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巫女教育機関編

三話 

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 巫女教育機関での生活から二か月、大厄対策本部や教育機関が危惧していたような赤原洋助の問題は何も起こる事は無く、生活態度や指導に対する真面目な態度が認められ、ある程度の自由が許されるようになっていた。

 「―――はぁっ…、はぁッ…」

 巫女が生活する宿舎から離れた場所にある当直室、そこで生活する洋助は行動に制限をかけられ、自由に部屋を出入りできないよう監視されていた。
 
 ――が、二か月の時間が彼の信用と安全性を少しずつ周知させ、行動の自由を許されつつあった。

 「――はぁッ…、ッふぅ…」

 そこからの彼は許可された時間を最大限に使い、施設内の広いルートを使った走り込み、使用可能な器材を用いた鍛錬を始めた。
 だが、神力の使い方だけは未だ教えられる事は無く、自主的に力を使う事は依然として禁止されたままである。

 「――ッ……」

 何週目の走り込みか分からなくなる頃、彼は神力の成長が見込めずそれを補う様にただ走る。
 
 早朝の澄み切った空気を吸い、施設の一番外れに差し掛かると今は使われなくなった演習場が見えてくる。
 屋根はあるものの雨風に晒され柱や畳は傷み、いまや誰も利用しなくなった。

 「よ、精が出るな洋助」
 「――っ、早坂…さん…?」

 と、柱に寄りかかりながら声を掛けたのは早坂茜、煙草をふかしながら気だるそうに洋助を見据える。

 「…ここで何を?」
 「ん?見て分かるだろ、一服だよ、一服、基本施設内は禁煙だからな、人がいない屋外だとこの場所が最適な喫煙所なんだよ」
 「そうですか…」
 「それより最近どうだ?少しは生活に慣れたか?」
 「まぁ…はい」
 「なんだ歯切れが悪い、何か思うとこがあるのか?」
 「いえ、何も…、じゃあトレーニングに戻るので…」

 神力の鍛錬がしたい、そんな事が言えるはずもなく洋助は走り込みに戻ろうとした。

 「まぁ待て洋助、少しそこ上がっていけ」
 「…え?」

 指差されたのは演習場、荒れている畳の上を土足のまま乗り込み、こっちに来るように目で訴えられる。

 「いったい…何を?」
 「まぁ、とりあえずこっち来い」
 「―――……」

 不思議に思いながらも畳の上に乗り込む。
 
 「洋助、お前…本当に強くなって大厄と戦いたいのか?」
 
 不意に投げかけられた質問、その答えは決まっており、今も尚揺るがない。

 「俺は…、そのためだけに生きています…だからここで学んで!強くなって!早く戦えるようになるんですッ!!」
 「…そうか」

 早坂茜は諦めるように納得し、煙草の火を消す。
 すると、床に転がっている模擬戦用の竹刀を拾い上げて洋助に投げ渡す。
 
 「洋助、特別授業だ、神力の使い方を教えてやる」
 「え?」

 突然の提案に動揺はするが、これは望んでいた事でもある。
 断る理由もなく足元に投げられた竹刀を拾い、早坂茜と対峙する。

 「今からやるのは簡単な事だ、実戦形式で私と戦え」
 「早坂さんと……、戦う…」
 「本気で来い、遠慮もするな、ただし神力を使う事は許可しない」
 「……それは」

 神力を学ぶのに神力を使ってはいけない、課された条件が矛盾しているようで戸惑いを隠せない。

 「嫌なら辞めていい、どうする?」
 「いえ…、やります、本気でいきます」

 どのみちこのままでは神力を使えるようにはならない、ならば少しでも可能性のあるやり方に賭けた方がいい。

 「―――……」

 竹刀を握り、実技で教えられた構え方で向き直る。
 視界に映る早坂は、構えもとらず自身の刀を鞘から抜かずに握っている。
 恐らく刀身を抜かないのはハンデだろう、万が一でも切り殺さぬよう。

 「来ないのか?」
 「――ッつぁぁ!!」

 がむしゃら、打ち込み方も分からずただ上段から振り下ろす。
 
 スローモーションで見える情景が、竹刀に当たる直前の早坂の表情を映す。
 
 余裕そうな、少し機嫌が悪そうな、そんな顔をしながら竹刀の軌道を見切られ避けられた初撃、一方的な暴力が洋助の身に降りかかる――。
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