破滅を突き進めば終わると思ってた悪夢の様子がなんかおかしい。

秋野夕陽に照山紅葉

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お見舞い【テレンス目線】

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「マーロウの話では、リリィ・トロイゼルが接触を図ろうとしたのは5人。ハインリヒ兄上。テレンス・リレディ。エルネスト・ロッシェン。ファリオ・ラブロイ。そして、僕」

 とても体調を崩して永く臥せっている様には見えないアンリエーレ殿下が、しっかりした足取りでベッドから降り、テーブルについた。正面の椅子に座る私を、人形に嵌るサファイアの瞳のような、深い青が真っ直ぐ見つめる。


 学院でマーロウに接触するのは難しいため、私はアンリエーレ殿下へ面会に来ていた。
 クラウディアから殿下方の思惑を聞いて、今後の擦り合わせが必要になったのだ。

 クラウディアの前では昔と変わらぬ無邪気な弟分を演じられているアンリエーレ殿下も、実際には王族に相応しい理知的な王子へと成長されている。
 これで丈夫な身体を持ってさえいれば、確実に国を挙げての継承権争いが勃発していただろう。皮肉な事だ。

「アンリエーレ殿下にも、ですか」
 学年が同じハインリヒ殿下ならわかるが、2つ年が違うアンリエーレ殿下にまで接触しようとしているのか。リリィ・トロイゼルの行動力は予想以上だ。

「見舞いと称し、王宮に頻繁に訪れているそうですよ。実際には、僕はあの者と未だ知り合ってすらいないので、今後も一切会う事はあり得ません」
「……成る程、仮病でしたか」

 王家に直接の面識もない子どもが、公的な社交以外で王族に対面する機会は学院しかない。面識がない者が王族に面会を求め王宮を訪れたとしても、家格に関わらず必ず門前払いされる。
 アンリエーレ殿下は、自らが関わるであろう未来視の可能性を、「リリィと出会う」きっかけ自体を潰すことで無きものとするおつもりなのだ。
 「極端な手段を取られますね」と呆れる私に薄っすらと笑って見せ、殿下はテーブルに飾られた色鮮やかなダリアの花弁1枚ずつ、愛おしそうに撫でる。

 真っ白な部屋に、白磁の壺に生けられた色とりどりのダリアの花。それらだけが色を差していた。
 ダリアの花弁をゆっくりとなぞる姿を怪訝に思いながら眺めていると、殿下は色白な頬を心なしか朱く染めた。

「これはね、クラウディアがくれたのです。僕はダリアが好き。上品で華やかで艶やかで繊細で…ふふ、クラウディアにそっくりでしょう?」
「…………………そうですね」
 思わず私の表情が険しくなったのだろう。アンリエーレ殿下が私の反応にクスクスと笑う。

「何故でしょう。リリィ・トロイゼルが接触しようとするのが、僕ら5人である理由は」
「私に心当たりがございます」
「ほう、それは?」
「失礼な表現となり大変恐縮ですが、貴殿方全員、私の、、クラウディアに昔からちょっかいを掛けてた、警戒対象ですよ」
「ふふ、自己紹介をありがとう。そこに貴方も含まれている訳ですから、共通点は『クラウディアに並々ならぬ関心を持つ幼馴染同士』というところですか」
 私は腹のなかで盛大に舌打ちする。
 
 昔からクラウディアと当たり前のように結婚する気になっているハインリヒ殿下。
 昔からあれこれ世話を焼いているクラウディアに心酔すらしているエルネスト。
 昔からクラウディアを慕ってはいたが、どうやら慕い方の変化を自覚したらしいアンリエーレ殿下。
 昔から白昼堂々とクラウディアを口説き続けている女好きのファリオ。

 ……どいつもこいつも気に食わないが、確かに全員「心からクラウディアを大切に思っている」面子なのは事実だ。
 わざわざその面子を選んでいるとするならば、リリィは、クラウディアの位置に成り代わりたいのだろう。


「マーロウから、貴方達が面白い事をしていると聞いてます。…ファリオ・ラブロイは、このまま泳がせた方がいいんですね?」
「はい」
 私は頷き、あの男が何をしようとしているのか説明し始めた。



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