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第二章
彼と私、縮まる距離④
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「春妃!」
満面の笑みで私の元に駆け寄ってきてくれたのは、今まで見た中でも一、二を争うくらいの嬉しそうな笑みを浮かべた雪人さんだ。
「今日は誘ってくれてありがとう。メールが来た時は夢かと思ったよ!」
「そんな、大げさな……」
「大げさなもんか。まさか春妃の方からなんて……本当に嬉しかったんだよ!」
熱っぽい瞳で見下ろしながら、雪人さんが私の手を握る。手から伝わる体温がいつもより高い気がして、こっちの方まで熱くなってきてしまった。
「と、とりあえず、出発しましょう?」
「そうだね。せっかく二人きりで出掛けるんだ。ここで立ち止まっていたら、もったいない」
さぁ、行こう。年よりも幼いくらいの嬉しそうな表情で、雪人さんがそう言って私の手を引いて歩きだした。
***
「んー、やっぱりここは居心地がいいなぁ」
雪人さんに連れてこられたのは、普段使う駅から二つほど離れた駅の近くにある植物園だった。出かけないかと誘ったものの場所が浮かばなかったので、彼に希望を聞いた結果そこにしようという話になったのだ。
「……ここ、よく来られるんですか?」
「ああ、うん。休みの時とかに時々」
「そうなんですね。植物がお好きなんですか?」
「それもあるけど、ここは静かで雰囲気がゆったりとしてるだろう? 昔から、弁当持って日がな一日植物を見て、のんびりと過ごす事が多かったんだ」
「……へぇ、優雅ですね」
何かをずっと見ていられるって、なかなか出来る事ではない。私も、自分には多少せっかちな部分があると自覚しているから、手を動かさずに何かを眺めるというのは出来ない方である。そんな事無いと思うんだけど、何もしないのはもったいないって思ってしまうのだ。
そう思って素直にそう告げると、それを聞いた雪人さんは一瞬だけ固まって……いきなり笑い出した。お腹を抱えているからつぼに嵌ったようだが、何がそんなにおかしいと言うのか。
「ふはっ、ははは……まさか、そんな返答が来るとは」
「何がおかしいんです」
むっとした表情を取り繕うのも忘れて、彼に向ってぼそりと呟いた。不機嫌そうな私の顔を見たからなのか、雪人さんは笑いつつもごめんごめんと謝ってくれる。
「だって、誰もそんな風には言って来なかったもの。大体は、そうなんですねで流すか、もっとアクティブに行動しないと人生勿体ないぞとかそういうお説教だったからね」
「……前者はともかく、後者の言葉を言って来た人って人の趣味にけちをつけられる程高尚な人物なんですかね」
「まぁ、そういう人は、たぶん能動的に何かをして余暇を有効活用する事で、自分を高めるべきだ……と考えている意識の高い人なんだろうよ」
「そういう人が本当にハイスペックだった事ってあんまりない気もしますけど」
「それは言ってあげない方が良いね。口論になる」
本当に自分を高めたいと思っている人は、インプットも大事にするだろうと思う。そして、正確な知識を頭に入れるだけでなく、それをきちんと理解してから共有したり行動に移したりする事で、その知識を確固たる自分のものにする。そういった一連の行動を丁寧に行う事でより洗練された人間に成れると思うし、そういう人がいわゆるハイスペックな人と言えると思うのだ。
「植物を良く眺めているならば、やっぱり今日は違うとか同じ種類の木でも個性があるとか、気づきも多いですか?」
「学者ではないから直感的なものばかりだけどね。なんか違うなーとかこう伸ばしてきたかー、枝。みたいなのはあるかな」
「へぇ……」
盆栽いじってるおじいちゃんみたい、という感想が喉から出かかったが寸での所で押し留めた。盆栽やってるおばあちゃんも若い人もいるのだから、そう言ってしまうのも如何なものか。いや、そもそもそういう問題ではないのかもしれないけど。
その後も、つらつらと互いの話をしていった。学校の事、生活の事、好きな事、嫌いな事……話題は、全く尽きる事がなくて。自分の話に豊かな反応を返してもらえるというのが嬉しかったし、聞いてもらえるのが嬉しかった。だから、彼に問われるままにこちらの事を語って、彼の事もたくさん問うた。その度に、彼は嬉しそうに詳細を答えてくれた。
