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9 僕らの話

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「申し訳ありませんでした!!!!」


いつものように、午前中に森の見回りを終えて素朴な木組みの我が家に戻ると、玄関扉の前に背の高い美丈夫が立っている………と思ったのも束の間、僕と目が合うと同時に、五体投地の姿勢で這いつくばり、叫んだ。

「……はい?」

見えているのは綺麗な栗毛の生え揃った旋毛と、貴族のものであろう立派な服。

「えぇと……どちら様です?」
「君にこの上ない不義理を働いたクズです!申し訳ありませんでした!!」
「落ち着いて……どうぞ、まずは顔を上げてください」
「………………君に、合わせる顔がない……」
「大丈夫、どんな顔でも構いませんよ。さあ、顔を上げてください」

男の前に膝をつき、その背に手を当てると、彼はびくりと大きく震えた。やがて観念したようにおずおずと身を起こした男は、全身にしょんぼりとした空気を纏わせながらもそっと上目遣いで僕を見る。

大人の顔つきになっているけれど、確かに見覚えのある琥珀色の瞳。
僕は驚き、息を飲む。
それをどう受け取ったのか、彼は再び「ごめんなさい」と項垂れた。

「驚いた……お久しぶりです」
「……申し訳ありませんでした……」
もう一度ぐぐっと小さく丸まっていきそうな背中を慌てて擦って、僕は「どうぞ、お茶をだしますから入ってください」と彼を立たせる。

元婚約者と、13年振りの再会だった。





「俺は、ただ、どうしても君に謝りたくて……」

お茶を淹れて彼の前に置き、テーブルを挟んで彼の正面に座ると、途端に彼はぼろぼろと涙を流し始める。僕は狼狽し、台布巾のつもりで置いていた手拭いを掴んで彼の横に膝をついた。
子どもの頃から素直で無邪気で感情豊かな男の子だったけれど、こんなに立派な青年になっても面影が残っているものだと、僕は内心感慨深く思っていた。

実家にいた頃は僕自身も肉体的な年相応の扱いを受けていたから違和感なく彼と同じ目線で過ごしていたけれど、ひとりで過ごす時間が長くなったことで、客観的年齢ではなく主観的な年齢を自認する。
一世代違う若者を見るような気持ちで、僕は彼と対峙していた。
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