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エルネストの見る悪夢【エルネスト目線】
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正しい行いだ。
俺は自信を持って、そう主張した。
曖昧なのは嫌いだ。中途半端は善くない。
物事には必ず正しい有り様があって、心身を鍛え、誠実に在ることで必ずその正しい有り様が見極められるようになると、俺は昔から信じてきた。
…しかし、ここでは何故か全てが歪んでしまう。
どんなに目を凝らしても、近付いて触れようとしても、全てが歪んで、霞んで、崩れていく。なに一つ、掴めない。
そうか、これは夢の中だ。
気付いて、俺は少し安心する。
だが、夢の中の俺は主張し続ける。
俺が正義で、君が悪だと。
はっきり断言し、彼女を追い詰める。
俺にはわかる、全て見通しているのだと。
視界に広がるのは、黒々としたモヤばかりだというのに。
モヤの向こうから、女性の悲鳴が聞こえる。
もうやめて、もう赦して、と。
しかしその悲痛な叫びこそが自分の正義の証明だと、高揚感が俺を支配していく。
俺は何を根拠に。
俺は誰を糾弾して。
俺は、俺は。
……ダメだ。
ダメだ、やめろ。
こんなものが正義のはずがない。俺が今まで信じていたものは、こんな非情なモノであってはならない。
俺はモヤの中へ手を伸ばす。泥水のような重い触感を掻き分けながら、悲鳴を上げている女性を探す。
助ける。絶対に救ってみせる。必ず俺が守るから。
…やがて、柔らかい何かに指先が触れた。モヤの隙間から、涙に濡れた頬が見える。
見つけた!
「っ……」
振り下ろした木刀が、止められずに地面を叩き付けた。弾みで木刀が折れる音と、握る両手が反動で痺れる感覚。
…何が起きたのか、わからなかった。
辺りを見回すが、誰もいない学院の林道。
そう、さっきからずっと、俺はこうして木刀を振っている。毎日行っている習慣だ。
鍛練を欠かすわけにはいかない。いざという時、大切な彼女を守らねばならないから。
「……」
手の痺れで取り落とした木刀の握りを拾おうと手を伸ばし、不意に柔らかな感触が指先に甦った。
柔らかくて、温かくて、滑らかな…。
幻のそれを、俺はきゅっと握り込む。
ひとりで考えてもろくな答えなど出ないと、自覚している。
「貴方はもう少し、じっくり考える癖をつけなくてはいけないわね」と笑われたのはいつの事だったか。「力や体力だけではなくて、思慮深く知恵のある騎士様って素敵だと思うわ」と。
柔らかでほっそりした指先を軽く握り込んで、俺の胸元をトンと突いた彼女はにこりと微笑んだのだ。
「こうして胸を叩くのが、騎士の誓いよ」
俺は自信を持って、そう主張した。
曖昧なのは嫌いだ。中途半端は善くない。
物事には必ず正しい有り様があって、心身を鍛え、誠実に在ることで必ずその正しい有り様が見極められるようになると、俺は昔から信じてきた。
…しかし、ここでは何故か全てが歪んでしまう。
どんなに目を凝らしても、近付いて触れようとしても、全てが歪んで、霞んで、崩れていく。なに一つ、掴めない。
そうか、これは夢の中だ。
気付いて、俺は少し安心する。
だが、夢の中の俺は主張し続ける。
俺が正義で、君が悪だと。
はっきり断言し、彼女を追い詰める。
俺にはわかる、全て見通しているのだと。
視界に広がるのは、黒々としたモヤばかりだというのに。
モヤの向こうから、女性の悲鳴が聞こえる。
もうやめて、もう赦して、と。
しかしその悲痛な叫びこそが自分の正義の証明だと、高揚感が俺を支配していく。
俺は何を根拠に。
俺は誰を糾弾して。
俺は、俺は。
……ダメだ。
ダメだ、やめろ。
こんなものが正義のはずがない。俺が今まで信じていたものは、こんな非情なモノであってはならない。
俺はモヤの中へ手を伸ばす。泥水のような重い触感を掻き分けながら、悲鳴を上げている女性を探す。
助ける。絶対に救ってみせる。必ず俺が守るから。
…やがて、柔らかい何かに指先が触れた。モヤの隙間から、涙に濡れた頬が見える。
見つけた!
「っ……」
振り下ろした木刀が、止められずに地面を叩き付けた。弾みで木刀が折れる音と、握る両手が反動で痺れる感覚。
…何が起きたのか、わからなかった。
辺りを見回すが、誰もいない学院の林道。
そう、さっきからずっと、俺はこうして木刀を振っている。毎日行っている習慣だ。
鍛練を欠かすわけにはいかない。いざという時、大切な彼女を守らねばならないから。
「……」
手の痺れで取り落とした木刀の握りを拾おうと手を伸ばし、不意に柔らかな感触が指先に甦った。
柔らかくて、温かくて、滑らかな…。
幻のそれを、俺はきゅっと握り込む。
ひとりで考えてもろくな答えなど出ないと、自覚している。
「貴方はもう少し、じっくり考える癖をつけなくてはいけないわね」と笑われたのはいつの事だったか。「力や体力だけではなくて、思慮深く知恵のある騎士様って素敵だと思うわ」と。
柔らかでほっそりした指先を軽く握り込んで、俺の胸元をトンと突いた彼女はにこりと微笑んだのだ。
「こうして胸を叩くのが、騎士の誓いよ」
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