艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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遊撃部隊入隊編

十話 

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 冬の寒さが体にこたえ始める時期、遊撃隊は食事をとりながら話す。

 「最近…大厄が大人しくない?」
 「灯さんもそう感じますか?ここ一週間の大厄、…出現したと思ったら動きも鈍く、数も少ないですよね…」
 「それって珍しい事なんですか?」
 「…少なくとも、私たちが戦巫女として配属されてからこんな事なかった、なんか気味が悪いわ」

 大厄の動きを不審に思い、灯は眉を寄せて話す。
 それを洋助は前向きに捉えて返した。

 「でも、大厄が大人しければ被害も少なくなります、良い事じゃないですか」
 「まぁ、…このまま大人しければね」
 「灯さんは案外心配性ですね、洋助さんが言う様にこのまま大人しくなる可能性もありますから、…それに、洋助さんと雪さんが配属されてから大厄による死傷者が出ていません、これからだって大丈夫ですよ」

 最近ニュースでも取り上げられる大厄による死傷者数の話題。
 数十年ぶりに訪れたと言われる記録であり、最近の巫女達の活躍が世論に評価されている。

 「確かに…二人が配属されてから戦巫女全体の質が上がったわね…」
 「雪は剣士として役目を果たしながら、部隊を仕切るリーダーとしての才覚もありますからね…自分もまだまだ学ぶべき事が多いです、…もちろん灯さんや焔さんにも学ばせてもらっていますが」
 「こーら、そうやって自分を低く見る癖辞めなさい、あんただって貢献度でいえば雪ちゃんに負けてないんだからっ!」

 もはや恒例と化した灯の優しい激励。
 ぽかっ、と頭を叩かれるが洋助もその行動の意味を理解し、前向きになる。
 
 「けど、洋助さんが来てから部隊は本当に変わりましたよ?それに洋助さん自身も良い変化があります、とても優しい印象になりました」
 「あぁー、確かに、…最初は必死というか、力んでいたというか…」
 「そ、そうですか…実感はあまりないですね…」
 「洋助さん、笑顔がとても自然になりました、最近は特に純粋な笑顔で戦巫女の方からとても評判なんですよ?」
 「え?表情だけでそんな言われる事あります…?」
 「はぁ…バカね洋助、あんた自分がどれだけ特例的な存在か分かってないでしょ、鈍すぎるから言わなかったけど、好意を寄せている巫女が大勢いるのに気付きなさいよ」
 「そ、そうなんですか…気付かなかった…」

 頭を抱えて思いやられる灯は、気になっていた関係性を問いかける。

 「で、雪ちゃんとは付き合ってるの?最近一緒にいる機会が多いじゃない?」
 「なッ!?そんな訳ないじゃないですかッ!あくまで鍛錬に付き合って貰ってるだけで、…恋人とかでは…」
 「それは…ちょっと雪さんが可哀想ですね…、洋助さんは雪さんの事どう想っているのですか?」
 「この際はっきりしなさいよ、周りで見てる私達の胃が痛くなるのよ」
 「そんな…急に言われても…俺は…」

 ――雪の事を、どう、想っているか。

 突然すぎる話題に混乱し、思考はうまくまとまらない。
 戦友、学友、親友、それらの言葉は何か違う様な気がして言葉にできない。
 
 もちろん人として、友人として好きではあるが、それ以上の関係を考えた時に何故か顔は熱くなり、躊躇ってしまう。

 「そんだけ動揺して顔に出てれば答え出てるじゃない、後は素直になるだけよ」
 「そうですよ、今言葉にする必要はありませんが、必ずその気持ちを雪さんに伝えてくださいね、きっと素晴らしい結末になりますから」

 優しく諭されると、二人は昼食を食べ切る。
 洋助は食事の手を止めて固まり、顔を赤くして考え耽る。

 「洋助ー、私たちは先あがるから、あんたはさっさと雪ちゃんに会ってきなさいよ」
 「では、先に失礼しますね洋助さん、良い報告をお待ちしております」
 「は、はい…、お疲れ様でした」

