呪いを解いて欲しいと言われて結婚しましたが、あなたを愛してしまいました

吉華(きっか)

文字の大きさ
上 下
13 / 15
後編 望めるならばあなたと

(5)

しおりを挟む
「奥方様!」
 見られているような気配を感じて目を開けると、目の前には阿倍野さんと女中のキヨさんがいた。旦那様を呼びに行ってきますと言ってキヨさんはすぐに部屋を飛び出していったので、上半身だけ起こして阿倍野さんの方へと視線を向ける。
「本当にありがとうございます! 感謝してもしきれません……!!」
「解呪……できてました?」
「ええ、ええ! もうすっかり、元通りの様子で!」
「そうですか。足りなかったらどうしようかと思いましたけど……」
「丁度足りたようで……あ」
 感極まったという言葉が似合う様子で話していた阿倍野さんが、不自然に言葉を止めた。どうかしましたかと問いかけると、彼はばつの悪そうな表情になる。
「申し訳ありません。奥方様は負担の大きい術を使われた直後なのに、その御身を顧みる事もせずにはしゃいでしまって」
「ああ……それだけ主君の回復が嬉しかったという事でしょう? 忠心から来るものでしょうし、お気になさらなくても大丈夫ですよ」
「寛大なお言葉ありがとうございます。そうです、奥方様はたった今起きられたばかりですし、白湯かお茶かをご用意しましょうか」
「では温かいお茶を頂けますか?」
「かしこまりました」
 返事をした阿倍野さんが部屋を出たのと入れ替わりに、キヨさんが戻ってきた。その後ろから現れた秋満さまの顔には、変わらず綺麗な赤紫が二つ並んでいる。
「心春!」
「秋満さま。お加減は如何ですか?」
「やっと目を覚ましたと……俺か? 俺は元気だ」
「良かった」
 本人の口から直接聞けて、ようやく本当の意味で肩の荷が下りた。ちゃんと約束を果たせた。ちゃんとこの人を助けられた。それが、本当に本当に、嬉しかった。
「心春の方はどうだ? 起き上がって大丈夫なのか?」
「私ですか? 私は、疲れはまだありますけど……不調はありませんよ」
「そうか」
 ほっとした様子の秋満さまをと目が合って、どきりと心臓が跳ねた。彼は基本的に口を引き結んだ生真面目な表情をしている事が多いので、ふとした瞬間に微笑んだ顔なんて実に心臓に悪い。
「本当に、感謝してもしきれない。ありがとう、心春」
「……こちらこそ。私を信じて下さって、ありがとうございました」
 両親を失ってから、私はずっと侮蔑と忌避の中で生きてきた。全員が全員そうではなかったけれど、比喩でなく九割方は私を嘲り下に見て……或いは、お前もいつか暴走して周りを巻き込むのではと恐れて、私の事を避けていた。だから。
『心春で不足とは思わない』
 あの言葉は、間違いなく私を救ってくれたのだ。私を恐れず嫌悪せず、素直に力を認めて信頼してくれた事が、本当に、涙が出るくらい嬉しかった。
「……秋満さま」
「……心春」
 少しの沈黙の後に、二人同時に互いを呼んだ。心春の方からと秋満さまが譲って下さったので、意を決して口を開く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

離縁の雨が降りやめば

月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。 これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。 花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。 葵との離縁の雨は降りやまず……。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...