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遊撃部隊入隊編
二話
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『京都郊外にて苦難とされる大厄が発生、巫女は直ちに戦闘配置についてください』
何度も響くアナウンス、緊急事態を意味するその放送は大厄対策本部に流れる。
『至急、特殊遊撃部隊の戦巫女は転送陣に配置してください』
僅か三名の部隊に宛てられた放送、それに呼応するように走り抜ける人影。
一人は戦闘用のコートを羽織りながら走り、一人は巫女装束を抑えて転ばぬ様におしとやかに走る、そしてもう一人は―――。
「すみませんッ!遅れました!転送お願いしますッ!」
『赤原さん、西南の符陣に付いてください、いつでも転送できます』
渡り巫女と呼ばれる彼女達は、神力を使った符術を形成し、転移術式を組み立てる。
青白い光が陣を照らし、転送先の風景が透けるように見えてくる、洋助はそれに飛び込み一瞬で姿を消した。
「こちら灯、いつでもいけるよ!」
『桐島さん、東の符陣で転送お願いします、民間人の保護を優先してください』
「りょーかい、任してよ」
桐島灯はひたすらに陽気に、だが真剣な目つきで気持ちを切り替える。
「水瀬焔、いけます」
『水瀬さんは現場から五百メートル離れたポイントに転送しますので援護お願いします、また、打ち漏らした大厄の掃討も忘れずに頼みます』
「御意に」
冷たい声、その冷静な声色に呼応し、大弓は担がれる。
『特殊遊撃部隊三名、現場に到着、モニタリングします』
渡り巫女の一人が電子機器を操作し、巨大なモニターから巫女の戦闘風景や民間人の被害状況を映し出す。
この技術は符術による風景の反射を利用した巫女特有の技であり、渡り巫女の仕事の一つでもある。
それに近代の機械を交え、新しいやり方で実践しているのが今である。
渡り巫女達の指示と戦闘補佐を受け、特殊遊撃部隊の三名は戦闘を開始した。
『赤原さんが苦難四体と交戦中、桐島部隊長は民間人の避難経路を確保しつつ、追撃する苦難六体を迎撃しております』
戦況は着々と変わり、出現した大厄が洋助達によって消滅していく。
『水瀬隊員の射撃により、戦闘エリア外に向かう大厄の掃討を確認致しました、現存する大厄は交戦中の四体となります』
小規模の爆発を引き起こし、矢が突き刺さっている林道がモニターに映る。
そこには市街に向かう大厄が無慈悲に射抜かれ、骸が残り蒼い炎だけが揺らめいていた。
『赤原さんが大厄を殲滅、現在反応する大厄はおりませんが、順次警戒状態で巫女を待機させます』
苦難を切り伏せ、灯と焔と合流して洋助が大きなモニターに映る。
そこには屈託の無い笑顔で安堵する少年がいた。
「―――最近洋助くん、腕をあげてきたよね」
「…確かに、部隊に配属されてまだ一か月なのに大厄の撃破数を重ねていますね…」
「それに、けっこうカッコイイし、実際話すと礼儀正しくて好青年だよね」
「あ~、戦巫女の先輩達が可愛がっていましたね…」
事態が一段落し、渡り巫女が話始める。
その話題は男でありながら巫女の力を持つ異例の存在、洋助の話題であった。
「あーあ、私ら渡り巫女は大厄の観測と監視、現場の事後処理や報告書の作成で裏方ばっかり、洋助くんと接点無さ過ぎ」
「仕方無いですよ、戦巫女になる素質も勇気も無かったからここにいるんですから、諦めましょう」
「けど、巫女の力が衰退する年齢まで異性との絡みなんて無いから、実質的に恋愛対象なんて洋助くんぐらいしかいなくない?」
「…………」
「…………」
沈黙する渡り巫女二人、デスクの符と機械を操作する手が止まる。
「彼は、好きな子とかいるのかしら…?」
「さぁ…、けど一つ言えるのは私達に可能性は無いってことですね」
諦めにも似た達観で、再び仕事に戻る。
その最中、現場に合流する戦巫女の部隊から連絡が入る。
『戦巫女一番隊から連絡、別件で待機中だったため行動可能な人員を連れて急行したとの事、特殊遊撃部隊と共に警備に配置致します』
戦巫女一番隊が合流し、その先頭に立つ薄赤の刀を握る巫女がモニターに映る。
「…そういえば、同時期に配属された巴雪さんも優秀な戦巫女ですよね、同じ教育機関にいたとか…」
「へー、仲良いのかな?」
「どうですかね、画面見てれば分かるんじゃないですか?」
半ば冗談のような気持ちでけしかけ、画面に映る雪と洋助を観察する。
声こそ聞こえないが、明らかに照れながらも再会を喜ぶ雪の姿と、純粋に喜んでいる洋助の姿が見えた。
「これは…黒かな?」
「ぎりぎり…、灰色、ですかね?」
見極めようと集中して覗き込むと、後ろから二人を見下ろす影あり。
「任務中に覗きとは…、良い趣味じゃないか?」
「あ…、し、指令…、これは、その、違いまして…」
「そうです!そうです!ちゃんと現場に異変がないか確認を―――」
言い切る前に頭に手刀を下ろされ、持ち場に戻る二人。
頭をさすりながら作業をし、先程の答え合わせをお互いする。
「多分近いうちに付き合いますね、彼ら」
