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誓いの言葉
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今日の宿を無事に見つけ、簡単に荷解きをする。これから自分は、何をするべきなのか、何をどうすれば、彼女を支えて共に生きていけるのか。ぼんやりと指標を考えながら手を動かし、ある程度まとまったところでスマートフォンに手を伸ばした。
『……はい。紗織です』
「紗織さん」
三コール辺りで、慕わしい声が響いた。けれど、声音はどことなく沈んでいる。それが、あの人たちの……そして、他でもない自分もその一因であるという事に、申し訳なさと苦悩が襲い掛かった。
『どうしましたか? こんな夜更けに珍しいですね』
「すみません。起こしてしまいましたか?」
『いいえ、起きていたので大丈夫です』
ふふ、と優しく囁くように笑う声が届く。時折彼女はこうやって笑うから、たまに向こうの方が年上なのでは、なんて突飛な考えが浮かぶ事もあった。
「貴女に、話したい事がありまして」
『話したい事……婚約の話、ですか?』
「ええ」
『でしたら、それは……仕方が、ないって、思』
「紗織さん、その事なんですけど」
『は、はい?』
彼女の言葉を遮って、切り込んだ。仕方がないから諦める、なんて悲しい言葉は音としてすら聞きたくないのだ。
「自分ひとりをきちんと食わせられるようになって、紗織さんの事も、生活も治療もきちんとカバー出来るようになって、必ず迎えにいきます」
『……え!』
「今までだって、親元を離れて一人暮らししてて、会社勤めもしてきましたけど。でも、やっぱり根底には何かあれば両親に頼ればいいって、そんな甘えがあったんです」
彼女の治療費や学費が自分の収入では足りないならば家で持てばいいと。そこにあったのは、その家とは、外ならぬ実家の事であり、両親の金である。頼れば出してくれるだろう……なんて考えてた甘ったれだから、こんな事になってしまったのだ。
「だけど、貴女とのこれからを望むのならば、そんな甘っちょろい事は言っていられないし、俺には貴女との未来以外考えられないんです。だから、そうですね……五年だけ、ください」
『ま、待ってください、あなたは、あなたは』
跡継ぎでしょう、と呟いているその声が。貴方には、背負うべきものがあったでしょう、と諭すような声が、響く。ああ、沙織さんは、小憎らしいまでに聡明なお方であるようだ。
「……両親とは縁を切りました」
『……何、ですって!』
「貴女への……いえ、貴女を含めた体の不自由な方々を、同じ人間と思わないような暴言を吐いたあの二人を、俺は許容出来ないし共存もしたくない」
『それ、は』
「そんな人間が君臨している会社を継ぐくらいなら、俺自身で会社を興して、俺に賛同してくれる人と一緒に仕事をします。もちろん、賛同者だけではよりよくはならないでしょうから、様々な、幅広い意見を取り入れながら事業を行なうつもりです」
『……起業されるのですか?』
「あくまで例えです。貴女をしっかりと養えて、必要な教育や支援を受けられるようならば、別に会社員のままでも構いません」
とはいえ、現状でも十分大手にいる。それでも覚束ない……というのならば、踏み切るしかないのだ。幸い、会社を興したいと言っている友人が数人いる。そのメンバーと協力し合えば、希望はある。
『……どうして、そこまで』
「え?」
『だって、私は、私たちは、親が決めた婚約者同士です。その親がもういいと言うならば、本心はどうあれ……その意を酌むべきと、我を、通しては、いけないのだと』
とうとう、彼女の声が涙で震え始めた。ぐす、と鼻を鳴らしているのも聞こえてきて、不謹慎だが可愛らしいとときめきだす。
「……貴女の事が、好きなんです」
