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遊撃部隊入隊編
八話
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目が覚めると見慣れぬ風景が広がり、温かい布団から身を起こす。
「そうか…雪の家に泊まっていたな、俺…」
寝ぼけた思考を整理し、身支度を整え部屋を出る。
早朝の空気を感じながら廊下を歩くと、朝ごはんを作る包丁の音が響いてくる。
「おはようございます楓さん」
「あら?朝早いのですね洋助さん、今朝食を用意するので待っていてくださいね」
「……手伝いますよ、雪よりは力になれます」
「いいの?ならお味噌汁に使うお豆腐とお野菜切って貰ってもいいかしら?」
「わかりました」
台所に立つと、慣れた手つきで豆腐を手に置き切り分ける、と、少し感慨深くなる。
「―――」
大厄と関わってからの日常は鍛錬と巫女の世界を知るための学習、そして戦巫女としての役割を担うため闘いの日々。
同じ刃物でもその意味は大きく違い、包丁を握る手は軽やかになる。
「随分手慣れていますね、洋助さん自炊しているの?」
「あ、いえ、最近は本部の食堂で済ましているので自炊はしてないです、ただ…、昔こうやって母の料理を手伝っていたので覚えているだけですよ」
「そう…、洋助さんは…お料理は好きですか?」
「どうでしょう…、こうやって無心で作業していると落ち着きますけど…好きなんですかね?」
「でしたら、今後は私がお料理教えますので手伝って頂けますか?雪ちゃんあんまりお料理得意じゃないから…、一緒にお料理作るのに憧れていたの」
「そんな事でしたら全然いいですよ、いつでも手伝います」
何気なく発言したがその意味を一瞬遅れて理解する。
今日だけではなく今後も巴家に来ると約束したような物であり、少し気恥ずかしくなりながら手元の野菜を切り始める。
すると、居間から一人の寝坊助が現れる。
「おはよう~母さん……」
「おはようございます雪ちゃん、あ、洋助さん、お皿こちらに持ってきて貰ってもいいですか?」
「これですか?どうぞ」
「――――ぇ?洋助…くん?」
存在を忘れていたとばかりに寝ぼけていた雪は、洋助の名前を聞くと重く閉じかけていた瞼が開く。
「雪ちゃん、洋助さんが泊まっていた事忘れていたのですか?」
「――いや…違くて…」
顔を真っ赤にして後ずさる雪。
その様子を不思議に思い視線を移す洋助は、その姿に一瞬固まる。
「……ぁ」
年頃の女の子の寝間着、しかもだらしなくお腹のあたりがめくれていた。
「き、着替えてくるッ!」
「相変わらず雪ちゃんは朝が苦手ねー」
「は、はは…」
眼福、と言っていいものか。
学生時代に忘れていたときめき的な感情が湧き、困惑しながら朝食を準備する。
巴家の朝は想像以上に賑やかで退屈しない、ありふれた日常を経て朝を過ごす。
「朝ごはんご馳走になりました、近いうちにまた来ますね」
「近いうち、なんて言わずに毎日来てくださいね、雪と一緒に帰って来てください」
「ありがとうございます、…そういえば宗一郎さんは?今朝はいなかったようですが、昨日夜に少しお会いしたのでご挨拶を…」
「あぁ…お父さんでしたら朝早くから本部に向かいました、いつも何も言わないので困っちゃいますよね」
「そうですか…わかりました」
食卓にいなかったので気になったが、お務めであれば仕方ない。
いつかまた剣の稽古を付けてもらうため、巴家に再び来る決心を固く決める。
「雪は今日非番か、ゆっくり休んでな」
「…うん、洋助くんこそお務め頑張ってね」
「まぁ、大厄が現れず何事も無ければそれに越したことは無いけどな」
「そうだね、何事もなく無事帰って来てね」
「あらー?灯ちゃん既にお嫁さん気分かしら?」
「ち、違うよ!?」
恒例と化した巴親子のやり取りを見て笑う。
水を差すのも悪いと思い、黙って振り返り本部に向かった。
「―――洋助さん」
「―――洋助くん」
ふと、呼び止められる。
楓と雪はただ優しく笑って、大切な一言を送る。
『いってらっしゃい』
長らく忘れていた言葉、当り前すぎて頭から抜けていた言葉。
そんなささいで、ありふれた言葉すら思い出せなかった洋助は、今確かに年相応の心を取り戻した。
