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最終話
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「議会長を決める選挙の結果は出たか?」
「はい。なかなか僅差でしたが、かつてブリム領を治めていたアルベール様に決まったそうです」
「そうか。彼ならば他の議員や国民の意見を聞きながら堅実に治めてくれるだろう」
長い、長い戦いが漸く終結した。これで……この国は、もう大丈夫だ。
「やっとお役御免だな。肩の荷が下りた」
「議会や国民からは、貴方の残留も強く要望されていますが」
「丁重にお断りさせてもらおう。この国は、もう国民の皆で作っていく民主国家に生まれ変わったんだ。いつまでも旧王家の血を継ぐ人間がいてはいけない」
「……理屈では、そうでしょうけれど」
「理屈がそうなんだから聞き分けろ。今はお前も議員の一人だろう。公私混同はいけない」
小さい頃からずっと共にいたグレードともここでお別れだ。長い間、本当に良く尽くしてくれたと思う。これからは、自分自身を主としてこの国と共に生きてほしい。
「貴方はこれからどうするのですか?」
「そうだな。ひとまずは、愛馬と共に他国を巡ってみたいと思っている」
「色々見て回ったら、また遊びに来て下さい。そのくらいは良いでしょう?」
「ああ」
そんな会話をした翌日、俺はこの国を出た。全て自分で決めて実行までする日々は、大変だが面白い。見るもの聞くもの全てが新鮮で、毎日が飛ぶように過ぎていった。考えてみれば、俺にとっては初めての自由だ。
「……月が綺麗だな」
未だ心から愛する君が、好きだと笑った空の中で満月が輝いている。この空を、君も同じように眺めているのだろうか。
そんな感傷に浸っていた刹那、馬が駆ける音がした。俺の馬はすぐ傍で草を食んでいるので、恐らく別の馬だろう。その馬がだんだんとこちらに近づいてきているのが分かったので、剣の束を握って構える。
「クラウン様!」
夜目でも分かるくらいの鮮烈な銀色が、目の前で踊った。焦がれた声が、姿が、今はっきりと目の前に浮かび上がる。
「ティア!? どうして!?」
「麓の町で、貴方を見かけたと聞いたから! 間に合うかもしれないと、そう、思って!」
「……それで、わざわざ」
「ええ! もう一度、私の空と共に生きていきたいと、貴方を諦めたくなかったから!」
「……俺はもう王子じゃないぞ」
「好都合です。唯のクラウン様ならば、村娘のルナティアーラと一緒にいたって問題ないでしょう?」
「俺は国の方を選んだ。国よりもティアを選べなかった。それなのに?」
「貴方は王子だったのですから、役目を果たす方を選んで当たり前です。私は、己の非力を恨みこそすれ貴方を恨んだ事は一度だってありません。貴方がいない毎日は、月も星もない闇夜に取り残されていたかのようだった」
馬から降りたティアが、俺の方へと近づいてきた。香水を使わなくなったからか香りは多少変わっているが、その姿も声も、話し方も息遣いも、仕草も全然変わっていない。
「もう、貴方は自由の筈です……だから、貴方がまだ私を想って下さっているのならば、どうか」
ティアの瞳から、星粒のような雫が零れ落ちた。後から後から溢れてくるそれは、きらきらと月光を反射して美しく輝いている。
「どうかお願いです。今度こそ、今度こそ共に永遠に、貴方と一緒に生きていきたいんです。だから、今度は私を選んで下さい」
そうまで言われて、断れる訳がなかった。この五年の間に幾度となく縁談を持ち掛けられたが、ティアでなければ意味がないと言って断って、ただ目の前の彼女だけをずっと愛してきた。
「ずっと君に会いたかった。ずっとティアの事だけ愛してた。君が許してくれると言うのならば、これからはティアと、ルナティアーラと一緒に生きていきたい」
ずっと心の奥底に秘めていた願いを、押し込めてきた感情を言葉にする。肯定の言葉と共に彼女に抱き締められ、初めて俺は声を上げて泣いた。
