
返事をしようとも声は出せず、ただ息苦しさだけが残る。
―――お前さん、これ以上は近寄るな、神力と一緒に消えるぞ?
忠告を受ける、どうやら神社に近付いていたらしい。
向こう側は明るく輝き、白い風景が広がっている。
―――なるほど…、神力と深く繋がっておるのか、故に死の間際ここに迷い込んだか。
社に人影が見え、その人物は狐の様な耳を生やしてこちらを見る。
―――ふむ、帰ろうにもお前さんの体が壊れておるな、このままでは体ごとこちら側へ来てしまう…。
少し考え込むように狐の巫女は顔をしかめ、白いあちら側から提案する。
―――その心の臓…、代わりの物を用意する、さすれば元の時間に戻れよう、が、二度と人としての生は歩めん、よいか?
意味は分からない、だが、俺は戻って戦わねばならない、そのためならば―――。
「……構わない、俺は人の道を外れよう」
「契約成立、じゃな…、次は死ぬなよ、洋助…」
突如、胸が蒼く光り輝く。
感覚の無かった手足は熱を取り戻し、動き出す。
神力が巡り活力が湧くと、水中に叩き戻される感覚。
呼吸は苦しく、水中を漂う。
そして、想うは雪への気持ち、それを頼りに神力を爆発させ、浮上する―――。
――――
―――
――
ただ静かに、雪は正座して寄り添っていた。
「……おはよう、雪」
「おはよう、洋助君」
巴家で目覚めて夢を見る、艱難辛苦に襲われ水底に落ちた光景を。
あの戦い以来時折夢に見る、それは忘れぬように戒めの如く。
「大丈夫?うなされてたけど…」
「あぁ…ちょっとな」
心配をかけまいと笑って誤魔化すが、雪はそれを察し洋助の頭を撫でる。
分かっていても照れる洋助、少し顔を下げて隠してしまう。
「体調…どう?検査では異常無いって言うけど…心配よ」
「不思議な事に前より調子良いぐらいだ、今日の任務もこなすさ」
大厄の大量出現、その戦いにおいて洋助は心臓を貫かれ死に扮した。
しかし、異常な回復能力で心臓は即時修復、さらに神力の効果も上がり艱難辛苦を退けた。
その異質な状態は戦闘後も続き、研究機関での精密検査を経てその力を調べている最中である。
「それにしても…戦いから二週間しか経っていないのに任務に参加って…、洋助君も本当に物好きね」
「ずっと部屋にいるよりは健康的だよ、それに雪とも一緒にいられるだろ?」
「っ…そういう事を、当然のように…」
今度は雪が顔を赤くする、しかし隠しはせずに目を合わせる。
お互いの気持ちを知り得た今、恥ずかしさよりも勝る感情が二人の距離を縮める。
「早く朝食食べて行きましょ、母さんも待っているわ」
「楓さんを待たせるのはマズいな、すぐ準備するよ」
「…ほんと、母さんには弱いよね洋助君…」
「そ、そうかな?」
図星を突かれて苦い笑いで返す、こういったしたたかな所が楓さんに似ている。
「雪、起こしに来てくれてありがとな、準備したら向かうから先に行ってくれ」
「わかった、調子悪かったらちゃんと言ってね」
「ああ、もちろん」
返事をして着替え始める。
その身体には心臓を穿たれた跡がしっかりと残っており、痛々しくも傷口は確かに塞がっている。
「―――」
軽く傷をなぞる、それは何故生きているかも分からない程の傷。
洋助は夢に見たやり取りは報告していない、あまりにも非現実的であり、死の間際に見た幻覚かもしれなかったから。
だがこの傷を見る度に、自分が間違った行動をしたのではないか、そう頭によぎる。
「悩んでも仕方ない、お務めだ」
意識を切り替え、身支度を整える。
自身の身体に変化は未だ無い、だが、夢でのやり取りが現実だとしたらいつかきっと破滅の未来が訪れる、洋助はそんな悪い予感を振り払って前を見た――。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる