記憶の中に眠る愛

吉華(きっか)

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第二章

彼と私、縮まる距離②

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「ふーようやくお昼だー!」
「はいはい」
 授業終了と共にそう叫び出し弁当箱を取り出した親友に苦笑しつつ、私の方も取り出す。向かいに座った親友の夏葉が広げている三段重ねの重箱の中身を眺めながら、相変わらず豪華だと感心した。
「今日は唐揚げが中心なの?」
「うん! 一段目が大分中津の唐揚げで、二段目が山賊焼と名古屋の手羽先唐揚げなのー」
「おお……まさに盛り合わせだ」
「うん! このために全国から取り寄せたんだ! 揚げるのは自分でしたんだよ!」
「衣まで付いてるのを頼んだの?」
「そうそう!」
「最近の世の中は便利ねぇ」
「何言ってんの。まだ若いのに」
「年は関係ないでしょ……」
 呆れた声を上げた夏葉をちらっと一瞥し、黙々と自分の弁当を食べ始めた。普通の弁当を毎日作るだけでも大変なのに、この親友は毎日三段重ねの重箱に溢れんばかりの色とりどりの食事をこれでもかと詰め込んでくるのだ。つくづく、食への情熱がすさまじいと思う。
「そういえばさー」
 視線は唐揚げに向けつつ、夏葉が口を開いた。
「春妃、最近楽しそうだよね」
「え、そう?」
「そうだよ! いつも以上ににこにこしてるもん!」
「いつも以上に……?」
「うん。何か良い事あった?」
「良い事、ねぇ……」
 最近になって変わった事と言えば、雪人さんとのメールのやり取りを始めた事くらいだ。それでも、朝晩の二回挨拶を中心としたメールが来るだけなので、そこまで大変とは思わない。何十件も来たら流石に大変だけど、挨拶に加えて今日あった事等について少しやり取りするだけなので、一日の楽しみの一つになっている。
「ほほう、思い当る事があるって顔してるぞ」
「え!」
「春妃は正直だからなぁー」
「え、ええと、その……」
 図星を刺されて、ついしどろもどろになってしまった。別に、隠す事でもないのだけれど、何となく話すのが気恥ずかしい。今まで、恋なんて柄じゃないとか面倒とか、そういう事ばっかり言ってきたから。
「なになに? 顔が赤いけど……さては、彼氏でも出来た?」
「違うよ!」
 間髪いれずに否定した。例え本人の預かり知らぬところであったとしても、私の彼氏に間違われるとか雪人さんに申し訳ない。
「そんな力いっぱい否定しなくても」
「だって事実だもん!」
「そこまで一生懸命だと、逆に勘ぐっちゃうものだけどなぁ」
「何でもないって! 雪人さんは彼氏じゃない!」
 失言をしてしまった、と言うのに気付いたのは、夏葉の顔に浮かぶからかい交じりの笑みが深まった事で分かった。彼の事ばかり考えていたから、名前が口から滑り出してしまったのだろう。
「ふーん、お相手は雪人と言う人なのね」
「う……」
「へー、彼氏とか面倒なだけだし興味ない、なんて言ってた子がねぇー」
「……彼氏じゃないもん」
「彼氏ではないにしても、好感は持ってるんでしょ?」
「…………うん」
 最初こそ度肝を抜かれる様な事されたけど、悪い人ではないと思う。メールで会話してても、彼の知識とか話に尊敬できる点は多いし。ついでに言えば見た目も好みだ。
 それに、やっぱり不思議な繋がりを感じるのだ。出逢うべくして出逢った、もともと縁があった……そんな、とても論理的には説明できないような、もどかしい感覚。

 これが、俗に言う『運命』と言うやつなのだろうか?
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