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あの日のエルネスト【ゲーム本編】
しおりを挟む「彼女がそんな卑劣な真似をするなんて…」
静かな裏庭の東屋。ここにいると、世界に二人きりのように感じる。
だが、哀しそうに肩を震わせて俯く華奢な少女の姿は儚くて、俺の心はこの場の安らぎよりも、むくむくと湧き上がる義務感でいっぱいになった。
見るからに守ってあげなくてはならない存在。
俺はその薄い肩に手を置く。
「俺に任せて。必ず君を守ってみせる。彼女にも…きっと何か事情があると思うんだ。俺がこんなこと、もうさせやしない」
「エルネスト様…」
安心したのか、俺を見上げたリリィの頬がほんのりと紅くなった。
柔らかな桃色がかった金髪が、肩に乗せた俺の手の甲をくすぐる。
リリィには、笑顔が似合う。
向日葵のような、パッと場を明るくする笑顔だ。
そんな女の子が、俯いて悲しんでいるのだ…俺は、その笑顔を取り戻す義務がある。
「いつだって、俺が守るよ」
「ありがとう、ございます」
俺は幼い頃から騎士に憧れ、必ずや正しい道をひたすらに突き進むと誓っている。
正義は、義務だ。誰かが、必ず成さなければならないものだ。
俺は、幼馴染の黒髪の少女を思い出す。由緒正しき公爵家の少女。
俺は彼女が大好きだった。
だが、彼女の誇りは地に堕ちた。
こんなにか弱く繊細なリリィに数々の嫌がらせを行い、有る事無い事吹聴して周るなど、道義に反する。許させるものではない。
リリィへの嫉妬心からこそこそと卑怯な行いをする、クラウディア。その悪事は、俺が暴かねば。そして、正義を執行せねば。
俺は、断罪に必要な証拠を集めた。証言ばかりで物的証拠が見つからなかったが、これこそ彼女の周到さの表れだ。
俺は、必ずや彼女の悪事を暴いてみせる。
「エルネスト様は本当に頼りになるお方。なんて正しく、高潔なお姿なのかしら」
リリィが微笑んだ。聖女のような笑顔だ。
その笑顔を曇らせるクラウディアに、更に嫌悪感が募った。
私はそんなことはしていない、とクラウディアが叫ぶ。
「嘘をつくな、君がやったんだ」
何故信じてくれないの、とクラウディアが叫ぶ。
「俺は全て知ってる、君がやったんだ」
何故、どうして、とクラウディアが嘆く。
「正義の名の下に、断罪する。己の罪を認めろ」
彼女がその罪を認めるまで、責めて、責めて、責め続ける。
…次第にクラウディアは落ち着きがなくなり、目を合わせなくなり、ぼんやりしている瞬間が多くなり、顔から感情がなくなり、反応がなくなり、言葉を発しなくなった。
人形のようになっていくクラウディアを、それでも俺は救おうとした。悪事を自認し、反省し、心を入れ替えるのであれば赦そうと。
ある日、訪れたクラウディアの部屋の中で、彼女は宙に浮いていた。
ベッドの天蓋に吊るしたロープで、ゆらゆらと音も立てずに揺れていた。
俺は、呆然と彼女のつま先を見つめる。
あぁ、彼女は殺されたのだと思った。
……俺の手によって。
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