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巫女教育機関編

八話 

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 研修生である巫女は教育項目と実技項目、その全てを修了するため日々精進する。
 一般的な基礎学習から、巫女としての必要な知識、そしてなにより大厄に対する物理的な対処となる剣術の習得。
 
 しかし、その様々な教育を経ても、巫女達が選べる選択肢は少ない。

 「祭事や神事で舞踊を披露し…、聖地となる土地の結界を管理する…、か」

 その一つが土地の管理を生業とし、結界を用いて大厄の発生を抑制する『神威の巫女』と呼ばれる道。
 安全な生活圏を確保する重要な役目である神威の巫女は、優秀な成績を収めた巫女が進む道の一つであり、毎年一握りの巫女がこれに選ばれ役目を果たす。

 「大厄対策本部にて、符術による空間転移の実行…、及び戦闘補佐や大厄による被害記録の作成…」

 もう一つが大厄による襲撃が発生した際、その現場に早急に対応できるように、空間転移による巫女の派遣を行う『渡り巫女』と呼ばれる道。
 最も所属人数の多い管轄でもあり、神力を介した特別な符の使用により用途に応じた役割を果たしていく。

 「……大厄の殲滅、民間人の保護及び救出…」

 そして、最後の一つが最前線で戦う巫女、『戦巫女』である。

 最も人材が不足している役職でもあり、進んで志願する巫女も少ない。
 その理由は明白で、最も命の危険があるからである。

 「勤勉だな、洋助」
 「…あ、お疲れ様です早坂先生」
 「ん?大厄対策本部の資料なんて読んでいたのか」

 資料保管室で巫女に関する資料を閲覧していると、早坂茜が声を掛ける。

 「なるほど…進路について考えていたのか」
 「進路、といえるのですかね…、俺が進む未来はごく限られていると思います」
 「ふむ…、確かに君が人前で舞踊を踊る姿は想像したくないな」
 「そんな地獄絵図みたいな想像はやめてください…」

 確かに自分が神威の巫女としての役目を果たすことは無いが、そんな苦虫を潰すような顔をしないでほしい。

 「それより、最近雪とはどうだ?上手くやれているか?」
 「あぁ…、色々な意味で早坂先生より強くて困っているぐらいですかね…」
 「殴られたいのかお前は」

 早坂茜の巴流が少しずつ相手を削る戦い方だとしたら、雪の巴流は一撃で命を断つ、そんな剣術である。
 よって今までは全身の擦り傷や打ち身で済んでいたが、巴雪との鍛錬を始めてからは一か所に集中した怪我や打撲となり、医療担当の教員が困った顔をしていた。

 「けど、実際彼女の腕前には驚かされます…、未だに隙すら見つけられません…」
 「そりゃそうだろ、こんな短期間で実力差を埋められても困る」
 「それでも、そう年も離れていないのに悔しいですよ…」
 「まぁ、雪は天才でもあり努力家だからな、……そう考えると君達は似ている部分が多いかもな」

 予想外の言葉に耳を疑う、自分と巴雪に似ている部分など想像もつかない。

 「小さい頃の雪はわがままで、剣の稽古もサボるような箱入り娘だったが、神力と剣術の才能だけは群を抜いていた」
 「……意外ですね、彼女にそんな側面があったなんて」
 「そうだな、確かに今の雪からは考えられないな、…だがある事件をきっかけに彼女にも心境の変化があったのさ」
 「…ある事件、ですか」

 巫女関係者である以上逃れられぬ一つの可能性。

 「雪は、…幼少の時に父親を失っている、それも大厄の手によって」

 ――心臓が、凍りそうになる。
 
 今まで彼女は、巴雪は、そんな素振りを見せる事も無く、ただ見守ってくれた。

 自分のこれまでの経緯を巴雪は聞かされていたはずで、家族が大厄に襲われたことも、復讐心や憎しみに囚われ、荒んでいたことも。
 同じ経験を持つ巴雪には、その姿がどう映っており、今の姿がどう映っているのか、今更になり怖く、不安で、情けなくなる。

 「そ、そんな……、こと、が」
 「随分驚いているな、まぁ、無理もないか、雪に君の事を頼んだのは実力や神力の実績に依るところも大きいが、同じ過去を持つのも頼んだ理由の一つだ、実際、雪は君が立ち直るまで近くで君を見ていた、何も語らないがあの子なりに気を使っていたはずだ、…きっと」
 
 ―――『頑張って』、そんな言葉を言われた事を思い出す。

 あの言葉はきっと彼女の優しさであり、同じ想いの表れであったのだろうか。

 「洋助、お前の目的はどうあれ、最終的には前線で戦い皆を守る、戦巫女としての役割を果たしていきたいのだろう?」
 「きっと、そうなります…、今まで学んだ事を活かして戦っていきたい、そう思っています」
 「雪も…、巴雪も進路は戦巫女を希望している」
 「彼女も…、ですか?」
 「あぁ、雪なら神威の巫女としての推薦も取れるだろうに、君と同じように巫女としての役割を全うしたいと、戦巫女を希望している」
 
 感情をあまり表に出さない彼女が、内にそんな決意を秘めていたことに嬉しくなった。
 
 ――ふと、巴雪は剣術を見習うべき学友であるが、将来共に剣を取り合う間柄でもありたいと、そう、思ってしまった。

 「早坂先生…、俺、もっと強くなります…」
 「まだ時間はある、そう焦る事でもない、それに君は誰よりも努力し、一生懸命やっている、少しは肩の力を抜いとけ」
 「善処…します…」

 進むべき道筋が明確になりつつなる中、赤原洋助は巴雪の過去を知る。
 
 そして近い未来、大厄と戦う日が必ず訪れる、その日に備え洋助は今日も鍛錬を欠かさずこなすのであった。
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