気の利いた事を言おうとはしたのだ。したのだけど、思案して飾り立てた言葉では、本心が伝わらない気がして。結局、脳裏に浮かんだ言葉をそのままに、彼女へと伝えた。
「俺は、沙織さんの事を愛しています」
「……まこと、さん」
「初めて会った時、何て美しくて可愛らしい方なんだと思って、一目惚れしました。初めて会った場がお見合いの場で、俺はなんて幸運なんだと、本気で思いました」
電話口から、すすり泣く声が消えた。語り始めたら止まらなくて、思い浮かぶままに俺の想いを溢れさせていく。
「一緒に食事に行く度に、美味しそうに食べてくれるのが可愛くて嬉しくて、また行きたい、次はどこにしようって、そればかり考えてました。年の離れた妹が可愛いんだと嬉しそうに話してくれる姿に、貴女の愛情深さを垣間見て、いずれは俺の事もそんな風に話してほしい……なんて、思うようになりました」
「ほん、とう、に……」
「本当です。貴女の事が大好きで、だからこそ、目が見えなくなってきっと苦労してるだろうから、傍で支えていきたいと思っていたんです。俺は夫になるんだから、一番身近な存在になるんだから、俺がしっかりサポートするんだって、いろいろ考えてて。人づてではありましたけど、両親が変わってしまったと、寂しそうに話しているとも聞いていたから、だから、なおさら俺がって、思っていました」
「そんな、風に……そこまで」
「五年で準備を完了します。完了させて、大手を振って、貴女を……紗織さんを、迎えに行く。だから、待っていて欲しいんです」
どうしてそこまでという問いには、伝えたかった想いは、全て伝えられた。後は、それを聞いた彼女がどんな返答をするかだ。電話の先から声が響くのを、かたずをのんで待っていた。
『……待って、います』
「! で、は!」
『待っています……あなたを、貴方の事を、待っています』
「沙織さん!」
体中が、歓喜と安堵で打ち震えた。ああ、良かった、と呟いた声が、思っていた以上に部屋に響く。
『破談になるのは仕方ないんだって……私の眼はもう見えないから、貴方の負担にしかならないから、だから、しょうがないんだって、そう思って諦めようとしていたんです。諦めたくなんて、なかったけど、でも、今の私にはどうしようもないって、努力する前から諦めようと、してた』
「そう、でしたか」
『でも……きっと、私にも出来る事があるはずですね。貴方の助けになれるように、必要以上に負担をかけずに、ずっと二人で生きていけるように、私にだって何かあるはずですね』
「えぇ」
『あなたが、私のために尽力してくださるというのならば、私も一緒に立ち向かいます。ただ待ってるだけのか弱い女は……嫌だから』
「……それでこそ、紗織さんらしい」
いつだって貴女は。その煌めく漆黒を逸らす事なく、物事に立ち向かっていた。その身に何が降り掛かろうとも、暗闇に縋る事なく立ち向かおうとしていた。そんな彼女を、俺は、他の他人よりももっと近い距離で見守る事が出来ていた。
『あ、あの……二つだけ、お願いがあるんです』
「何ですか? 紗織さんの願いならば、何だって」
『……音信不通には、ならないでほしいんです。会うのが難しいなら電話で、電話も難しいならメールでも構わないから、連絡が欲しいんです』
「ふむ」
『メールなら読み上げ機能使えばいいですし、何なら詩織ちゃんに読んでもらえばいいですから』
「それくらいならば、大丈夫ですけども。貴女の方の負担になりませんか?」
『その位じゃ負担になんて、なりません。だって……苦しい時は、つらい時は、真っ先に頼ってほしいもの』
夫を助けるのは妻の役目ですから、他の誰にも譲る気はないんです。一瞬幻聴を聞いたのかと思って太ももをつねってみたが、変な声が出るくらいには痛かった。つまり、これは、現実で沙織さんに言ってもらえたという事である。
『……ずっと勇気が出なくて、言えないでいたんですけど』
