19 / 43
アンリエーレの見る悪夢【アンリエーレ目線】
しおりを挟む
僕はそれを、後から聞く。いつだってそうだ。
僕には彼女に愛された記憶しかない。
大切に、守られてきた。弟のようなものだと言えばそうなのだろう。だけど、僕にとってそれは「愛」だった。
しかし、ある時から状況は一変する。
きっかけはわからない。ある日を境に、急速に彼女との距離が遠くなっていった。入れ替わるように金髪の少女が王宮に現れるようになり、僕へ向けられる「愛」は少女から与えられるものに置き換わっていった。
そして、必ず事件は起きる…そう、起きた事件はひとつじゃない。幾通りもの事件が、万華鏡の中で展開するように同時に起こるのだ。
そのどれも、僕はベッドの上で結果だけを後から聞いた。
どの事件の経緯でも、久しぶりに聞く彼女の名前は罪人としてのものだった。狙われたのは僕で、少女が僕を守って彼女と対決し、勝利したのだと。
結果、彼女が命を落としたと。
それを聞くだけで、僕は全て把握したような気持ちになるのだ。そして、彼女についての事実に興味も持たず、目の前の少女に感謝する。
…愚かしい。
こんなもの、僕ではない。どの事件の結末でも、そこに参加している僕は頭がお花畑の愚者だった。
僕は、言葉だけの情報はただの情報であって、決して真実ではないのだと、ベッドの上で散々学んできた。
結果だけを聞いて、僕がそれを鵜呑みにするわけないのに。
僕が求める「愛」は、いつだって彼女のものだけだ。
僕の仮面を被る幾通りもの愚者たちは、誰にとって都合の良い道化を演じているのか。
狭いベッドの上で得た情報の、どこに嘘や詐称があり、誰が僕を騙し、誰がそれによって利益を得るのかを、僕は考えなければならない。
僕は弱いが、一国の王子だ。
だからこそ、決して利用されてはならないのだ。
…急速に、体が水中から引き上げられる感覚。
眠っていたような、微睡んでたような、ぼんやりしたまま、僕は白い天蓋を見上げる。
これはいつもの目覚めとは違う、と本能的に悟った。夢を見ていたわけではない。
全身が怠い。熱がまた上がっているのだろうか。
目の奥がズキズキと痛むので瞼を閉じると、実際には会ったこともない少女の面影が浮かぶ。
それとともに、先ほど見聞きした幻想の内容も。
目を閉じたまま、頭の中で整理する。
ベッドから動けない僕は、こうして頭の中だけで全てを組み立てなくてはならない。
そう、冷静に。自分の身に何が起きたのかを。優先順位は……。
僕は呻きながら上体を起こした。常に室内に控えている側仕えが気付き、慌てて手伝いに駆け寄って来た。その腕を、掴む。
「マーロウを…見聞係を、呼んでください」
僕には彼女に愛された記憶しかない。
大切に、守られてきた。弟のようなものだと言えばそうなのだろう。だけど、僕にとってそれは「愛」だった。
しかし、ある時から状況は一変する。
きっかけはわからない。ある日を境に、急速に彼女との距離が遠くなっていった。入れ替わるように金髪の少女が王宮に現れるようになり、僕へ向けられる「愛」は少女から与えられるものに置き換わっていった。
そして、必ず事件は起きる…そう、起きた事件はひとつじゃない。幾通りもの事件が、万華鏡の中で展開するように同時に起こるのだ。
そのどれも、僕はベッドの上で結果だけを後から聞いた。
どの事件の経緯でも、久しぶりに聞く彼女の名前は罪人としてのものだった。狙われたのは僕で、少女が僕を守って彼女と対決し、勝利したのだと。
結果、彼女が命を落としたと。
それを聞くだけで、僕は全て把握したような気持ちになるのだ。そして、彼女についての事実に興味も持たず、目の前の少女に感謝する。
…愚かしい。
こんなもの、僕ではない。どの事件の結末でも、そこに参加している僕は頭がお花畑の愚者だった。
僕は、言葉だけの情報はただの情報であって、決して真実ではないのだと、ベッドの上で散々学んできた。
結果だけを聞いて、僕がそれを鵜呑みにするわけないのに。
僕が求める「愛」は、いつだって彼女のものだけだ。
僕の仮面を被る幾通りもの愚者たちは、誰にとって都合の良い道化を演じているのか。
狭いベッドの上で得た情報の、どこに嘘や詐称があり、誰が僕を騙し、誰がそれによって利益を得るのかを、僕は考えなければならない。
僕は弱いが、一国の王子だ。
だからこそ、決して利用されてはならないのだ。
…急速に、体が水中から引き上げられる感覚。
眠っていたような、微睡んでたような、ぼんやりしたまま、僕は白い天蓋を見上げる。
これはいつもの目覚めとは違う、と本能的に悟った。夢を見ていたわけではない。
全身が怠い。熱がまた上がっているのだろうか。
目の奥がズキズキと痛むので瞼を閉じると、実際には会ったこともない少女の面影が浮かぶ。
それとともに、先ほど見聞きした幻想の内容も。
目を閉じたまま、頭の中で整理する。
ベッドから動けない僕は、こうして頭の中だけで全てを組み立てなくてはならない。
そう、冷静に。自分の身に何が起きたのかを。優先順位は……。
僕は呻きながら上体を起こした。常に室内に控えている側仕えが気付き、慌てて手伝いに駆け寄って来た。その腕を、掴む。
「マーロウを…見聞係を、呼んでください」
10
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!
佐倉穂波
ファンタジー
ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。
学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。
三話完結。
ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。
2023.10.15 プリシラ視点投稿。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄された悪役令嬢ですが、闇魔法を手に聖女に復讐します
ごぶーまる
ファンタジー
突然身に覚えのない罪で、皇太子との婚約を破棄されてしまったアリシア。皇太子は、アリシアに嫌がらせをされたという、聖女マリアとの婚約を代わりに発表。
マリアが裏で手を引いたに違いないと判断したアリシアは、持ち前の闇魔法を使い、マリアへの報復を決意するが……?
読み切り短編です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる