艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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巫女教育機関編

四話 

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 ―殴打。

 「ッぐッ!?」

 ――殴打。

 「ッつぁ!?」

 ―――殴打、そして、叩きこまれる打撃の嵐。

 納刀されたままの刀で殴られ続け、一方的な暴力が繰り広げられる洋助。
 初撃の上段を躱されて以降、反撃の余地など与えられぬまま顔、肩、胴に打撃を受け続ける。

 「あぁ、あと一つ言い忘れたが、私は神力を使って戦わせてもらうぞ」
 「――ッはぁッ!はぁッ!!」

 既に満身創痍、生身の人間が巫女に、それも神力を行使した巫女に勝てる道理など無く、虫のように捻り潰される。
 
 呼吸を整えるだけの間をわざと作らせ、早坂は煙草に手をかけ火を着ける。
 勝てる見込みなど皆無だが、露骨な隙に付け入るしか洋助には選択肢がない。

 「あああぁッ!!」

 捨て身とも言える一撃、大振となる横薙ぎを早坂に向けて放つ。
 が、刀の柄でそれを受けると、つまらなさそうに煙を吐いて洋助にこう言い放つ。

 「どうした?この程度か洋助」
 「ぐっッ!!」

 全身の力を振り絞り早坂と鍔迫り合いをするが、彼女はその細腕で受け止める。
 飽きた様に竹刀を弾くと、ガラ空きになった洋助の胴体部分に向けて彼女は蹴りを放つ。

 「――がはッぁ!」

 早坂は軽く蹴ったつもりだが、鉛が直撃したような衝撃と鈍痛。
 あまりの痛みに立っていられなくなり、膝を着いてうずくまる。

 「洋助……わかったか?これがお前の実力だ」
 「ッぐ…うぅ…ッう…」
 「なんだっけ、大厄を滅ぼす?…自惚れるな洋助、神力を使えても戦える巫女なんて一握りだ、さらにそこから最前線で戦う人材なんてほんの一部、どうして一般人だったお前が戦えるなんて思った?」
 「―――ッつ…ッうぅ…それ…は…」
 「憎しみ、復讐、そんな物に囚われて戦っていては良くて犬死、足手まとい以下だ」

 現実、突き付けられる言葉は頭では理解していたもの。

 「お前が打ち負かされている私ですら前線で戦う実力が無くなり、剣術指南をしている、ここで躓いているお前は一体なんだ?」
 
 力が無いのは分かっている、憎しみも、復讐も、戦う事すら亡くなった家族はきっと望んではいないだろう、それでも――。

 「お前は別の日常を探せ、戦う事に囚われるな」
 「―――それでも、俺はッ…!!」

 こんな悲しい、辛い気持ち、大厄による脅威から家族を失う経験を誰にもして欲しくない、そう思ってしまったのだ。

 「俺はッ!皆を守りたいんだッ!」

 高望み、とても成し得ない願い、それでも願わずにはいられない。

 「だぁッぁぁぁ!!」
 「洋助…」

 もはや気迫だけの一撃、体幹は崩れて、押せば倒れるような姿勢で打たれた竹刀は、無慈悲な程強烈な剣戟で弾かれ、洋助は後頭部を狙われ意識を奪われる。
 
 「本当に…君は、優しいな…」

 薄れゆく意識の中、悲しそうな顔で煙草の火を消す早坂茜が印象的で、全身に伝わる痛みすら些細な事に感じる。
 
 倒れる訳にはいかない、ここで倒れてしまっては、何も、守れない、何も――。

 俺は、大厄を滅ぼして―――。

 皆を守りたくて――。

 そして――。

 ―――……

 「――っ!?」

 目が覚める、荒れ果て、ぼろぼろになった天井が視界に広がる。

 「お、目を覚ましたか」
 「……早坂さん…」

 圧倒的な力の差を見せられ、洋助は気絶していた。
 そして、その事実が体に広がる痛みより、心を痛めつけた。

 「流石に神力が宿っているだけあって、打たれ強いな」
 「……そうですか」

 演習場の縁側で煙草を吸う彼女は、難しい顔をして語り掛ける。

 「傷…、教室に行く前に医療室寄って手当してもらえ、それと――」

 携帯灰皿に煙草を押し付け、照れるような仕草でこう語る。

 「洋助…、明日から毎朝ここに来い、稽古ぐらいはつけてやる」
 「え…」
 「だから、神力の使い方と、剣術、教えてやるから毎朝ここに来い、いいな?」
 「―――ぁ、ッはい!」
 
 早坂茜は優しい人だ、これ以上辛い想いをしないよう戦いからわざと遠ざけようとしてくれた。
 それでも、俺の気持ちを汲み取り戦い方を教えてくれる、これはきっと彼女の優しさだ。

 医療室に向かい手当てを受けると、医療担当の教員が怪我の事を追及してきたが適当に誤魔化し教室に向かう。
 過剰と思えた包帯や治療薬だが、時間が経つにつれて痛みが酷くなるのを見るとそうでもなかったらしい、頬の絆創膏と額の包帯が煩わしいが気にせず教室に入る。

 「――――……」

 巫女達に不審に思われながら席に座る、と、隣の席の巴雪が目を細め話しかけた。

 「随分良い顔になったじゃない」
 「……これは転んだだけだ」
 「違う、目よ、だいぶ変わったわ、貴方」
 「…目?」

 巴雪の言葉の意味は分からない、だが彼女の表情は柔らかく、いつも刀に触れていた左手は解かれていたのであった――。
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