「何でしょう?」
『私も、貴方の事が……』
「俺の事が?」
『貴方が……誠さんが、大好きです。貴方の事を、愛しています』
その瞬間、脳内に雷が落ちた。初めて会ったあの日のように、衝撃で頭が真っ白になっていく。そして、その白を幸福の色に染め上げていくのは、彼女への深い深い愛情なのだ。
「……最高の応援ですね。それこそ、貴方にしか出来ない応援だ」
想いを贈ったら、返してくれる。同じように、共にいる未来を望んでくれた。そんな彼女のためならば、必ず成し遂げてみせる。
「今の言葉を、しっかりと心に刻み付けておきます」
『私も。貴方にそう言って頂けたの、初めてですし』
「……えっ」
幸せの桃色に彩られていた脳内が、ひゅんと再び白紙化する。え、嘘だろ。
「お伝えした事、ありません、でしたっけ……」
『……私の記憶の中では、ありませんね。貴方は、全身で表現してくださる方だったから、言葉まで欲しいなんて我が儘かなと思って言えなかったですけど……』
それでは、あれか。俺は、彼女本人には言葉で愛を告げる事すらせずに、当の彼女の口を吸って抱き締めて、肩を抱いて恋人の婚約者と触れ回っていたのか。
「一番はじめにそれをお伝えするべきでした……色々と吹っ飛ばして申し訳ない……」
『でも私たち、そもそもの出逢いが出逢いですし』
結婚せよと言われて引き合わされて、言われるままに結婚しようとしていた。互いに気持ちが向いていずとも、結婚しなければならない状況ではあった。そこから互いを深く愛して、結婚するなと強制されても跳ねのけようと躍起になるくらいには、互いへの愛情を抱くようになったけれど。
「それはそうですけどね……これからは、もっと伝えていくようにしますね」
『はい』
「それでは……あんまり遅くなってもいけないですし、この辺で」
『はい。お休みなさい』
「お休み……俺の愛しい婚約者さま」
『お休みなさい、私の愛しい婚約者さま』
二人して同じことを言いあい、ふふふ、と笑いながら通話を終える。あぁ、こんな幸福に溢れる日々を過ごすためなら、何だって成し遂げてやる。
明日からは、毎日が正念場だ。決意を新たにすべく、拳をぐっと握り締めた。
『……はい。紗織です』
「紗織さん」
三コール辺りで、慕わしい声が響いた。けれど、声音はどことなく沈んでいる。それが、あの人たちの……そして、他でもない自分もその一因であるという事に、申し訳なさと苦悩が襲い掛かった。
『どうしましたか? こんな夜更けに珍しいですね』
「すみません。起こしてしまいましたか?」
『いいえ、起きていたので大丈夫です』
ふふ、と優しく囁くように笑う声が届く。時折彼女はこうやって笑うから、たまに向こうの方が年上なのでは、なんて突飛な考えが浮かぶ事もあった。
「貴女に、話したい事がありまして」
『話したい事……婚約の話、ですか?』
「ええ」
『でしたら、それは……仕方が、ないって、思』
「紗織さん、その事なんですけど」
『は、はい?』
彼女の言葉を遮って、切り込んだ。仕方がないから諦める、なんて悲しい言葉は音としてすら聞きたくないのだ。
「自分ひとりをきちんと食わせられるようになって、紗織さんの事も、生活も治療もきちんとカバー出来るようになって、必ず迎えにいきます」
『……え!』
「今までだって、親元を離れて一人暮らししてて、会社勤めもしてきましたけど。でも、やっぱり根底には何かあれば両親に頼ればいいって、そんな甘えがあったんです」
彼女の治療費や学費が自分の収入では足りないならば家で持てばいいと。そこにあったのは、その家とは、外ならぬ実家の事であり、両親の金である。頼れば出してくれるだろう……なんて考えてた甘ったれだから、こんな事になってしまったのだ。
「だけど、貴女とのこれからを望むのならば、そんな甘っちょろい事は言っていられないし、俺には貴女との未来以外考えられないんです。だから、そうですね……五年だけ、ください」
