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10 俺らの話
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元婚約者は、驚くほどに変わってなかった。
もうお互い30代だというのに、静かな瞳はあの頃のままで、俺は挨拶する余裕もなく、ただただ謝った。
人里からも距離がある、森の中で。あちこち修復を重ねた様子が見てとれる木造の小屋で、貴族として生まれた彼はひとり暮らしているというのか。
俺が、全てを奪ったのだ。彼の家族も、彼の立場も。
「立派になられましたね」
俺の膝に寄り添う位置で、こちらを見上げる表情。
「僕の方こそ、謝らねばならないと思っておりました」
「なぜ……君は被害者じゃないか!」
「人には成長過程でいろいろな変化があるものです。僕は貴方の変化を認めることができず、拒絶するばかりの頑固者でした。ごめんなさい」
「頼むから謝らないでくれ!俺が考えなしだったんだ。巻き込まれる君の立場を全く考えていなかった」
俺は布巾を掴んでいる彼の両手を握り込む。
「俺は、何をやったところで君との関係は死ぬまで続くものだと思って甘えていたんだ。……口では生涯の伴侶って存在を否定してたくせに、誰より生涯の伴侶は一生側にいて当然だと思っていた。とんでもない矛盾だ」
「それは……」
「今なら、性別とかそういうことじゃないんだってわかる。俺は、ただ君に幸せでいてほしい。俺のために何かをしてほしいわけじゃなく、ただ君が幸せであればそれでいいんだ。その為にも、俺の過ちが君にもたらした影を、少しでも払えるならと思って……どうしても、君に謝りたかった」
彼は少し戸惑うように視線を揺らし、そしてゆっくりと笑顔になった。
「……僕も、貴方が幸せでいてほしいと思います。貴方の気持ちをわかってあげられなかった自分を悔やみましたし、もっとうまく立ち回るべきでした。勝手に拗れて全てから逃げたしたのは僕の方です。貴方が一番繊細で悩み多き時期に、放り出してしまってごめんなさい」
同じ年のはずなのに、まるでずっと歳上の人間かのような包容力のある言葉。俺はまたぼろぼろ溢れだした涙を彼の手のひらごと布巾を掴んで抑え、そのまま彼を抱き締めた。
こんなにも愚かな人間でも、絶対に見捨てないと確信が持てる相手がいるというのは、なんという幸福なのだろうと思いながら。
もうお互い30代だというのに、静かな瞳はあの頃のままで、俺は挨拶する余裕もなく、ただただ謝った。
人里からも距離がある、森の中で。あちこち修復を重ねた様子が見てとれる木造の小屋で、貴族として生まれた彼はひとり暮らしているというのか。
俺が、全てを奪ったのだ。彼の家族も、彼の立場も。
「立派になられましたね」
俺の膝に寄り添う位置で、こちらを見上げる表情。
「僕の方こそ、謝らねばならないと思っておりました」
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「頼むから謝らないでくれ!俺が考えなしだったんだ。巻き込まれる君の立場を全く考えていなかった」
俺は布巾を掴んでいる彼の両手を握り込む。
「俺は、何をやったところで君との関係は死ぬまで続くものだと思って甘えていたんだ。……口では生涯の伴侶って存在を否定してたくせに、誰より生涯の伴侶は一生側にいて当然だと思っていた。とんでもない矛盾だ」
「それは……」
「今なら、性別とかそういうことじゃないんだってわかる。俺は、ただ君に幸せでいてほしい。俺のために何かをしてほしいわけじゃなく、ただ君が幸せであればそれでいいんだ。その為にも、俺の過ちが君にもたらした影を、少しでも払えるならと思って……どうしても、君に謝りたかった」
彼は少し戸惑うように視線を揺らし、そしてゆっくりと笑顔になった。
「……僕も、貴方が幸せでいてほしいと思います。貴方の気持ちをわかってあげられなかった自分を悔やみましたし、もっとうまく立ち回るべきでした。勝手に拗れて全てから逃げたしたのは僕の方です。貴方が一番繊細で悩み多き時期に、放り出してしまってごめんなさい」
同じ年のはずなのに、まるでずっと歳上の人間かのような包容力のある言葉。俺はまたぼろぼろ溢れだした涙を彼の手のひらごと布巾を掴んで抑え、そのまま彼を抱き締めた。
こんなにも愚かな人間でも、絶対に見捨てないと確信が持てる相手がいるというのは、なんという幸福なのだろうと思いながら。
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