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最終話 これから名実ともに
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「お待たせ致しました」
「マリガーネット様」
準備を終えていた蒼玉様の傍に言って声を掛ける。蒼玉様は、濃紫の衣装に紫の羽織と飾りがついた帽子を被っていた。
「ドレスをお召しと聞いていましたが、羽織ってらっしゃるのは月晶帝国の物ですか?」
「はい。持ってきたドレスに袖がなかったので、珊瑚様が貸して下さったのです」
「珊瑚妃が?」
不思議そうに首を捻っている蒼玉様へ、かいつまんで説明する。全て聞き終えた彼は、いきなり謝罪を口にした。
「女官長が失礼をしました。申し訳ありません」
「いえ……こちらこそ、帝国の文化をもっと詳しく調べておくべきでした」
「マリガーネット様は十分調べてらっしゃいましたよ。俺も、貴女が着るとおっしゃっていたドレスは戴冠式の時のようなドレスかと思っていましたので……まさかそんな事態になっていたなんて」
「式典のドレスだと大体長袖ですものね。確かに、ドレスを着る習慣がない方には想像しづらいと思います」
この国は、今までの私の当たり前が当たり前でない世界。エスメラルダではこうだったという事も月晶帝国では真逆、というのがあり得るのだ。
「蒼玉様」
「はい?」
「私、もっと勉強頑張ります。一日でも早くこの国の人間となれるように。貴方の隣にいるのに相応しい女性となれるように」
自分の常識や価値観で物事を推し量らないように。無意識に人や培われてきた文化を傷つけないように。
「なので、もし……この国の事について分からない事があったら教えて下さい。間違った事やしない方が良い事をしていたら、理由と共に教えて下さい」
「勿論です。誰だって、頭ごなしに否定されたら腹が立って反発したくなるものですからね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って、一礼した。そして、ふとある一点が気になっていたのでついでに聞いてみる。
「様はつけなくても大丈夫ですよ?」
「え?」
「蒼玉様は私の事をマリガーネット様と呼んで下さいますけれど。貴方は旦那様になるのですし、貴方の方が年上ですし。だから、敬称も敬語も要らないです」
「それなら、貴女も普通に話して頂いて大丈夫ですよ」
「私はダメです。私は貴方よりも年下だし、皇太子の方が皇太子妃よりも立場が上でしょう。藍玉様だって珊瑚様だって、皇帝陛下には敬意を表した話し方をされているじゃありませんか」
「……ですが、エスメラルダ王妃には砕けた話し方をされていましたよね。お二人のやりとりを見ながら、少々羨ましくもありまして」
「羨ましい?」
「ええ。どこからどう見ても仲の良い姉妹同士で、貴女が王妃を慕っているのが伝わってきて……あんな風に可愛らしく話しかけてほしいと」
「え!?」
そんな事を言われると思っていなかったから、思いっきり面食らってしまった。一気に耳まで熱くなって、体中が火照ってくる。
「……マリガーネット」
追い打ちをかけるように、蒼玉様が私の耳元で名前を呼んだ。少し低めの優しい声で囁かれ、腰が抜けそうになる。
「君は俺の妻となるのだから、猶更。仲を深める為にもそうしてほしいのだが」
じわりと視界が滲んできた。ぞくぞくと背筋が震えて体も震えてきたので、一生懸命足に力を込めて踏ん張る。
「こうやって二人でいる時だけよ! そうしないと皆に示しがつかないわ!」
周りの女官や官吏達には気づかれないように。彼の服の裾を引っ張って引き寄せて、楽し気に揺れている紺碧の瞳を少しだけ睨みながら。
「それで十分だ。じゃあ行こうか、俺の妃」
「ええそうね、旦那様!」
心臓はばくばくしているし、体は熱いし、足はふらつくし。それなのに、隣を歩く蒼玉様は何もなかったかのように歩いている。
(頑張って努力して、いつか彼の事も翻弄してやる!)