満面の笑みで私の元に駆け寄ってきてくれたのは、今まで見た中でも一、二を争うくらいの嬉しそうな笑みを浮かべた雪人さんだ。
「今日は誘ってくれてありがとう。メールが来た時は夢かと思ったよ!」
「そんな、大げさな……」
「大げさなもんか。まさか春妃の方からなんて……本当に嬉しかったんだよ!」
熱っぽい瞳で見下ろしながら、雪人さんが私の手を握る。手から伝わる体温がいつもより高い気がして、こっちの方まで熱くなってきてしまった。
「と、とりあえず、出発しましょう?」
「そうだね。せっかく二人きりで出掛けるんだ。ここで立ち止まっていたら、もったいない」
さぁ、行こう。年よりも幼いくらいの嬉しそうな表情で、雪人さんがそう言って私の手を引いて歩きだした。
***
「んー、やっぱりここは居心地がいいなぁ」
雪人さんに連れてこられたのは、普段使う駅から二つほど離れた駅の近くにある植物園だった。出かけないかと誘ったものの場所が浮かばなかったので、彼に希望を聞いた結果そこにしようという話になったのだ。
「……ここ、よく来られるんですか?」
「ああ、うん。休みの時とかに時々」
「そうなんですね。植物がお好きなんですか?」
「それもあるけど、ここは静かで雰囲気がゆったりとしてるだろう? 昔から、弁当持って日がな一日植物を見て、のんびりと過ごす事が多かったんだ」
「……へぇ、優雅ですね」
何かをずっと見ていられるって、なかなか出来る事ではない。私も、自分には多少せっかちな部分があると自覚しているから、手を動かさずに何かを眺めるというのは出来ない方である。そんな事無いと思うんだけど、何もしないのはもったいないって思ってしまうのだ。
そう思って素直にそう告げると、それを聞いた雪人さんは一瞬だけ固まって……いきなり笑い出した。お腹を抱えているからつぼに嵌ったようだが、何がそんなにおかしいと言うのか。
「ふはっ、ははは……まさか、そんな返答が来るとは」
「何がおかしいんです」
むっとした表情を取り繕うのも忘れて、彼に向ってぼそりと呟いた。不機嫌そうな私の顔を見たからなのか、雪人さんは笑いつつもごめんごめんと謝ってくれる。
「だって、誰もそんな風には言って来なかったもの。大体は、そうなんですねで流すか、もっとアクティブに行動しないと人生勿体ないぞとかそういうお説教だったからね」
「……前者はともかく、後者の言葉を言って来た人って人の趣味にけちをつけられる程高尚な人物なんですかね」
「まぁ、そういう人は、たぶん能動的に何かをして余暇を有効活用する事で、自分を高めるべきだ……と考えている意識の高い人なんだろうよ」
「そういう人が本当にハイスペックだった事ってあんまりない気もしますけど」
「それは言ってあげない方が良いね。口論になる」
本当に自分を高めたいと思っている人は、インプットも大事にするだろうと思う。そして、正確な知識を頭に入れるだけでなく、それをきちんと理解してから共有したり行動に移したりする事で、その知識を確固たる自分のものにする。そういった一連の行動を丁寧に行う事でより洗練された人間に成れると思うし、そういう人がいわゆるハイスペックな人と言えると思うのだ。
「植物を良く眺めているならば、やっぱり今日は違うとか同じ種類の木でも個性があるとか、気づきも多いですか?」
「学者ではないから直感的なものばかりだけどね。なんか違うなーとかこう伸ばしてきたかー、枝。みたいなのはあるかな」
「へぇ……」
盆栽いじってるおじいちゃんみたい、という感想が喉から出かかったが寸での所で押し留めた。盆栽やってるおばあちゃんも若い人もいるのだから、そう言ってしまうのも如何なものか。いや、そもそもそういう問題ではないのかもしれないけど。
その後も、つらつらと互いの話をしていった。学校の事、生活の事、好きな事、嫌いな事……話題は、全く尽きる事がなくて。自分の話に豊かな反応を返してもらえるというのが嬉しかったし、聞いてもらえるのが嬉しかった。だから、彼に問われるままにこちらの事を語って、彼の事もたくさん問うた。その度に、彼は嬉しそうに詳細を答えてくれた。
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