『ま、待ってください、あなたは、あなたは』
跡継ぎでしょう、と呟いているその声が。貴方には、背負うべきものがあったでしょう、と諭すような声が、響く。ああ、沙織さんは、小憎らしいまでに聡明なお方であるようだ。
「……両親とは縁を切りました」
『……何、ですって!』
「貴女への……いえ、貴女を含めた体の不自由な方々を、同じ人間と思わないような暴言を吐いたあの二人を、俺は許容出来ないし共存もしたくない」
『それ、は』
「そんな人間が君臨している会社を継ぐくらいなら、俺自身で会社を興して、俺に賛同してくれる人と一緒に仕事をします。もちろん、賛同者だけではよりよくはならないでしょうから、様々な、幅広い意見を取り入れながら事業を行なうつもりです」
『……起業されるのですか?』
「あくまで例えです。貴女をしっかりと養えて、必要な教育や支援を受けられるようならば、別に会社員のままでも構いません」
とはいえ、現状でも十分大手にいる。それでも覚束ない……というのならば、踏み切るしかないのだ。幸い、会社を興したいと言っている友人が数人いる。そのメンバーと協力し合えば、希望はある。
『……どうして、そこまで』
「え?」
『だって、私は、私たちは、親が決めた婚約者同士です。その親がもういいと言うならば、本心はどうあれ……その意を酌むべきと、我を、通しては、いけないのだと』
とうとう、彼女の声が涙で震え始めた。ぐす、と鼻を鳴らしているのも聞こえてきて、不謹慎だが可愛らしいとときめきだす。
「……貴女の事が、好きなんです」
気の利いた事を言おうとはしたのだ。したのだけど、思案して飾り立てた言葉では、本心が伝わらない気がして。結局、脳裏に浮かんだ言葉をそのままに、彼女へと伝えた。
「俺は、沙織さんの事を愛しています」
「……まこと、さん」
「初めて会った時、何て美しくて可愛らしい方なんだと思って、一目惚れしました。初めて会った場がお見合いの場で、俺はなんて幸運なんだと、本気で思いました」
電話口から、すすり泣く声が消えた。語り始めたら止まらなくて、思い浮かぶままに俺の想いを溢れさせていく。
「一緒に食事に行く度に、美味しそうに食べてくれるのが可愛くて嬉しくて、また行きたい、次はどこにしようって、そればかり考えてました。年の離れた妹が可愛いんだと嬉しそうに話してくれる姿に、貴女の愛情深さを垣間見て、いずれは俺の事もそんな風に話してほしい……なんて、思うようになりました」
「ほん、とう、に……」
「本当です。貴女の事が大好きで、だからこそ、目が見えなくなってきっと苦労してるだろうから、傍で支えていきたいと思っていたんです。俺は夫になるんだから、一番身近な存在になるんだから、俺がしっかりサポートするんだって、いろいろ考えてて。人づてではありましたけど、両親が変わってしまったと、寂しそうに話しているとも聞いていたから、だから、なおさら俺がって、思っていました」
「そんな、風に……そこまで」
「五年で準備を完了します。完了させて、大手を振って、貴女を……紗織さんを、迎えに行く。だから、待っていて欲しいんです」
どうしてそこまでという問いには、伝えたかった想いは、全て伝えられた。後は、それを聞いた彼女がどんな返答をするかだ。電話の先から声が響くのを、かたずをのんで待っていた。
『……待って、います』
「! で、は!」
『待っています……あなたを、貴方の事を、待っています』
「沙織さん!」
体中が、歓喜と安堵で打ち震えた。ああ、良かった、と呟いた声が、思っていた以上に部屋に響く。
『破談になるのは仕方ないんだって……私の眼はもう見えないから、貴方の負担にしかならないから、だから、しょうがないんだって、そう思って諦めようとしていたんです。諦めたくなんて、なかったけど、でも、今の私にはどうしようもないって、努力する前から諦めようと、してた』
