11 / 79
巫女教育機関編
十一話
しおりを挟む
「こんな……こんな美味しい物があったなんて…、美味だわ…」
「大げさだな…クレープがそんなに珍しかった?」
「ケーキは食べた事あるの…けど、こんな形状の甘未は知らなかったわ…」
道すがら雪が興味を示したクレープ屋に寄り、広場のベンチで食べる。
クレープがお気に召したのか顔がほころんでいる、それだけを見ていると彼女が巫女である事を忘れそうになる。
「どら焼きより美味しい物があるなんて驚きだわ…」
もきゅもきゅ、と聞こえるような食べ方でクレープを頬張る雪。
その様子が可愛らしくて、伊織が好きだったパフェの食べ方と重ねて見てしまう。
「また今度…食べに行けるといいな」
「そんな暇があればいいけど、戦巫女として配属されたら休みなんて無いわよ」
少し眉をひそめて残りのクレープを食べ切る。
「俺たちが休みを返上して戦えば目の前の光景を守ることができ、何事もなければこうやってクレープぐらいは食べる暇はある、それなら文句ない」
「…貴方は、本気で大厄から皆を守れると思っているの?」
「そう、だな…、今はまだ力が足りないけど、いつか雪よりも強くなって大厄から皆を守りたい、その願いは揺るがないよ」
照れ臭くなりながら答える洋助は、不釣り合いな願いと思いながらもそう語る。
雪はその答えに満足したようにお茶を飲み、涼しげな風に髪をたなびかせる、その瞬間であった。
―――――刹那、空気が冷たく一変し、殺意が漂う。
「――っ!?」
「……………」
状況の変化に動揺する雪。
先ほどまで穏やかな時間が流れていた広場は、地面から張られる複数の結界によって大厄の訪れを知らせる。
「ッ…大厄ッ!?どうして、こんな場所で!?」
「…………」
突如出現した結界から、次々と蒼い炎を纏った腕が這い出る。
――今、常世の闇から顕現せし災厄にして無常の大厄。
突然の事態に逃げ惑う市民、ゆっくりと動き出す苦難の大厄、動揺し正しい状況を掴めずにいる雪。
その中で唯一人、冷静に、息を殺し、押し寄せる様々な感情を押さえつけて洋助は口を開ける。
「……俺はこの広場にいる大厄を抑える、雪は市民の避難と護衛を頼む」
「なッ…何を言ってるのッ!?貴方だけじゃこの数の大厄を相手に――」
心配する雪を遮り、洋助は言い切る。
「お前が!!……お前が守らなきゃッ!!お前が…、雪なら…皆を守りながら戦える実力がある、俺には出来ない」
「けど…洋助くんが…」
「本部はすぐ近くだ、数分耐えれば巫女が駆け付ける、だから、皆を頼む…」
悲痛な願いを託し、洋助は刀を抜刀する。
神力を纏い綺麗な青色が一瞬光ると、その瞳には確固たる決意が宿る。
「ッ……ご武運を、洋助君…」
雪もそれが最善と判断し、神力を纏って人の多い道まで突き進む。
その表情は戸惑いと不安が混じり、今にも泣きそうな顔であった。
「来い…大厄ども、俺が、全てを切り伏せる」
視界に映るは七つの大厄、のろり、のろり、と歩みをこちらに寄せてくる。
内二体は武器を持たない素手の苦難、残りの五体は切先の無い折れた刃物を握り、蒼い炎の内側から見える赤い視線がこちらを捉える。
「――――ッだぁぁあ!!」
鬼神の如き威迫、その雄たけびと共に初陣の幕が切って落とされた。
「大げさだな…クレープがそんなに珍しかった?」
「ケーキは食べた事あるの…けど、こんな形状の甘未は知らなかったわ…」
道すがら雪が興味を示したクレープ屋に寄り、広場のベンチで食べる。
クレープがお気に召したのか顔がほころんでいる、それだけを見ていると彼女が巫女である事を忘れそうになる。
「どら焼きより美味しい物があるなんて驚きだわ…」
もきゅもきゅ、と聞こえるような食べ方でクレープを頬張る雪。
その様子が可愛らしくて、伊織が好きだったパフェの食べ方と重ねて見てしまう。
「また今度…食べに行けるといいな」
「そんな暇があればいいけど、戦巫女として配属されたら休みなんて無いわよ」
少し眉をひそめて残りのクレープを食べ切る。
「俺たちが休みを返上して戦えば目の前の光景を守ることができ、何事もなければこうやってクレープぐらいは食べる暇はある、それなら文句ない」
「…貴方は、本気で大厄から皆を守れると思っているの?」
「そう、だな…、今はまだ力が足りないけど、いつか雪よりも強くなって大厄から皆を守りたい、その願いは揺るがないよ」
照れ臭くなりながら答える洋助は、不釣り合いな願いと思いながらもそう語る。
雪はその答えに満足したようにお茶を飲み、涼しげな風に髪をたなびかせる、その瞬間であった。
―――――刹那、空気が冷たく一変し、殺意が漂う。
「――っ!?」
「……………」
状況の変化に動揺する雪。
先ほどまで穏やかな時間が流れていた広場は、地面から張られる複数の結界によって大厄の訪れを知らせる。
「ッ…大厄ッ!?どうして、こんな場所で!?」
「…………」
突如出現した結界から、次々と蒼い炎を纏った腕が這い出る。
――今、常世の闇から顕現せし災厄にして無常の大厄。
突然の事態に逃げ惑う市民、ゆっくりと動き出す苦難の大厄、動揺し正しい状況を掴めずにいる雪。
その中で唯一人、冷静に、息を殺し、押し寄せる様々な感情を押さえつけて洋助は口を開ける。
「……俺はこの広場にいる大厄を抑える、雪は市民の避難と護衛を頼む」
「なッ…何を言ってるのッ!?貴方だけじゃこの数の大厄を相手に――」
心配する雪を遮り、洋助は言い切る。
「お前が!!……お前が守らなきゃッ!!お前が…、雪なら…皆を守りながら戦える実力がある、俺には出来ない」
「けど…洋助くんが…」
「本部はすぐ近くだ、数分耐えれば巫女が駆け付ける、だから、皆を頼む…」
悲痛な願いを託し、洋助は刀を抜刀する。
神力を纏い綺麗な青色が一瞬光ると、その瞳には確固たる決意が宿る。
「ッ……ご武運を、洋助君…」
雪もそれが最善と判断し、神力を纏って人の多い道まで突き進む。
その表情は戸惑いと不安が混じり、今にも泣きそうな顔であった。
「来い…大厄ども、俺が、全てを切り伏せる」
視界に映るは七つの大厄、のろり、のろり、と歩みをこちらに寄せてくる。
内二体は武器を持たない素手の苦難、残りの五体は切先の無い折れた刃物を握り、蒼い炎の内側から見える赤い視線がこちらを捉える。
「――――ッだぁぁあ!!」
鬼神の如き威迫、その雄たけびと共に初陣の幕が切って落とされた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる