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遊撃部隊入隊編
九話
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赤原洋助の毎日は、常に怪我が付きまとう。
「うわぁっ!?」
「もっと上半身を意識しろ、足だけで避けようとするな」
およそ週一回で行われる水島との格闘訓練、それは打撃や転倒等で生傷が絶えない。
そして別の日には――。
「ぐッ…!」
「洋助、刀の振り方が甘い、もっと打ち込みなさい」
三日に一回、灯との打ち合いを経て鍛錬を積む、もちろん生傷は絶えない。
さらに別の日には――。
「洋助さん、今日も怪我が酷いですね…、少しはご自愛ください…」
「楓さん…、すみません、でもこれぐらい平気ですから、心配ないです」
「雪ちゃんも少しは怪我をさせない様に立ち回ってください、洋助さんが可哀想です…」
「し、仕方ないじゃない…、最近の洋助くん手加減する余裕なくて…」
巴家にお世話になってから敷地の道場を使って雪と修行をしつつ、宗一郎がいる時にはその指導を受けている。
教育機関に所属していた時とは異なり、洋助も着々と実力を付けている、そのため雪も加減が難しくなり前よりも怪我が増える次第である。
そこに大厄と戦う日々が加わり、生傷だけでなく命に関わる怪我もする。
巴家に戻る度に楓に心配され、本部では焔に気遣われる始末である。
そんな目まぐるしい毎日は過ぎ、五か月の時間は洋助を確かに成長させた。
――――
―――
――
「……して、近況はどうだ?」
執務室で作業をする長く美しい髪を束ねる女性、その表情は険しく、穏やかではない。
「この六か月、大厄による死者はいません、世論の巫女に対する信用は高まり――」
「詭弁はよい、その原因だけ申せ」
「――はッ」
神威の巫女、渡り巫女、戦巫女、そのすべてを総統する総司令、彼女すら深々と頭を下げる存在、朧。
威圧感に圧倒されながらも、総指令である巫女は報告を続ける。
「この六か月の大厄出現記録をまとめた結果、出現数は例年に比べ少なく、その影響もあるかと…」
「そうか」
興味がなさそうな声で返答し、朧は煙管を咥える。
「もう一つ、六か月前に配属された赤原洋助、及び巴雪らによる活躍も起因していると思われます」
「ほう…」
「特に、赤原洋助においては常に大厄の動向を見ており、出現の際には迅速に対応しております、また、特殊遊撃部隊の統率も上がり部隊全体の撃破数も上がっております」
「あの小僧が…そうか…中々に面白いな」
煙を吐き、愉快そうに口角を上げる。
空気は重く一変し、頭を下げる総司令と呼ばれる巫女の額に一筋の汗が流れる。
「さらに、一番隊の巴雪による戦況予想や他部隊との連帯強化案、様々な大厄戦への対処が変更され、その影響も大きいです…」
「流石は宗一郎の孫…と言ったところか…有能すぎるのもちと困りものだがな…」
本来であれば褒められるべき事であるが、朧の表情は変わらず険しい。
「二人の近況は今後も報告しろ、特に洋助に関しては仔細を追って伝えろ」
「はっ、御心のままに」
巫女達の総司令は音もなく下がり、退室しようとする。
すると朧は煙管を置き、思い出す様に呟く。
「…そうだ、近々大厄が来る、それも大きな災いだ、準備しておけ」
「―――はっ」
どのような根拠か、誰も知り得ない大厄の出現を断言する朧。
その言葉に少し動揺しながらも総司令は静かにドアを閉め、姿を消す。
「赤原、洋助…、久方ぶりに気骨ある人間がいたと思っていたが…、想像以上にやりおる」
困った、そう思わせる口ぶりで一人呟く。
朧は本棚から古い資料を取り出すと、大厄について書かれた資料に目を通す。
「六か月…、艱難辛苦と言ったところか…、精々気張るがよい、巫女、そして洋助…」
不穏な笑みを浮かべ、大厄最大の脅威、『艱難辛苦』の言葉を発する。