「そう、でしたか」
『でも……きっと、私にも出来る事があるはずですね。貴方の助けになれるように、必要以上に負担をかけずに、ずっと二人で生きていけるように、私にだって何かあるはずですね』
「えぇ」
『あなたが、私のために尽力してくださるというのならば、私も一緒に立ち向かいます。ただ待ってるだけのか弱い女は……嫌だから』
「……それでこそ、紗織さんらしい」
いつだって貴女は。その煌めく漆黒を逸らす事なく、物事に立ち向かっていた。その身に何が降り掛かろうとも、暗闇に縋る事なく立ち向かおうとしていた。そんな彼女を、俺は、他の他人よりももっと近い距離で見守る事が出来ていた。
『あ、あの……二つだけ、お願いがあるんです』
「何ですか? 紗織さんの願いならば、何だって」
『……音信不通には、ならないでほしいんです。会うのが難しいなら電話で、電話も難しいならメールでも構わないから、連絡が欲しいんです』
「ふむ」
『メールなら読み上げ機能使えばいいですし、何なら詩織ちゃんに読んでもらえばいいですから』
「それくらいならば、大丈夫ですけども。貴女の方の負担になりませんか?」
『その位じゃ負担になんて、なりません。だって……苦しい時は、つらい時は、真っ先に頼ってほしいもの』
夫を助けるのは妻の役目ですから、他の誰にも譲る気はないんです。一瞬幻聴を聞いたのかと思って太ももをつねってみたが、変な声が出るくらいには痛かった。つまり、これは、現実で沙織さんに言ってもらえたという事である。
『……ずっと勇気が出なくて、言えないでいたんですけど』
「何でしょう?」
『私も、貴方の事が……』
「俺の事が?」
『貴方が……誠さんが、大好きです。貴方の事を、愛しています』
その瞬間、脳内に雷が落ちた。初めて会ったあの日のように、衝撃で頭が真っ白になっていく。そして、その白を幸福の色に染め上げていくのは、彼女への深い深い愛情なのだ。
「……最高の応援ですね。それこそ、貴方にしか出来ない応援だ」
想いを贈ったら、返してくれる。同じように、共にいる未来を望んでくれた。そんな彼女のためならば、必ず成し遂げてみせる。
「今の言葉を、しっかりと心に刻み付けておきます」
『私も。貴方にそう言って頂けたの、初めてですし』
「……えっ」
幸せの桃色に彩られていた脳内が、ひゅんと再び白紙化する。え、嘘だろ。
「お伝えした事、ありません、でしたっけ……」
『……私の記憶の中では、ありませんね。貴方は、全身で表現してくださる方だったから、言葉まで欲しいなんて我が儘かなと思って言えなかったですけど……』
それでは、あれか。俺は、彼女本人には言葉で愛を告げる事すらせずに、当の彼女の口を吸って抱き締めて、肩を抱いて恋人の婚約者と触れ回っていたのか。
「一番はじめにそれをお伝えするべきでした……色々と吹っ飛ばして申し訳ない……」
『でも私たち、そもそもの出逢いが出逢いですし』
結婚せよと言われて引き合わされて、言われるままに結婚しようとしていた。互いに気持ちが向いていずとも、結婚しなければならない状況ではあった。そこから互いを深く愛して、結婚するなと強制されても跳ねのけようと躍起になるくらいには、互いへの愛情を抱くようになったけれど。
「それはそうですけどね……これからは、もっと伝えていくようにしますね」
『はい』
「それでは……あんまり遅くなってもいけないですし、この辺で」
『はい。お休みなさい』
「お休み……俺の愛しい婚約者さま」
『お休みなさい、私の愛しい婚約者さま』
二人して同じことを言いあい、ふふふ、と笑いながら通話を終える。あぁ、こんな幸福に溢れる日々を過ごすためなら、何だって成し遂げてやる。
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