艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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遊撃部隊入隊編

十三話 

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 「オォォォオオ……ッ!!」

 艱難辛苦の蒼い炎は叫ぶように揺らめき、達人の槍捌きを魅せる。

 「うおぉぉッ!!!」

 対する洋助に迷いなど無く、その悉くを寸前で躱し、弾く。
 反撃に転じる事が出来ないでいるが、守りに徹し機を窺い、鉄壁の防御を繰り広げる。

 それは、槍と刀で奏でられる鉄の音楽、空を切る槍の音、刀の弾きによる高音の残響、その両者の動きが共鳴し規則的な音が聞こえてくる。
 
 「何…この戦いは…」

 雪はその戦闘をなんとか眼で追い、片膝をついて眺める。
 安心し脱力気味になってしまったが休んではいられない、助太刀に割って入ろうと刀を握るが、眼前の戦いは激しさを増していた。

 ―――ィィンッ!

 何度目になるかもわからない洋助の弾きに、その瞬間が来る。
 
 休む間も、息つく暇も与えず攻め続けた艱難辛苦は弾かれた衝撃により体勢を僅かに崩し、攻撃が緩まる。

 洋助は、それを見逃さない。

 「―――ッ」

 懐に飛び込み、首を目掛けて振り切る。
 流石の艱難辛苦も避けきれずと判断し、獲物である大槍を手放して腕で防ぎに入る。

 「―――……ォォォ」

 もがくように腕を震わせ刀を受け止めると、その傷口から蒼い炎が噴き出し、周囲に熱を持たない炎が燃え移る。

 「ッぐ……」

 そのまま腕を切り落とそうと力を込める洋助だが、固く形成された鎧と身体はそれに至らず、艱難辛苦の反撃を許す。
 
 宙に浮いたまま槍を受ければ致命傷になる。
 瞬時に判断すると一転、腕の切断を諦め洋助も刀を手放して落下の勢いを利用し、自爆めいた体当たりを仕掛けて橋の際まで突き飛ばす。

 「洋助くんッ!?」

 誰が見ても自殺としか思えない行動だったが、艱難辛苦は反撃を止められ陸橋から川へ向かって強引に落とされる。
 大厄も重力には逆らえず、因果応報とばかりに水面へ向かって落ちていく。

 『こちら水瀬、総司令へ要請します』

 その落下の途中、不意に焔の報告が走る。

 『神力制御の一時解除を要請、対象は艱難辛苦』
 
 『……許可する、が、対象が水面にいる場合でのみ撃て、でなければ周囲の山による土砂災害が懸念される』
 
 『御意に、ご理解、感謝致します』

 通信が切れる、と同時に艱難辛苦は水面に叩きつけられる。

 「雪っ、伏せろッ!」
 「え…?きゃっ!?」

 覆い被さるように洋助は雪を抱き締め、地に伏す。

 数百メートル離れた山頂から、流星の如き煌めきが放たれる。
 遠くから見れば流れ星に見えるであろうそれは、紛れもない、太矢だった。
 曲線を描き、青い流星は立ち上がろうとする艱難辛苦目掛けて、衝撃的な破壊力と殲滅力を備えて、着弾する。


 ――――――――――キィィィィィィィィン………………


 大きすぎる爆撃音は、時に静寂と化す。
 空気が振動して耳鳴りがこだまし、地響きと爆風、そして神力を纏った流星の大矢は、弧を描いて直撃した。

 着弾位置に近い二人は長い耳鳴りを堪えて周囲を見渡す。
 艱難辛苦がいた場所を中心に、地面は抉れ、水脈が削り起こされ水が吹き出ている、川の水が緩衝材になっていなかったらどれほどの威力になっていたか。

 ―――大厄対策本部最強の巫女、水瀬焔。

 その二つ名の本当の意味を、二人は知る。

 「…怪我はないか、雪?」
 「私は大丈夫、ありがとう洋助君、けど――」

 雪が洋助の心配をしようと声を掛けようした瞬間、二人の前に硝煙に紛れ燃え爛れる艱難辛苦が地を這いつくばり現れる。

 「――ォォォ…」
 「こいつ…、まだっ…」

 満身創痍の洋助は立ち上がるが、余力はなく、刀を持つ片腕がなんとか上げるのみ。

 「構えて、支えるから」
 「雪…」

 そっと、寄り添う雪は、彼の左腕の代わりに柄を握る。
 お互いの神力が交わり、美しい青色が二人を包む、その様を感じた艱難辛苦は特攻じみた突撃を繰り出す。

 「タイミングは雪が取ってくれ、俺が合わせる」
 「……わかった」

 剣林弾雨、何がこようとも全てを退け、守って見せる。
 
 「「はぁぁぁぁっ!!」」

 決意を灯した一撃が、向かってくる艱難辛苦を切り伏せる。

 蒼い炎が狂ったように飛散し、周囲を燃やす。
 焔の流星の如き一撃を喰らい、それでも尚動いた艱難辛苦は二人の刀で動きを止め、崩れ落ちた。

 「――雪、ありがとう」

 燃え盛る蒼い炎を背後に、洋助は刀を手放して雪を抱き寄せる。

 「私…洋助くんが、本当に死んだと…、ッ…ぅぅ…」
 「ごめん、あの時はあれしか方法が無かった」
 「ばかっ…本当にばかっ…っ」

 雪が泣く、子供の様に。

 皆を守りたくて、大厄の脅威を無くしたくて戦ってきた。
 だが、抱き締めたこの暖かさはそれらの理由と等しいぐらい大事で、これからの戦い、これからの生き方に必要だと、核心した。

 「―――っ」

 強く抱きしめ、その存在を確かめる。
 迷いなんて無い、残るは覚悟、これからの未来を歩む決意。

 「雪、言えなかった言葉、今言うよ」
 「―――うん」

 僅かに体を離し、目を合わせて洋助は告げる。

 「君が、好きだ、雪」
 「―――はい、私も、洋助くんが、好きです」

 激戦と化した戦場は、艱難辛苦の撃破と共に大厄側が劣勢となり始める。
 その戦禍の中、二人は憔悴し、疲れ果てながらもその距離を縮め寄り添う。

 人類史稀に見る艱難辛苦の襲撃、その被害を食い止め、犠牲者を出さずに務めた大厄対策本部、その結果に苦虫を潰す表情をする巫女が一人。

 「申し上げます、特殊遊撃部隊及び一番隊の巴雪が艱難辛苦を撃破、その直後大厄の動きが鈍重化し、一般市民の避難と保護が完了しました、また、機動部隊も合流し市街地での警戒体勢も整っております」

 「―――そうか」

 執務室での作業を止め、報告を聞く朧。
 その顔は、優雅であるが苛烈、そして常人であれば気圧される冷たい目。

 「下がれ、ご苦労であった」
 「――っは」

 総司令である巫女は委縮し、静かに退室する。

 「やってくれたか、洋助…」

 朧は、瞳の蒼色を押さえて滾る感情を殺す。

 少しずつ崩れゆく大厄への体勢、その意味はまだ分からず、人々はその現実を喜び、ただ安堵するのであった――。
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