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巫女教育機関編

おまけ とある日

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 それは初めて彼らがまともに会話をした、昼食での出来事。

 「―――はぁ…」

 教育機関での生活も一週間が経ち、基本的な生活にも慣れ始めた洋助。
 しかし、お昼のこの時間になると溜息を一つしてしまう、その理由が――。

 「―――巴、さん…別に昼食の時ぐらい仲の良い人と行って来て大丈夫じゃない?」
 「私には、貴方の監視が命じられている、授業中や実技練習、そして休憩時間も例外じゃないわ、それは貴方もわかっているでしょう?」

 淡々と返され、何も言えなくなる。
 確かに正論なのだが、距離感の近さというべきか、じっと見つめられ食事をするのは居心地が悪く、耐えきれずにいた洋助。

 「巴、さんは…嫌じゃないのか?みんな俺の事気味悪がっているし、無理して監視の任務をしているんじゃないのか?」
 「……無理は、してない」
 「そう、か…まぁ、それならそれでいいけど…」

 諦めて施設内で買ったおにぎりを空ける。
 広い施設内では一般的な購買に似た場所があり、洋助はそこで飲食を賄っている。

 「―――今日も、おにぎり?」
 「え?あぁ…まぁ…」

 普段の二人に会話は無い。
 それは、黙々と食事をとって巫女に関する知識の勉強をする洋助に対し、巴雪はゆっくりと食事をとるからである。
 最初の洋助の質問が影響したのか今度は雪が訊き、それに動揺する。

 「巫女は無料で利用できる食堂があるはずだけど…使わないの?」
 「―――いや、俺はここでいい」
 「…そう」

 わざわざ洋助が食堂を利用しないのは、その存在が異質故である。
 ただでさえ教室内でも浮いているのに、食堂という人の多い場所に行けば視線が痛いのは考えなくても分かる事。

 ――それにもう一つ、洋助には気付いた事がある。
 
 それは、異様に美人が多いという事実。
 男が自分一人しかいない環境で周りが美人だらけでは味もしなくなる、よって教室で縮こまり、おにぎりで済ますのであった。

 「……いただきます」

 雪が行儀よく小さく手を合わせ、そう呟く。
 比較的小さめなお弁当に、色とりどりの和食を中心に詰められたお弁当。

 「そういえば、巴さんはお弁当自分で作っているのか?」

 巫女で自炊する人は少なく大概は食堂へ行く。
 故にお弁当を持ってきている巫女は珍しく、何か事情でもない限りは作ってはこない。

 「いいえ、今は寮母さんに作って貰ってる、私は料理苦手」
 「そう、なのか…もしかして俺の監視があるからお弁当にしているとか…?」
 「―――そんな、事はないわ」

 少し間が開く。
 彼女なりの優しさで気を遣って誤魔化したが、それを洋助は感じ取り反射的に謝る。

 「ごめん、巴さんの日常生活にまで迷惑を掛けて…」
 「そんな事ないって…言った、それにお弁当も悪くない」
 「そう、か…ありがとう」

 復讐に囚われ、常に尖った雰囲気を纏う洋助が柔らかく感謝する。
 その様子が珍しく、雪は驚くように箸を止める。

 「意外と律儀ね、赤原くんは…」
 「え?そうかな…」
 
 困惑する洋助を横目に、箸を進める雪は小さく、ぽつりと呟く。

 「さっきみたいな顔してれば、皆貴方を怖がる事なんてないのにね…」

 その声は教室に戻る巫女達の雑踏で消され、届くことは無い。

 いつものようにゆっくりと食事をとる雪。
 ようやく動き出した洋助と雪、二人は手探りでその関係を築こうとしていたのであった――。
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