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エピローグ
しおりを挟む少し前に、一本の無料アプリゲームがネットで話題になった。
「…で結局、『逆転シンデレラ』は作ったのね」
「はい!だってこれ発表すれば話題になるのわかってるし、それに『私』にだって辿りつけるでしょ?」
にっこりと笑ったのは、ショートボブが可愛い高校生くらいの女の子。
「お互い、来世が同じ時期に同じ日本人なの判明してたんですから、せっかくだし会いたいですもん!」
「私の記憶が残ってるのは想定外だったんだけど」
「んふふ~」
ぱちり、と。
ハインリヒと肩越しに、ファリオと踊るリリィと目が合う。
向こうも『同じもの』を視たようで、一瞬キョトンとした後、幻視と同じようなにっこり笑顔を浮かべた。
(やっぱり、『未来視』か)
どうやら、リリィだけではなく私も、この世界の記憶を持ったまま異世界に転生するらしい。
「クラウディア」
「はい?」
ゆったりとしたステップで揺れていると、ホールドを組むハインリヒが私を見つめていた。
「母上に指摘されたのだが…私は、色恋を知らぬ朴念仁だ、と」
(…王家も、割とフランクな会話してるのね)
「何故そんな話に?」
「アンリエーレがな、リレディとの婚姻は、殊更王位継承の重要な要素とはならないと父上に上申したのだそうだ」
「まぁ」
「私が、『王位を継ぐ為に』其方との婚約を決めたのかを確認したかったのだろう」
リレディ公爵家は貴族の代表とも言える立ち位置にある。王位を移譲した際に、次代がスムーズな貴族の支持を得る為には、リレディとの婚姻は最も効率的だろう。
…だが、マストではない。
「アンリは何故そのような事を?私がハインリヒ殿下と婚約するのに、反対なのかしら」
懐いてくれてると思っていたのだが…。
ハインリヒは小さく首を振る。
「其方が心配する理由ではない。むしろ、逆だ」
くるりとターンすると、ちょうど視界にこちらを見ているアンリエーレが入った。
あの時の長期休学は仮病だったと後から知ったけど、こんな人混みで体調は大丈夫だろうかと、顔色の良し悪しを気にしてしまうのは、もう私の癖だ。
「アンリエーレは、其方を義姉と呼ぶより、妻と呼びたいのだ」
「……そういう事を、本人がまだ口に出していないのに、勝手に相手に伝えてしまうあたりが『色恋を知らぬ朴念仁』と言われてしまう原因では?」
「うっ」
自分の行為に気付いたのか、手を添えているハインリヒの肩がびくりと跳ね上がる。
(無骨者のハインリヒにデリカシーを求める方が間違ってるわね)
「…ほら、足が動いてませんわよ。ワンツー、ワンツー」
「…クラウディア」
「はい」
「…其方には、どう見えているかわからないが」
手を取られ、ホールドが外れた。互いの腕が伸びる位置までくるりと回転させられ、身体が離れる。
私の指先を軽く握り込み、突然ハインリヒが跪いた。
驚き、私のステップも止まる。周囲でダンスしていた貴族達も騒めいてステップを止めた。
「は、ハインリヒ殿下?」
「きちんと機を逃す事なく言葉にしないと、伝わらないのだと、私は学んだ」
そのまま、真面目な顔で私を見上げる。
「私は今も昔も変わらず、其方を尊敬している。だが、あの『可能性の未来』において、いかに私が愚かしい真似をしても…其方は気高く、折れず、誇りを失わず、常に国母の器であった。…この感情を愛と呼ぶに相応しいかを、私は知らない。だが私は、其方とともにありたいと願う」
(あぁ、やはりこの人は立派な王になる)
「改めて申し入れよう。リレディ公爵令嬢クラウディア。私の妻となり、ともに我がグロイスハイツ王国の平和と安寧に尽くしてくれ」
私は微笑んだ。
「喜んで、国にこの身を捧げましょう」
あの『魔女の未来視』で視たリリィ・トロイゼルにとって、ここは恋愛に生きる乙女ゲームの世界だった。
でも私が視たこの世界は、生きるか死ぬかのシミュレーション・サバイバルゲームだ。
一時の恋愛感情にも勝る尊敬の念を、ハインリヒならば生涯抱かせてくれるだろう。
突然の、王太子の再プロポーズイベントで静まり返ったパーティー会場は、王妃様の「王子自らが良いお手本になりましたわね。さぁ、どうぞ皆様も気になるお相手に、積極的に声をかけていらしてね」と扇子で笑いを隠しながらの声で、再び活気を取り戻していた。
ちなみにハインリヒは、ダンスが終わった途端に、異様な笑顔のテレンス兄様とエルネストとアンリエーレに取り囲まれて何処かに消えて行った。それを、ファリオとリリィが朗らかな笑顔で見送っていた。
ひとり放り出された私にはお祝いの声を兼ねてのダンス申し込みが殺到し、私は次々とお相手するはめになった。
「…本当に、よろしかったのですか?」
幾人目だかに手を取った、こざっぱりした紳士が踊りながら囁いてくる。
「え?」
「我が主も、賢王となられる器ですよ?」
「あぁ」
紳士の身元がわかった。
「アンリエーレは興味のある事に好きなだけ没頭して欲しいの。玉座なんて、いずれ飽きるでしょうね。あの子には貴方がついてるから、私なんて役者不足でしてよ、マーロウさん」
紳士はニコリと微笑む。曲が終わりに近づくと、そっと手の甲に口付けられた。
「貴女を手に掛けずに済んで、本当に良かった」
スッと離れて行く。あっという間にその背中を見失い、私は心の中で「オォゥ…ニンジャ…」と呟いた。
(ていうか、やっぱり私何度もマーロウさんに殺されてた!そしてマーロウさんにも『未来視』視えてた!こわっ)
そして。
たまに『魔女の未来視』を挟んで周囲を巻き込んだりしつつ…私はクラウディアとして生きた。
前世でリリィ・トロイゼルだった少女が、「じゃーん」と言いながらスマホを取り出す。
「良くも悪くも『逆転シンデレラ』がヒットしちゃったんで、続編できたんですよー」
私は思わず叫ぶ。
「フラグ、やめて!」
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