 ひらひらと手を振りながら二人を見送り、動きが固いまま洋助は遅れて昼食を食べ終え食堂を出た。

 「―――……」

 歩幅が小さくなりながら雪を想う。
 
 自分でもなんとなく気付いてはいたがこれは恋なのではないか?
 しかし、国の重要な役割を担いながら恋に現を抜かすのは言語道断、理解しようとするたびに考えるのを辞め、その答えに逃げていたツケが今に至る。

 ―――恋人。

 学生の頃のような甘い響きに気が抜けそうになるが、雪の顔がどうしても頭に浮かぶ。
 このままではお務めにも鍛錬にも支障をきたす、やはり素直に想いを言葉にして気持ちを整理すべきか。

 「ゆき…」

 歩きながら口にした独り言、それは聞かれるはずのない名前。

 「洋助くん、今呼んだ?」
 「――――ッえ!?」

 施設の廊下を曲がる直前、その角に巴雪は偶然にも居合わせた。
 先ほどから動揺と混乱ばかりの洋助に追い打ちの如き状況が訪れ、思考がぐちゃぐちゃに混ざり合う。

 「今日はもうあがり?」
 「あ、あぁ!そうなんだよ、午後は予定が空いたから雪の道場でも行こうかなーって、ははは…」
 「そうなんだ、私も報告書だけ作成したら終わりだから、ちょっと待ってて」
 「あ、ああ、外で待ってるよ…」

 なんとか独り言の事は訊かれずに安堵する、と同時に今までの関係性を維持したという事実を理解し、情けなくなる。

 「……洋助くん、具合でも悪いの?怪我でもした?」
 「いや、違うんだ、怪我とかじゃない、大丈夫だから…」
 「けど…、顔も赤いし辛そうだよ、熱あるの…?」

 雪は距離を縮め、熱を測ろうと手を伸ばす。
 ふんわりと、女の子らしい柔らかい髪が舞うと、雪の香りが洋助に届く。

 「ゆ、雪ッ!?」
 「あ、ごめん…嫌だった?」
 「違うッ、違うけど、違うんだ…」

 日本語があやふやになり、もはや言葉は息詰まる。
 ただ、もう迷う事など何もない、それだけは理解してしまった。

 「―――ようすけ、くん…?」

 目の前の、困惑している彼女を紛れもなく好きで、抱きしめたいと思った。
 その気持ちに偽りなど無くて、感情は止められない、喉元までその言葉は出ていた。

 「雪っ!聞いてくれっ!いきなりかもしれないが、俺は――」

 君の事が好きだ。

 ―――そう、伝えようとした瞬間であった。

 『緊急事態!緊急事態!国道102号線近くで大量の大厄が出現!施設内の巫女は直ちに持ち場に着き戦闘配置についてください!繰り返します――』
 
 大厄の出現を告げる緊急アラートが繰り返し放送される。
 言葉を遮られた洋助はすぐに意識を切り替えて走り、雪も続けて戦闘準備に入る。

 「雪!今回の緊急アラート何か変だ、個部隊に向けた発信ではなく全部隊に向けて発信している、敵の規模が違うのかもしれないッ!」
 「ええ、本部の様子も何かおかしい、気を付けて」

 慌てふためく作業員、符術で陣を展開する渡り巫女達が集まり始める。
 その人員の規模も今までとは違い組織内の巫女が総出で準備しており、戦いの異質さが際立つ。

 「特殊遊撃部隊の赤原です!いつでも出撃できます!」
 「戦巫女一番隊巴雪、同じく出れますッ!」

 渡り巫女が転移陣形を用意し、小型の社が設置されている部屋。
 そこに到着する二人は急いで刀を握り、管制室に向けて発言する。

 『赤原さん、巴さん、陣を展開しますので先行して大厄を抑えてください、後ほど部隊が合流しますのでそれまで耐えてください』
 
 「了解ッ!!」

 オペレーターの渡り巫女から指示を受け、陣の展開まで数十秒待つ二人。
 その間に洋助は、一言だけ雪に向けて口を開く。

 「…雪、さっきの話の続きだけど、…絶対後で言うから、だから死ぬなよ…」
 「うん、洋助くんも、絶対死なないでね…」

 そう言って二人は転移先の風景が写された陣に飛び込み、姿を消した。

 巫女達にとって苛烈で、壮絶な戦いの火蓋が、今、切って落とされた――。
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