これからは、共に永遠に君と。
「はい。なかなか僅差でしたが、かつてブリム領を治めていたアルベール様に決まったそうです」
「そうか。彼ならば他の議員や国民の意見を聞きながら堅実に治めてくれるだろう」
長い、長い戦いが漸く終結した。これで……この国は、もう大丈夫だ。
「やっとお役御免だな。肩の荷が下りた」
「議会や国民からは、貴方の残留も強く要望されていますが」
「丁重にお断りさせてもらおう。この国は、もう国民の皆で作っていく民主国家に生まれ変わったんだ。いつまでも旧王家の血を継ぐ人間がいてはいけない」
「……理屈では、そうでしょうけれど」
「理屈がそうなんだから聞き分けろ。今はお前も議員の一人だろう。公私混同はいけない」
小さい頃からずっと共にいたグレードともここでお別れだ。長い間、本当に良く尽くしてくれたと思う。これからは、自分自身を主としてこの国と共に生きてほしい。
「貴方はこれからどうするのですか?」
「そうだな。ひとまずは、愛馬と共に他国を巡ってみたいと思っている」
「色々見て回ったら、また遊びに来て下さい。そのくらいは良いでしょう?」
「ああ」
そんな会話をした翌日、俺はこの国を出た。全て自分で決めて実行までする日々は、大変だが面白い。見るもの聞くもの全てが新鮮で、毎日が飛ぶように過ぎていった。考えてみれば、俺にとっては初めての自由だ。
「……月が綺麗だな」
未だ心から愛する君が、好きだと笑った空の中で満月が輝いている。この空を、君も同じように眺めているのだろうか。
そんな感傷に浸っていた刹那、馬が駆ける音がした。俺の馬はすぐ傍で草を食んでいるので、恐らく別の馬だろう。その馬がだんだんとこちらに近づいてきているのが分かったので、剣の束を握って構える。
「クラウン様!」
夜目でも分かるくらいの鮮烈な銀色が、目の前で踊った。焦がれた声が、姿が、今はっきりと目の前に浮かび上がる。
「ティア!? どうして!?」
「麓の町で、貴方を見かけたと聞いたから! 間に合うかもしれないと、そう、思って!」
「……それで、わざわざ」
「ええ! もう一度、私の空と共に生きていきたいと、貴方を諦めたくなかったから!」
「……俺はもう王子じゃないぞ」
「好都合です。唯のクラウン様ならば、村娘のルナティアーラと一緒にいたって問題ないでしょう?」
「俺は国の方を選んだ。国よりもティアを選べなかった。それなのに?」
「貴方は王子だったのですから、役目を果たす方を選んで当たり前です。私は、己の非力を恨みこそすれ貴方を恨んだ事は一度だってありません。貴方がいない毎日は、月も星もない闇夜に取り残されていたかのようだった」
馬から降りたティアが、俺の方へと近づいてきた。香水を使わなくなったからか香りは多少変わっているが、その姿も声も、話し方も息遣いも、仕草も全然変わっていない。
「もう、貴方は自由の筈です……だから、貴方がまだ私を想って下さっているのならば、どうか」
ティアの瞳から、星粒のような雫が零れ落ちた。後から後から溢れてくるそれは、きらきらと月光を反射して美しく輝いている。
「どうかお願いです。今度こそ、今度こそ共に永遠に、貴方と一緒に生きていきたいんです。だから、今度は私を選んで下さい」
そうまで言われて、断れる訳がなかった。この五年の間に幾度となく縁談を持ち掛けられたが、ティアでなければ意味がないと言って断って、ただ目の前の彼女だけをずっと愛してきた。
「ずっと君に会いたかった。ずっとティアの事だけ愛してた。君が許してくれると言うのならば、これからはティアと、ルナティアーラと一緒に生きていきたい」
ずっと心の奥底に秘めていた願いを、押し込めてきた感情を言葉にする。肯定の言葉と共に彼女に抱き締められ、初めて俺は声を上げて泣いた。
これからは、共に永遠に君と。
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