こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

文字の大きさ
上 下
15 / 200
②更新停止中です。お手数ですが近況ボードをご確認ください。

初めまして由海広です 中編

しおりを挟む
「彼を許してあげてください。お茶が
飲めなかったのは少し残念ですが、
この程度、痕にもなりませんよ。
自分でよく溢して鍛えてますから。」

担当者に呼びかけると、
うろたえながらも左藤くんの頭を
上げさせてくれた。

「お召し物を預からせて頂きます。
クリーニングと乾燥と治療を…。」

「大丈夫、もう平気ですよ。
私とそちらの仲でしょう?
もう気にされないで下さい。」

これも「仕事のトラブル」だ。
大したことじゃないしどうもない。
担当者は困惑しながら、大事を取って
救急車を呼ぼうとする。

参ったな。膝にお茶を溢して
救急搬送は恥ずかしい。
咄嗟に頭を回転させて
上手いこと別の手段を考えた。

「お騒がせしてすみません。
よろしければ、また後日お話を
お聞きしに来ます。」

「ですが、優沢さん念のために…。」

「大丈夫です、些細なことですよ。」

タオルをお返しして、頭を下げて
早々に扉から逃げるように出ていく。

会社を出ると、時間が経ったほうが
火傷は痛むことに気づく。
こんな寒空だが、思いっ切り膝に
冷水を掛けて冷やしたい気分だ。
自社に戻ってなんて言い訳しようか?

理由を考えながら数分歩いた所で
背後から大きな声で呼ばれた。

「優沢さん!」

「んっ?」

赤茶の目立つ青年、左藤くんだった。
息を切らし、今にもその場で土下座
しそうな切羽詰まった顔をしている。
担当者に言われて追いかけたのかな。

「左藤くんだね、どうしたの?」

「おれ、俺っすみませんでした…!」

やはり彼は地面とくっつきそうなほど
深々と頭を下げて謝罪した。

「怒ったりしてないですよ。
ほら、頭上げて下さい。」

「本当に…ほんとにっ…!」

肩を押し上げて一度頭を上げさせても
彼は振り子のように再び頭を下げる。

どうしよう、本当に怒ってないけど…
参ったな、ううん…そうだ。

「う~ん、強いて言うなら、
よかったらまたあのお茶を
用意してくれますか?
それで何もなかったことにしましょ。
…と言うことでどうでしょう?」

「えっ…?」

左藤くんがびっくりした顔を上げた。

「あのことも、半分は避けることを
しないどんくさい私が悪いですし。
それなのに取りつく島を与えなくて
困らせてしまいましたね。
気づかなくてすみません。」

和ませるために笑ってそう言った。
しかし左藤くんは笑っていなかった。

「そう…じゃなくて…。なんで…?」

「んん?」

「そこまで我慢してるんですか…!」

「………っ?」

彼の叫びは何故か私の心の深い部分に
ぐっさり刺さった。
痛みはなく胸の回りに、じんと響く。
左藤くんの顔が泣きそうに歪んでる。

違う、私が泣いている。
頬に熱い涙が伝う。

我慢…?そんなわけないだろう?
それに、もしそうだとしてもそれは
私は大人なんだから、多少の我慢は…

「…あたりまえ、でしょ?」

「怒って下さいよ!俺が悪いんです!
…自分のせいにしないでください!」

…なんで彼が怒っているんだろう。
だって、本当に多少は私がいけないと
思ったからそう言っただけなのに?
私の不手際で人に迷惑を掛けることは
たくさんあるんだ。
私が出来損ないだから。

「…、っ……。」

だけどどうしてだろう。
強く私を見つめる、左藤くんの
綺麗な緑色の瞳から目を離せない。

しかしこっそり涙を拭い意識して
顔を背けた。

「アドバイスしてくれてありがとう。
でも私はこんな性格なんだ。
…ごめんね。」

「そんなの、あなたは…でも…!」

「優しいんですね。ありがとう。」

何かを訴えたいように悶える彼を
振り切って立ち去ろうとすると、
手を掴まれた。

「!?」

「嫌です…っ、俺…!諦めません!
優沢さんが、素直に怒れるように、
笑えるように押しまくりますからね!
か、覚悟してください!!!」

「えっ…??」

そう言いきって、彼は毅然とした
眼差しで私を見た。真剣…だ。
それから、彼の方からぷいっと
背を向けた。

「…っ、また会いましょう…。」

「え…あ、はい……。」

つい、その気迫に負けて返事をした。
彼が立ち去った後には、膝を火傷で
痛めた私だけが取り残された。

触れた手のアトが燃えるように熱い。
指先は火傷してないと思うけど…。
いや、それにしても急に人前で
泣くなんて…自分が情けない。
恥ずかしいな。

…だけど、何故か心が少し
軽くなっていた。



つづきます→
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...