名実ともにこの国の仲間になれるように、という目標ともう一つ。新しく出来た目標を胸に刻みながら彼と共に歩き出した。
「マリガーネット様」
準備を終えていた蒼玉様の傍に言って声を掛ける。蒼玉様は、濃紫の衣装に紫の羽織と飾りがついた帽子を被っていた。
「ドレスをお召しと聞いていましたが、羽織ってらっしゃるのは月晶帝国の物ですか?」
「はい。持ってきたドレスに袖がなかったので、珊瑚様が貸して下さったのです」
「珊瑚妃が?」
不思議そうに首を捻っている蒼玉様へ、かいつまんで説明する。全て聞き終えた彼は、いきなり謝罪を口にした。
「女官長が失礼をしました。申し訳ありません」
「いえ……こちらこそ、帝国の文化をもっと詳しく調べておくべきでした」
「マリガーネット様は十分調べてらっしゃいましたよ。俺も、貴女が着るとおっしゃっていたドレスは戴冠式の時のようなドレスかと思っていましたので……まさかそんな事態になっていたなんて」
「式典のドレスだと大体長袖ですものね。確かに、ドレスを着る習慣がない方には想像しづらいと思います」
この国は、今までの私の当たり前が当たり前でない世界。エスメラルダではこうだったという事も月晶帝国では真逆、というのがあり得るのだ。
「蒼玉様」
「はい?」
「私、もっと勉強頑張ります。一日でも早くこの国の人間となれるように。貴方の隣にいるのに相応しい女性となれるように」
自分の常識や価値観で物事を推し量らないように。無意識に人や培われてきた文化を傷つけないように。
「なので、もし……この国の事について分からない事があったら教えて下さい。間違った事やしない方が良い事をしていたら、理由と共に教えて下さい」
「勿論です。誰だって、頭ごなしに否定されたら腹が立って反発したくなるものですからね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って、一礼した。そして、ふとある一点が気になっていたのでついでに聞いてみる。
「様はつけなくても大丈夫ですよ?」
「え?」
「蒼玉様は私の事をマリガーネット様と呼んで下さいますけれど。貴方は旦那様になるのですし、貴方の方が年上ですし。だから、敬称も敬語も要らないです」
「それなら、貴女も普通に話して頂いて大丈夫ですよ」
「私はダメです。私は貴方よりも年下だし、皇太子の方が皇太子妃よりも立場が上でしょう。藍玉様だって珊瑚様だって、皇帝陛下には敬意を表した話し方をされているじゃありませんか」
「……ですが、エスメラルダ王妃には砕けた話し方をされていましたよね。お二人のやりとりを見ながら、少々羨ましくもありまして」
「羨ましい?」
「ええ。どこからどう見ても仲の良い姉妹同士で、貴女が王妃を慕っているのが伝わってきて……あんな風に可愛らしく話しかけてほしいと」
「え!?」
そんな事を言われると思っていなかったから、思いっきり面食らってしまった。一気に耳まで熱くなって、体中が火照ってくる。
「……マリガーネット」
追い打ちをかけるように、蒼玉様が私の耳元で名前を呼んだ。少し低めの優しい声で囁かれ、腰が抜けそうになる。
「君は俺の妻となるのだから、猶更。仲を深める為にもそうしてほしいのだが」
じわりと視界が滲んできた。ぞくぞくと背筋が震えて体も震えてきたので、一生懸命足に力を込めて踏ん張る。
「こうやって二人でいる時だけよ! そうしないと皆に示しがつかないわ!」
周りの女官や官吏達には気づかれないように。彼の服の裾を引っ張って引き寄せて、楽し気に揺れている紺碧の瞳を少しだけ睨みながら。
「それで十分だ。じゃあ行こうか、俺の妃」
「ええそうね、旦那様!」
心臓はばくばくしているし、体は熱いし、足はふらつくし。それなのに、隣を歩く蒼玉様は何もなかったかのように歩いている。
(頑張って努力して、いつか彼の事も翻弄してやる!)
名実ともにこの国の仲間になれるように、という目標ともう一つ。新しく出来た目標を胸に刻みながら彼と共に歩き出した。
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