「奇遇ですね、私も似たような感想でしたよ」
二人の渡り巫女が進展しない二人の関係性を予想し、今回の襲撃は被害者も出ず、無事に収束されるのであった――。
何度も響くアナウンス、緊急事態を意味するその放送は大厄対策本部に流れる。
『至急、特殊遊撃部隊の戦巫女は転送陣に配置してください』
僅か三名の部隊に宛てられた放送、それに呼応するように走り抜ける人影。
一人は戦闘用のコートを羽織りながら走り、一人は巫女装束を抑えて転ばぬ様におしとやかに走る、そしてもう一人は―――。
「すみませんッ!遅れました!転送お願いしますッ!」
『赤原さん、西南の符陣に付いてください、いつでも転送できます』
渡り巫女と呼ばれる彼女達は、神力を使った符術を形成し、転移術式を組み立てる。
青白い光が陣を照らし、転送先の風景が透けるように見えてくる、洋助はそれに飛び込み一瞬で姿を消した。
「こちら灯、いつでもいけるよ!」
『桐島さん、東の符陣で転送お願いします、民間人の保護を優先してください』
「りょーかい、任してよ」
桐島灯はひたすらに陽気に、だが真剣な目つきで気持ちを切り替える。
「水瀬焔、いけます」
『水瀬さんは現場から五百メートル離れたポイントに転送しますので援護お願いします、また、打ち漏らした大厄の掃討も忘れずに頼みます』
「御意に」
冷たい声、その冷静な声色に呼応し、大弓は担がれる。
『特殊遊撃部隊三名、現場に到着、モニタリングします』
渡り巫女の一人が電子機器を操作し、巨大なモニターから巫女の戦闘風景や民間人の被害状況を映し出す。
この技術は符術による風景の反射を利用した巫女特有の技であり、渡り巫女の仕事の一つでもある。
それに近代の機械を交え、新しいやり方で実践しているのが今である。
渡り巫女達の指示と戦闘補佐を受け、特殊遊撃部隊の三名は戦闘を開始した。
『赤原さんが苦難四体と交戦中、桐島部隊長は民間人の避難経路を確保しつつ、追撃する苦難六体を迎撃しております』
戦況は着々と変わり、出現した大厄が洋助達によって消滅していく。
『水瀬隊員の射撃により、戦闘エリア外に向かう大厄の掃討を確認致しました、現存する大厄は交戦中の四体となります』
小規模の爆発を引き起こし、矢が突き刺さっている林道がモニターに映る。
そこには市街に向かう大厄が無慈悲に射抜かれ、骸が残り蒼い炎だけが揺らめいていた。
『赤原さんが大厄を殲滅、現在反応する大厄はおりませんが、順次警戒状態で巫女を待機させます』
苦難を切り伏せ、灯と焔と合流して洋助が大きなモニターに映る。
そこには屈託の無い笑顔で安堵する少年がいた。
「―――最近洋助くん、腕をあげてきたよね」
「…確かに、部隊に配属されてまだ一か月なのに大厄の撃破数を重ねていますね…」
「それに、けっこうカッコイイし、実際話すと礼儀正しくて好青年だよね」
「あ~、戦巫女の先輩達が可愛がっていましたね…」
事態が一段落し、渡り巫女が話始める。
その話題は男でありながら巫女の力を持つ異例の存在、洋助の話題であった。
「あーあ、私ら渡り巫女は大厄の観測と監視、現場の事後処理や報告書の作成で裏方ばっかり、洋助くんと接点無さ過ぎ」
「仕方無いですよ、戦巫女になる素質も勇気も無かったからここにいるんですから、諦めましょう」
「けど、巫女の力が衰退する年齢まで異性との絡みなんて無いから、実質的に恋愛対象なんて洋助くんぐらいしかいなくない?」
「…………」
「…………」
沈黙する渡り巫女二人、デスクの符と機械を操作する手が止まる。
「彼は、好きな子とかいるのかしら…?」
「さぁ…、けど一つ言えるのは私達に可能性は無いってことですね」
諦めにも似た達観で、再び仕事に戻る。
その最中、現場に合流する戦巫女の部隊から連絡が入る。
『戦巫女一番隊から連絡、別件で待機中だったため行動可能な人員を連れて急行したとの事、特殊遊撃部隊と共に警備に配置致します』
戦巫女一番隊が合流し、その先頭に立つ薄赤の刀を握る巫女がモニターに映る。
「…そういえば、同時期に配属された巴雪さんも優秀な戦巫女ですよね、同じ教育機関にいたとか…」
「へー、仲良いのかな?」
「どうですかね、画面見てれば分かるんじゃないですか?」
半ば冗談のような気持ちでけしかけ、画面に映る雪と洋助を観察する。
声こそ聞こえないが、明らかに照れながらも再会を喜ぶ雪の姿と、純粋に喜んでいる洋助の姿が見えた。
「これは…黒かな?」
「ぎりぎり…、灰色、ですかね?」
見極めようと集中して覗き込むと、後ろから二人を見下ろす影あり。
「任務中に覗きとは…、良い趣味じゃないか?」
「あ…、し、指令…、これは、その、違いまして…」
「そうです!そうです!ちゃんと現場に異変がないか確認を―――」
言い切る前に頭に手刀を下ろされ、持ち場に戻る二人。
頭をさすりながら作業をし、先程の答え合わせをお互いする。
「多分近いうちに付き合いますね、彼ら」
「奇遇ですね、私も似たような感想でしたよ」
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