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遊撃部隊入隊編

一話 

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 東京での大厄発生から二週間、洋助は驚異的な回復速度で怪我を治していた。
 治療を担当していた医師が顔を困らせる程の回復力は、通常の巫女にはありえない神力による副次効果であった。

 「ふぅー…、よし!」
 「そんな緊張しなくても、朧様は怒らないと思うよ」

 執務室、そう書かれている扉を前に、洋助と雪は立ち止まる。

 「軽い任命式みたいなものって、灯さんも言っていたから気負わず行こう」
 「あぁ、そうだな…」

 雪が先行して扉をノックする、それに続く形で洋助は後ろに付く。
 
 部屋に入ると暖かな日差しが差し込んでおり、古書の香りがする、そして事務作業中であった朧がこちらを見据える。

 「失礼します、巫女教育機関関東支部から参りました、巴雪です、まず、予定していた日時より遅れてしまった事をお詫び申し上げます…」
 「…同じく赤原洋助です、申し訳ありませんでした…」

 見様見まねで頭を下げる。
 思えば毎日毎日鍛錬、そして戦闘に必要な知識の学習だけでこういった社会的に必要な作法や常識がまったくわからない、ここは雪に甘えて話してもらおう。

 「よい、頭を上げよ…そうか…お主らが件の巫女、いや、巫女と一人か…」

 筆を置いて視線が流れる、雪の顔を一瞬確かめ、洋助は目を細めて見つめる。

 「巴…、宗一郎は元気か?あやつは子供の頃から危なっかしい奴でな…」
 「はっ、祖父は変わらず剣の修行に務めております」
 「相も変わらず剣術馬鹿じゃな、あやつは…」

 幼少の宗一郎、その時代を知っている。
 俺達と同じぐらいの見た目をしている朧、その年齢は正確には分からず、戦国の世から生きているとも言われている。

 「して…、洋助、と言ったか?小僧?」
 「は、はいッ!」
 「ふむ…男ながらに巫女と同じ力を持つとな、なかなかに興味深いな…」

 おもむろに席を立ち、洋助の目の前まで悠然と歩く。
 その立ち振る舞いは凄みがあり、威圧感は雪にまで伝わる。

 「顔を見せろ、洋助」
 「―――ぇ」

 顎を掴まれ、瞳を覗かれる。

 「――――ふむ…」

 殺される、そう思ってしまう程に掴んでいる手が冷たく、万力のような力で固定され身動きがとれない。
 当の本人は玩具をいじるような手つきで顔を触り、吐息が触る距離で洋助を見つめる。

 「あ、あの…朧、様?」
 「そうか…、これは、中々面白い」

 長い、美しい髪が、さらり、と肩から落ちて朧は離れる。
 至近距離から感じた朧の体温、そして存在、見れば見るほど何百年も生きたとは思えない美しさである。

 「洋助、お主は妹…、そやつの力によって守られておるな」
 「…え、い、伊織が、ですか?」
 「神力とは想いの力、強く願い、願われた乙女に秘められる神様の啓示のようなもの」
 「想いの、力…」
 「妹は死の間際強く願った、兄を助けてほしい、と…その無垢な願いは聞き入れられ、巫女としての力が覚醒したのじゃ」

 朧から説明を受けるが頭が追い付かない、何を話されているのか、何の話なのか、混乱する思考をよそに朧は続ける。

 「しかし、それでも力は足らず、残った神力をお主に宿し生かした、それがお主の神力の正体じゃ」
 「伊織が、俺を、生かした…?」
 「故に洋助の力は正確には神力にあらず、厳密には力そのものというべきか…、お主の魂の中で眠る妹の力、だろうか…」

 自身の魂で眠る伊織、その言葉を聞き動揺する。

 「い、伊織は、生きているんですかッ!?」
 「生きている…そうとも言えるし、死んでいるともいえる」
 「そんな…」
 「だがそのおかげで生き長らえていることを忘れるなよ、洋助」

 胸に手を置き、その言葉を刻むように拳を握る洋助。
 思いもよらぬ力の正体を明かされ、困惑しながらも意識を保つ。

 「さて…与太話が長くなったが、お主らに正式な巫女としての役割を言い渡そう」

 まだ訊きたい事があるがこれ以上尋ねるのは失礼になる、こみ上げた感情を押し殺して喉元まで出かかった言葉を留めた。

 「巴雪、お前には戦巫女一番隊の所属を命ずる、励めよ」
 「はいッ!」

 戦巫女一番隊、それは強さの序列を表す。
 部隊内で優秀な巫女が集められた所属であり、巴雪はそれに相応しい実力と認めたられた形となる。

 「赤原洋助、お前は特殊遊撃部隊として有事の際に臨機応変に対応してもらう、忙しくなるが、励めよ」
 「――ッはい!」

 特殊遊撃部隊、イレギュラー的存在の巫女で結成された名ばかりの部隊、その意味が表すは問題児の集まりである。
 協調性に欠け、己の剣技だけで独断し行動する桐島灯と、強すぎる力で単独での行動を余儀なくされる水瀬焔。
 そして男でありながら巫女としての力、神力を有する特例的存在の赤原洋助。

 この特殊な状況下の中、洋助は戦巫女としての責務をただひたすらに果たしていくのであった。
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