俺の愛しい婚約者

吉華(きっか)

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衝撃の真実

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 ようやく一週間が終わった、と思って褒美がてらちょっといい缶ビールを開けていると、ふいにスマートフォンが光った。こんな至福の時に誰だと眉をひそめながら手に取ると、そこに表示されていたのは……この一か月半ずっとずっと焦がれていた名前だった。
「はいもしもし!? 俺ですよ沙織さん!?」
「あ、えっと……そうですね、このお声は、誠さんですね」
「あああああ本当に本物の沙織さんの声だ! もう録音していたのを空しく聞き直さなくてもいいんだ!」
「えっと……すみま、せん……?」
 久方ぶりに声を聴けた喜びで大脳直下のあれそれを伝えてしまったが、沙織さんは変わらず咎めも引きもしなかった。やっぱりこの人は女神さまだ。
「……すみません、この一か月半全く連絡しないでいて」
「気になさらないでください。そりゃ、寂しくて心細くて、ひょっとして俺は何かをしでかしていて婚約を破棄されてしまうのではないかと戦々恐々とはしていましたが……」
「……」
 電話の向こうで、息を飲む音が聞こえた。いつにもましてたどたどしい感じで話しているが、一体どうしたというのだろう。いや、一生懸命に話している姿を思い描いて彼女を抱き締めたい衝動に駆られているだけで、それ自体に負の感情は抱いていないのだけれども。
「……私、誠さんに、お伝えしないといけない事があるんです」
「何でしょうか?」
「……お伝えしないと、いけないんです、けど……」
 真面目な声なので、こちらも理性を総動員して真面目に話しているけれども。彼女の声は随分と震えていて、今にも消えてしまいそうなくらいだった。
「電話で伝えづらいなら、メールとかでも大丈夫ですよ? そっちの方が話しやすい事もあるかもしれないですし」
 俺なりの気遣いのつもりだったのだが、沙織さんは押し黙ってしまった。もう、私には、と聞こえた気がするがはっきりとは聞き取れない。
「……出来ないんです」
「何がですか?」
「私には、もう、メールが打てないんです」
「え?」
「いえ、色々と導入すれば出来るようになるかもしれないけれど……でも、今は、メールを打つ事も、本を読む事も、一人で出歩く事も、料理も、全部ぜんぶ……出来なくなってしまったんです」
「……どうして、です」
 予想だにしていなかったその言葉に、焦りを感じ始めた。一体、彼女の身に……俺の愛する婚約者の身に、何が起こっているというのか。
「…………私、目が」
「目が」
「……目が、見えなくなって、しまったんです」
 必死に絞り出したのであろうその声が、遠く遠くで響いている。衝撃で動けないでいる俺の手元のスマートフォンからは、彼女のすすり泣く声が零れていた。
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