破滅を突き進めば終わると思ってた悪夢の様子がなんかおかしい。

秋野夕陽に照山紅葉

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離脱作戦

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 悶々としながら迎えた放課後。
 早足に教室を出て、まだ終わっていない様子の男子教室の前をそそくさと通り過ぎ、馬車の群れの前で我が家の家紋を見つける。
 いつもより随分早く現れた私の姿を見て、御者が慌てて飛び出してきた。

「慌てさせてしまってごめんなさい。今日はもう帰ります」










 リリィのことは、考えても仕方ない。
 ゲームとしていずれかのルートを選択するつもりであろう主人公の行動によって、私の役割は変わる。ただし、それはリリィにとっての、ライバル令嬢クラウディアの役割だ。

 今回はクラウディアが純粋な公爵家のご令嬢ではなく「私」なのだから、何らかの変化が起きても許容してもらわなくては。
 少なくとも、リリィの望むゲーム通りの展開からは外れるだろう。「気が違った」と思われない程度にクラウディアらしい言動で、できる限りの回避行動はさせてもらう。

 リリィにとっては恋愛劇だろうが、私にとっては命懸けの茶番劇なのだから。


 …失敗しても、どうせ3ヶ月後に死ぬだけだ。











「旦那様がお戻りです」
 家令に告げられ、私は慌てて身支度を整えた。
 父の執務室の扉を叩く。

「お父様、お帰りなさいませ」
「クラウディア。もう帰っていたのだね」
「ええ、お父様にお話しがあって」
「いい話だと良いな」

 「私」が会った父は、昨日の朝、ループが発生する直前に断頭台で並ばされていた姿だ。悲愴感に満ち、窶れた姿だった。
 今、目の前にいるのはシュッとしたシルエットのスーツが馴染む、長身で引き締まった体躯の壮年男性。私のウェーブヘアは父譲りだ。豊かな焦げ茶色の髪を後ろで束ね、普通なら汚ならしくなりそうな口髭が色っぽい。

(本来はこんなに素敵なおじさまだったのね)

「おいで」
 執務机の上の鈴を鳴らし、家令に「お茶を」と告げる。
 椅子に座り、父と向き合うタイミングで紅茶が届いた。

「さて、話とは?」
 テレンス兄様よりは私と似ている釣り気味な目が私を見つめる。
 私はそっと深呼吸し、顔を上げた。

「お父様。そろそろ、私とハインリヒ殿下との婚約話が出る頃ですわね」
「そうだね。昔からそういう内定はいただいているからね。殿下もお前も16歳になったことだし、ひと月もせずに公式に発表されることになるだろう」

(うわぉ、ギリギリ…)

「今さらで非常に心苦しいのですが、そのお話は無かったことに出来ないでしょうか」
 「ん?」と父が目を丸くした。
「お前たちの関係は良好だろう?何か事情でもあるのか?」
「ええ」


 馬車で考えた、婚約話解消のための言い訳。


「……私、隣国へ留学に行きたいのです」


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