それを意味するは何か、今は全て謎に包まれながら、朧の言葉は窓から吹く穏やかな風と共に消え去っていった――。
「うわぁっ!?」
「もっと上半身を意識しろ、足だけで避けようとするな」
およそ週一回で行われる水島との格闘訓練、それは打撃や転倒等で生傷が絶えない。
そして別の日には――。
「ぐッ…!」
「洋助、刀の振り方が甘い、もっと打ち込みなさい」
三日に一回、灯との打ち合いを経て鍛錬を積む、もちろん生傷は絶えない。
さらに別の日には――。
「洋助さん、今日も怪我が酷いですね…、少しはご自愛ください…」
「楓さん…、すみません、でもこれぐらい平気ですから、心配ないです」
「雪ちゃんも少しは怪我をさせない様に立ち回ってください、洋助さんが可哀想です…」
「し、仕方ないじゃない…、最近の洋助くん手加減する余裕なくて…」
巴家にお世話になってから敷地の道場を使って雪と修行をしつつ、宗一郎がいる時にはその指導を受けている。
教育機関に所属していた時とは異なり、洋助も着々と実力を付けている、そのため雪も加減が難しくなり前よりも怪我が増える次第である。
そこに大厄と戦う日々が加わり、生傷だけでなく命に関わる怪我もする。
巴家に戻る度に楓に心配され、本部では焔に気遣われる始末である。
そんな目まぐるしい毎日は過ぎ、五か月の時間は洋助を確かに成長させた。
――――
―――
――
「……して、近況はどうだ?」
執務室で作業をする長く美しい髪を束ねる女性、その表情は険しく、穏やかではない。
「この六か月、大厄による死者はいません、世論の巫女に対する信用は高まり――」
「詭弁はよい、その原因だけ申せ」
「――はッ」
神威の巫女、渡り巫女、戦巫女、そのすべてを総統する総司令、彼女すら深々と頭を下げる存在、朧。
威圧感に圧倒されながらも、総指令である巫女は報告を続ける。
「この六か月の大厄出現記録をまとめた結果、出現数は例年に比べ少なく、その影響もあるかと…」
「そうか」
興味がなさそうな声で返答し、朧は煙管を咥える。
「もう一つ、六か月前に配属された赤原洋助、及び巴雪らによる活躍も起因していると思われます」
「ほう…」
「特に、赤原洋助においては常に大厄の動向を見ており、出現の際には迅速に対応しております、また、特殊遊撃部隊の統率も上がり部隊全体の撃破数も上がっております」
「あの小僧が…そうか…中々に面白いな」
煙を吐き、愉快そうに口角を上げる。
空気は重く一変し、頭を下げる総司令と呼ばれる巫女の額に一筋の汗が流れる。
「さらに、一番隊の巴雪による戦況予想や他部隊との連帯強化案、様々な大厄戦への対処が変更され、その影響も大きいです…」
「流石は宗一郎の孫…と言ったところか…有能すぎるのもちと困りものだがな…」
本来であれば褒められるべき事であるが、朧の表情は変わらず険しい。
「二人の近況は今後も報告しろ、特に洋助に関しては仔細を追って伝えろ」
「はっ、御心のままに」
巫女達の総司令は音もなく下がり、退室しようとする。
すると朧は煙管を置き、思い出す様に呟く。
「…そうだ、近々大厄が来る、それも大きな災いだ、準備しておけ」
「―――はっ」
どのような根拠か、誰も知り得ない大厄の出現を断言する朧。
その言葉に少し動揺しながらも総司令は静かにドアを閉め、姿を消す。
「赤原、洋助…、久方ぶりに気骨ある人間がいたと思っていたが…、想像以上にやりおる」
困った、そう思わせる口ぶりで一人呟く。
朧は本棚から古い資料を取り出すと、大厄について書かれた資料に目を通す。
「六か月…、艱難辛苦と言ったところか…、精々気張るがよい、巫女、そして洋助…」
不穏な笑みを浮かべ、大厄最大の脅威、『艱難辛苦』の言葉を発する。
それを意味するは何か、今は全て謎に包まれながら、朧の言葉は窓から吹く穏やかな風と共に消え去っていった――。
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