破滅を突き進めば終わると思ってた悪夢の様子がなんかおかしい。

秋野夕陽に照山紅葉

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政務服の王子

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 従者を引き連れ、ガラス張りの渡り廊下を歩くハインリヒが見える。
 すぐにテラスのガラス扉が開けられ、王宮内専用の青い政務服を着たハインリヒが階段を降りてきた。学院と異なり、帯剣しているので彼が動くたびにガチャガチャと音がする。

「母上。お呼びとあり、参上致しました。…やぁクラウディア。久しぶりのドレス姿だな」
 学院の廊下で会うのと違い、何だかリラックスしているように感じる。
「ご機嫌よう、ハインリヒ殿下」
 私は深々としたカーテシーで応えた。

「あら、それだけ?」
 王妃様はハインリヒに笑顔を向けたまま、ピシリと扇子で自身の掌を打つ。
 ハインリヒは苦笑を浮かべた後、少し腰を折るようにして私の手を取り、口付けた。
「リレディ公爵令嬢クラウディア。今日も貴女はお美しい」
 取って付けたようなお世辞を言われて、私も苦笑いだ。
「茶会を楽しんでおられるか?」
「えぇ。ペネローペ王妃殿下の素晴らしいお心遣いを深く感じ入っておりますわ」
「そうか。ゆっくりとして行かれると良い。……と、こんな感じでご満足いただけますか、母上」
 おどける様に肩を竦めたハインリヒを見て、私は思わず笑ってしまう。
「及第点をあげましょう。さぁ貴方もお掛けなさい。侍従は下がらせてね」
「はい」


 白いテーブルに、素早く椅子とティーセットが追加された。私と王妃様のティーセットも新しいものに改められる。流石に王家にお仕えするとなると、使用人もレベルが違う。

 政務服の燕尾をパッと後ろに払って、ハインリヒは椅子についた。
 王妃様は新しく注がれた紅茶をひと口飲み、顔を上げる。

「ハインリヒ。貴方、最近妙な夢を見たり、幻を見たりしなかった?」
「は?」
「まるで現実のように感じたけど、実際は現実でなかった…というような」

 ハインリヒは目を見開き「あぁ」と吐息を漏らして私に視線を向ける。こうして正面から見ると、澄んだ海のような青色の瞳が本当に綺麗だ。

「…なるほど、魔女の未来視の件でのお呼び出しでしたか」
 納得した様子で頷くのを見て、私の方が驚いた。王妃様も驚いたようで、「まぁ、知っていたの?」と口元に扇子を翳す。
「詳しくは知りません。というか、魔女の未来視というものがあると言っていたのはアンリエーレです」
「あの子が」
「見聞係をかなり上手いこと活用しているようですね。私よりよっぽど、王家の歴史については情報通だ。…歴代王の日記を全て読み漁り、魔女の血筋についての言い伝えを知るところとなったと」

 ハインリヒはティーカップを持ち上げた。

「私が魔女の未来視があったと思しき体験をしたか、とお聞きになるのであれば……否です」

「あらまぁ」と王妃様は首を傾げた。
「幾日か前に、アンリエーレからも同様の問いを受けました。お前の言う様な内容のものは見ていない、と答えました」

(やはり都市伝説の類いだったのね)
 …どうやら、『魔女の未来視』説で押し通すのは難しくなりそうだ。

 ハインリヒは私と王妃様を交互に見ながら腕を組んだ。
「アレは、未来視ではない、と私は考えております。アレは、未来ではなく、可能性ではないかと」
「可能性?」
「アンリエーレの見たというものと、私の見たものが全く異なる」
「何よ、貴方も見てるんじゃないの」
 呆れたような王妃様の言葉にも、ハインリヒは首を横に振るだけだ。
「ですから、見ているものが異なるのです。魔女の未来視の内容に深く関わる者は、魔女と同じ未来を見るのですよね?私とアンリエーレの見たものは違う」
「つまりどういうことなの?」
 王妃様はもどかしそうに扇子を開く。
 ハインリヒは、真面目な顔でもう一度繰り返した。

「アレは未来でなく、可能性なんです」

(金髪碧眼の王子様が、訳のわからないことを言い始めたぞ?)

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