破滅を突き進めば終わると思ってた悪夢の様子がなんかおかしい。

秋野夕陽に照山紅葉

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ハインリヒの見る夢【ハインリヒ目線】

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 夢を見る。

 夢の中で、少女がやって来るのを心待ちにしている。

 見慣れた廊下に注ぐ陽射しも、正門前の噴水の煌めきも、彼女の姿が現れると一層輝いて見えた。

 清く、朗らかで、全てを包み込んでくれる聖女。
 君のためなら、全てを捧げても構わない。


 ……などと言って、本当に王太子としての自負も、この国に住まう全ての命を預かるという重圧も、全てを投げ捨て己の執着を満たす為に全身全霊を捧げた馬鹿王子の、夢を見る。

 本当に酷い王子だ。
 敵を作ることで一層彼女に頼られる事が心地よく、彼女とウマが合わない様子のクラウディアを標的に決めた。
 しかしリレディ公爵家は、色恋で暴走する馬鹿王子の振る舞いに、彼を見限って第2王子の後ろ盾になるべく根回しを開始する。
 王家に次ぐ実力者の反乱は、さすがに馬鹿王子にとって致命傷になる。

 すかさず、取って付けたような罪状をわんさかと盛り、馬鹿王子は後先考えずに公爵一家を見せしめとして断罪処刑した。…自分と愛する聖女に批判的な一派を黙らせる為に、廃れていた野蛮な首斬り装置まで用意して。

 結果、リレディを守ろうとした父母弟を退ける事が必然的に発生し、聖女の加護だけを信じての、王位簒奪が必須になった。

 愚か者が、己の愚かさを覆い隠そうと必死に墓穴を掘っているという構図だ。こんな馬鹿者が王位を継いだ暁には、1代で国が滅ぶだろう。否、滅ぶべきだ。


 全くどこの馬鹿だ!
「……あれは私か」


 瞬きを忘れていたかのように、目が乾いていた。眠っていた訳ではないらしい。
 私は馬車の中で、窓から外を眺めているところだった。
 間も無く学院に着くが、うたた寝して見たにしては異様な夢だった。一瞬で、何と永い夢を見たものか。
 そして、酷い内容だ。とにかく胸糞が悪い。

「……クラウディアに顔向けできんな…」
 髪を搔きあげ、我が婚約者筆頭候補の幼馴染の凜とした面影を思い浮かべる。あの誇り高きリレディの娘が、あの様な無残な目に遭うなど許されて良い筈がないのだ。



 どうにも夢か現実か揺蕩うような心持ちのまま、止まった馬車から降りると、ちょうど目の前で女子学生が「きゃっ」と悲鳴をあげて大きくつんのめった。すかさずその腕を掴んで支える。
「あ、ありがとうございます!」

 振り返った少女を見て、息を飲む。



 夢の中で、どこぞの馬鹿王子が盲目的に溺愛し続けた聖女がそこにいた。


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