「いってきますっ!」
元気よく、高らかにその声は朝の空に届き、少年の心は失くしたものを取り戻した。
「そうか…雪の家に泊まっていたな、俺…」
寝ぼけた思考を整理し、身支度を整え部屋を出る。
早朝の空気を感じながら廊下を歩くと、朝ごはんを作る包丁の音が響いてくる。
「おはようございます楓さん」
「あら?朝早いのですね洋助さん、今朝食を用意するので待っていてくださいね」
「……手伝いますよ、雪よりは力になれます」
「いいの?ならお味噌汁に使うお豆腐とお野菜切って貰ってもいいかしら?」
「わかりました」
台所に立つと、慣れた手つきで豆腐を手に置き切り分ける、と、少し感慨深くなる。
「―――」
大厄と関わってからの日常は鍛錬と巫女の世界を知るための学習、そして戦巫女としての役割を担うため闘いの日々。
同じ刃物でもその意味は大きく違い、包丁を握る手は軽やかになる。
「随分手慣れていますね、洋助さん自炊しているの?」
「あ、いえ、最近は本部の食堂で済ましているので自炊はしてないです、ただ…、昔こうやって母の料理を手伝っていたので覚えているだけですよ」
「そう…、洋助さんは…お料理は好きですか?」
「どうでしょう…、こうやって無心で作業していると落ち着きますけど…好きなんですかね?」
「でしたら、今後は私がお料理教えますので手伝って頂けますか?雪ちゃんあんまりお料理得意じゃないから…、一緒にお料理作るのに憧れていたの」
「そんな事でしたら全然いいですよ、いつでも手伝います」
何気なく発言したがその意味を一瞬遅れて理解する。
今日だけではなく今後も巴家に来ると約束したような物であり、少し気恥ずかしくなりながら手元の野菜を切り始める。
すると、居間から一人の寝坊助が現れる。
「おはよう~母さん……」
「おはようございます雪ちゃん、あ、洋助さん、お皿こちらに持ってきて貰ってもいいですか?」
「これですか?どうぞ」
「――――ぇ?洋助…くん?」
存在を忘れていたとばかりに寝ぼけていた雪は、洋助の名前を聞くと重く閉じかけていた瞼が開く。
「雪ちゃん、洋助さんが泊まっていた事忘れていたのですか?」
「――いや…違くて…」
顔を真っ赤にして後ずさる雪。
その様子を不思議に思い視線を移す洋助は、その姿に一瞬固まる。
「……ぁ」
年頃の女の子の寝間着、しかもだらしなくお腹のあたりがめくれていた。
「き、着替えてくるッ!」
「相変わらず雪ちゃんは朝が苦手ねー」
「は、はは…」
眼福、と言っていいものか。
学生時代に忘れていたときめき的な感情が湧き、困惑しながら朝食を準備する。
巴家の朝は想像以上に賑やかで退屈しない、ありふれた日常を経て朝を過ごす。
「朝ごはんご馳走になりました、近いうちにまた来ますね」
「近いうち、なんて言わずに毎日来てくださいね、雪と一緒に帰って来てください」
「ありがとうございます、…そういえば宗一郎さんは?今朝はいなかったようですが、昨日夜に少しお会いしたのでご挨拶を…」
「あぁ…お父さんでしたら朝早くから本部に向かいました、いつも何も言わないので困っちゃいますよね」
「そうですか…わかりました」
食卓にいなかったので気になったが、お務めであれば仕方ない。
いつかまた剣の稽古を付けてもらうため、巴家に再び来る決心を固く決める。
「雪は今日非番か、ゆっくり休んでな」
「…うん、洋助くんこそお務め頑張ってね」
「まぁ、大厄が現れず何事も無ければそれに越したことは無いけどな」
「そうだね、何事もなく無事帰って来てね」
「あらー?灯ちゃん既にお嫁さん気分かしら?」
「ち、違うよ!?」
恒例と化した巴親子のやり取りを見て笑う。
水を差すのも悪いと思い、黙って振り返り本部に向かった。
「―――洋助さん」
「―――洋助くん」
ふと、呼び止められる。
楓と雪はただ優しく笑って、大切な一言を送る。
『いってらっしゃい』
長らく忘れていた言葉、当り前すぎて頭から抜けていた言葉。
そんなささいで、ありふれた言葉すら思い出せなかった洋助は、今確かに年相応の心を取り戻した。
「いってきますっ!」
元気よく、高らかにその声は朝の空に届き、少年の心は失くしたものを取り戻した。
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