破滅を突き進めば終わると思ってた悪夢の様子がなんかおかしい。

秋野夕陽に照山紅葉

文字の大きさ
上 下
10 / 43

エルネストの見る悪夢【エルネスト目線】

しおりを挟む
 正しい行いだ。
 

 俺は自信を持って、そう主張した。
 曖昧なのは嫌いだ。中途半端は善くない。
 物事には必ず正しい有り様があって、心身を鍛え、誠実に在ることで必ずその正しい有り様が見極められるようになると、俺は昔から信じてきた。


 …しかし、ここでは何故か全てが歪んでしまう。
 どんなに目を凝らしても、近付いて触れようとしても、全てが歪んで、霞んで、崩れていく。なに一つ、掴めない。


 そうか、これは夢の中だ。
 気付いて、俺は少し安心する。

 だが、夢の中の俺は主張し続ける。
 俺が正義で、君が悪だと。
 はっきり断言し、彼女を追い詰める。
 俺にはわかる、全て見通しているのだと。
 視界に広がるのは、黒々としたモヤばかりだというのに。

 モヤの向こうから、女性の悲鳴が聞こえる。
 もうやめて、もう赦して、と。
 しかしその悲痛な叫びこそが自分の正義の証明だと、高揚感が俺を支配していく。



 俺は何を根拠に。
 俺は誰を糾弾して。
 俺は、俺は。



 ……ダメだ。
 ダメだ、やめろ。
 こんなものが正義のはずがない。俺が今まで信じていたものは、こんな非情なモノであってはならない。

 俺はモヤの中へ手を伸ばす。泥水のような重い触感を掻き分けながら、悲鳴を上げている女性を探す。

 助ける。絶対に救ってみせる。必ず俺が守るから。

 …やがて、柔らかい何かに指先が触れた。モヤの隙間から、涙に濡れた頬が見える。

 見つけた!






「っ……」

 振り下ろした木刀が、止められずに地面を叩き付けた。弾みで木刀が折れる音と、握る両手が反動で痺れる感覚。


 …何が起きたのか、わからなかった。

 辺りを見回すが、誰もいない学院の林道。
 そう、さっきからずっと、俺はこうして木刀を振っている。毎日行っている習慣だ。
 鍛練を欠かすわけにはいかない。いざという時、大切な彼女を守らねばならないから。

「……」

 手の痺れで取り落とした木刀の握りを拾おうと手を伸ばし、不意に柔らかな感触が指先に甦った。

 柔らかくて、温かくて、滑らかな…。

 幻のそれを、俺はきゅっと握り込む。
 ひとりで考えてもろくな答えなど出ないと、自覚している。
 「貴方はもう少し、じっくり考える癖をつけなくてはいけないわね」と笑われたのはいつの事だったか。「力や体力だけではなくて、思慮深く知恵のある騎士様って素敵だと思うわ」と。
 柔らかでほっそりした指先を軽く握り込んで、俺の胸元をトンと突いた彼女はにこりと微笑んだのだ。

 「こうして胸を叩くのが、騎士の誓いよ」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

処理中です...