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巫女教育機関編

十一話 

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 「こんな……こんな美味しい物があったなんて…、美味だわ…」
 「大げさだな…クレープがそんなに珍しかった?」
 「ケーキは食べた事あるの…けど、こんな形状の甘未は知らなかったわ…」

 道すがら雪が興味を示したクレープ屋に寄り、広場のベンチで食べる。
 クレープがお気に召したのか顔がほころんでいる、それだけを見ていると彼女が巫女である事を忘れそうになる。

 「どら焼きより美味しい物があるなんて驚きだわ…」

 もきゅもきゅ、と聞こえるような食べ方でクレープを頬張る雪。
 その様子が可愛らしくて、伊織が好きだったパフェの食べ方と重ねて見てしまう。

 「また今度…食べに行けるといいな」
 「そんな暇があればいいけど、戦巫女として配属されたら休みなんて無いわよ」

 少し眉をひそめて残りのクレープを食べ切る。

 「俺たちが休みを返上して戦えば目の前の光景を守ることができ、何事もなければこうやってクレープぐらいは食べる暇はある、それなら文句ない」
 「…貴方は、本気で大厄から皆を守れると思っているの?」
 「そう、だな…、今はまだ力が足りないけど、いつか雪よりも強くなって大厄から皆を守りたい、その願いは揺るがないよ」

 照れ臭くなりながら答える洋助は、不釣り合いな願いと思いながらもそう語る。
 雪はその答えに満足したようにお茶を飲み、涼しげな風に髪をたなびかせる、その瞬間であった。


 ―――――刹那、空気が冷たく一変し、殺意が漂う。


 「――っ!?」
 「……………」

 状況の変化に動揺する雪。
 先ほどまで穏やかな時間が流れていた広場は、地面から張られる複数の結界によって大厄の訪れを知らせる。

 「ッ…大厄ッ!?どうして、こんな場所で!?」
 「…………」

 突如出現した結界から、次々と蒼い炎を纏った腕が這い出る。


 ――今、常世の闇から顕現せし災厄にして無常の大厄。


 突然の事態に逃げ惑う市民、ゆっくりと動き出す苦難の大厄、動揺し正しい状況を掴めずにいる雪。
 その中で唯一人、冷静に、息を殺し、押し寄せる様々な感情を押さえつけて洋助は口を開ける。

 「……俺はこの広場にいる大厄を抑える、雪は市民の避難と護衛を頼む」
 「なッ…何を言ってるのッ!?貴方だけじゃこの数の大厄を相手に――」

 心配する雪を遮り、洋助は言い切る。

 「お前が!!……お前が守らなきゃッ!!お前が…、雪なら…皆を守りながら戦える実力がある、俺には出来ない」
 「けど…洋助くんが…」
 「本部はすぐ近くだ、数分耐えれば巫女が駆け付ける、だから、皆を頼む…」

 悲痛な願いを託し、洋助は刀を抜刀する。
 神力を纏い綺麗な青色が一瞬光ると、その瞳には確固たる決意が宿る。

 「ッ……ご武運を、洋助君…」

 雪もそれが最善と判断し、神力を纏って人の多い道まで突き進む。
 その表情は戸惑いと不安が混じり、今にも泣きそうな顔であった。

 「来い…大厄ども、俺が、全てを切り伏せる」

 視界に映るは七つの大厄、のろり、のろり、と歩みをこちらに寄せてくる。
 内二体は武器を持たない素手の苦難、残りの五体は切先の無い折れた刃物を握り、蒼い炎の内側から見える赤い視線がこちらを捉える。

 「――――ッだぁぁあ!!」

 鬼神の如き威迫、その雄たけびと共に初陣の幕が切って落とされた。
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