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帰宅後
しおりを挟む「どうだい、婚約内定取消の話はできたかい?」
食堂でテーブルを共にする父に言われて、私は「あ!」と声を上げた。
(わ、忘れてた。…いや、でも殿下は自分のルートに入るつもりなさそうだし、大丈夫?)
父はからかうようにニコニコしながら、食後のデザートが載るテーブルに肘をついている。
「……べ、別に婚約が嫌なワケではございませんから。ハインリヒ殿下にお任せして参りましたわ」
「まぁ、お前のいい様にしなさい。それと、最近テレンスに冷たくしてるんじゃないかい?アレの周りの空気がピリピリしていると、使用人がやり辛そうにしているぞ」
(朝晩キスはしてるのに、それだけでは足りないというの?!)
シスコンめ!
…でもまぁ、ハインリヒやアンリエーレと同じように、ゲームのエンディングを幻視しているかは聞いた方がいい。
「わかりました。兄様とはゆっくり時間をとってお話いたします」
思えば、今回のオープニングが始まってから、一番最初に関わってきたテレンス兄様には酷い態度しかとっていないのだ。兄様もテレンスルートのエンディングを幻視したのなら、私の態度に酷く傷付いたかもしれない。
「それにしても、まだ帰ってないのか。今日は何処に行ってるんだ?」
父が家令に声をかけると、家令は「ラブロイ商会に行かれると、昼前に」と畏る。
「ラブロイか。珍しいな」
(ラブロイ商会は、ファリオの家だわ。ハインリヒ殿下も仰ってたけど、兄様もリリィの件で裏で何かしていらっしゃるのかしら)
裏目にでなければいいが……。
(兄様は計算高い腹黒キャラだし、大丈夫か)
父は飲み終えたグラスを置き、クロスを首から抜いた。家令に椅子を引かせて、立ち上がる。
「お前の心配事は、ある程度目処がつきそうなのかい?」
「ええ、王妃様にも話を聞いて頂けましたし」
ひとつ頷き、父は部屋に戻って行った。
湯浴みを終え、退室するメイドにテレンス兄様が戻ったら知らせてくれるよう頼んでから、私はベッドに倒れ込んだ。
今日は色々と怒涛の展開だった。
私のループは、もしかしたら『魔女の未来視』というファンタジーな能力が見せたもので。
各エンディングについて、ルートのメインキャラである男性陣は私と同じモノを見た可能性が高くて。
当然、主人公リリィは全てのルートに深く関わっているので、逆に男性陣に警戒されているかもしれなくて。
それ以前に、主人公リリィはここが『逆転シンデレラ』の世界だと知っているようで。
(…『逆転シンデレラ』って、そもそも一体何なの?)
「私」は『逆転シンデレラ』というゲームが存在する日本から、いつの間にかこの世界に来ていて、謎のクラウディア破滅リピートに嵌ってしまったのだと思っていた。
(本当に?)
日本での、「私」の人生が全く思い出せない。名前は?年齢は?仕事は?
思い出そうとして出てくるのは、「クラウディア」としての記憶だけ。
ベッドから降り、私は姿見の前に立つ。
(……私は誰?)
その時、扉がノックされた。
「テレンス様がお戻りです」
ひとりで考える必要はない。今の私には、味方がいるのだから。
私はもう一度姿見を見てから、ガウンを羽織った。
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