こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

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③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。

二人きりのエレベーター 前編

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とあるビルに据えられた「なんでも
超安い!」と有名な店で満足のいく
買い物を終えた由海広ユミヒロ燃夏モカ
両手に一つずつ買い物袋を提げ、
到着したエレベーターに乗り込む。
大人二人を同時に乗せても動じない
その個室は不思議と安心感がある。

色の褪せた扉は年季を感じさせ、
二人が入っただけでも二畳の狭い
空間は圧迫感があるがそれほど
長居しないことを考えれば平気だ。

「ふぅ…大収穫だったねー。」

「ふふっ、ほんとですね。」

「ん、よい、しょ…。」

袋を握ったまま何とか人差し指を
伸ばして地下一階のボタンを押す。
ぎゅうぎゅうの袋はまあまあ重いので
早く車に詰め込みたい。
ウォォオン…低くガタついて唸る
エレベーターの壁に背を預け、
充実した買い物の余韻を堪能する。

「部屋に飾る新しい花瓶を買うはずが
日用品の特売につられちゃったね。」

「おまけに花瓶は見つかりません
でしたが…俺は楽しかったですよ♡」

「ふふふ、私も。」

自然と二人の表情に笑みが溢れる。

袋の隙間からは戦利品のティッシュ、
消臭スプレー、ハンガー、ごみ袋、
除菌ティッシュなどがひとまとめに
詰められイビツにひしめいている。

今まで必要であれば消耗品の値段を
気にしたことはなかったけど、
買い物上手の奥様方にみっちり割引の
魅力を講義してもらったおかげで
特売をゲットするとウキウキと
ワクワクが止まらない体質になった。

だけどちょっと、買いすぎかな…。
彼の方をチラと見た。
くっ…率先して重い袋を持ってくれた
優しい恋人がイケメンすぎるっ…。
感動で思わず唇を噛み締める。

「??どうしました?」

「あ、いやっ…なんでもないよ。
袋持ってくれてありがとう。」

「俺の買い物もありますから、
気にされないで下さい。」

「え?ほとんど消耗品だと思ってた
けど…一体いつ、買ってたの?」

詮索ではなく、純粋な疑問で
首を傾げる。彼はにっこり笑った。

「コンドームとローション。」

「………あぁ…。」

聞かない方が良かったかな、と
私の方が恥ずかしくなって視線を
逸らし、耳が熱くなるのを感じる。
いや、ローションはともかく
コンドームも時々使うので地味に減る。
大切なものだから感謝しないと…。

「………んっ?」

ふと、背けた視線の先にポスターが
貼ってあることに気づいた。

四隅はぼろぼろでセロテープも
茶色に変色しており、
いかにもレトロな雰囲気を醸し出して
いるがなんと2000年代のコンサートの
予定表が張られていた。

…わぁ、全然知らないグループだった。
しかしこの貴重品には価値があると
思う。声を弾ませ彼を呼んだ。

「モカくん、見てみて。
このポスター20年前のだよ。」

「んぅ?へぇ、いかにもレトロ、って
感じがしますね。」

「あ、同じこと思った。ふふふ。」

ワカモノと思考が似てることに
おじさんは気を良くした。

エレベーターはゆっくり、ゆっくり
下っていく。どうやら途中次の階で
止まるようだ。
稼働年数を考えると、エレベーター
この道20年のベテランに思えてきた。
立派な仕事人だな、と感心する。

「…なんだか、この前見た映画の
ことを思い出すとちょっと複雑ですね」

「ん?いつのやつ?」

「ほら、先週雨が降ったときの…」

「あぁ、SFのあれかっ!そうそう、
途中主人公の乗ったエレベーターが
故障して止まったんだよね。」

「ええ、非日常的で迫力のある
ストーリーは面白かったんですが、
俺もそこが結構印象的でした。
あの場面は日常に起こりうること
だからかもしれませんね?」

「うんうん、分かる…!だけど実際
故障することに遭遇するなんて
滅多にないけどねー。あはは。」

「そうですね。あ、次止まりますよ」

「ほい、ちょっと詰めよ。」

狭い室内なので次に来る人に余裕を
持ってスペースを空ける。
壁際に肩をピタリと密着させた。

「………。」

「っ…。」

サングラスを掛けてすらりと細い
女性は携帯を操作しながら真っ直ぐ
エレベーター内に乗り込む。
高いヒールをカッコッカッと鳴らして
くるっと背を向けた。

長い髪をうっとうしそうに払い、
強い香水が香る。
無駄のない動作で一つ下の階の
ボタンを押すと、扉前で俯いたまま
足を肩幅より開いて仁王立ちした。

若い女性の堂々とした態度に
貧弱なおじさんはタジタジだ。

せめて空気、空気になろう。
サングラスで分からないけど、
入った時目が合ったかな?
あからさまに視線を逸らしたことに
気を悪くしてないかな?
あ、今身動きしたのを怪しまれて
不快に思われてないかな?
いやそもそも見ず知らずのおじさんに
色々考えられているとかそれだけで
存在が不愉快だろうか…。

女性が苦手な由海広は無意識のうちに
色々なことを、余計に考えてしまう。
多分、以前より苦手になった。
たった一階降りるだけの時間が無限に
感じられて、彼にも動揺を悟られない
ようにポーカーフェイスを繕うだけで
精一杯だ。

「~~~~…っ。」

存在を薄くして空気になろうと
努めるあまり、自分が空気を吸うこと
さえ忘れていた。
エレベーターが到着したポン、と
優しい音にどれだけ救われたか…。

女性は振り替えることなく、携帯を
正面に固定したまま直進で出ていった。
あぁ、二時間分は疲れたかも。

「はふ…あ、ごめんね…?」

「ん?どうかしましたか。」

「いや、えと…なんでもないよ…。」

私の怪しい行動にきっと彼は
気づいたはずなのに何もない素振りで
振る舞ってくれる。
やっぱり優しい彼に一番感謝だ…。

「結構店内歩きましたし、
俺ちょっと小腹が空いてきました。」

「あ、それなら一階で停まる?
フードコートがあったと思うから
軽食摂ろうか。」

「うーん、荷物を片付けたい気持ちも
ありますが…すみません。今は食欲に
負けますっ!」

「ふふっ、はーい。」

申し訳なさそうに目を固くつむって、
食欲に負けちゃうモカくん可愛いなと
思いながら、随分静かになった
エレベーターのボタンを押し直す。

「…?」

一瞬、押し損なったと思った。
しかしもう一度、いやもう一度
ボタンを押してもランプが点灯しない。

「あれ…?」

おかしいな…。
親指でぐりぐりボタンを押す。

「………海さん海さん。このビル、
やたらと六階が長いですね。」

「え?あ…。」

それを聞いて自分も顔を上げた。
順調に進んでいたはずの扉上の数字が
完全に六階で停まっている。
モカくんなりのジョークかと思ったが
声が本気で深刻だ。

「…………。」

「…………。」

顔を見合わせる僅かな時間も、
完璧な静寂である。

これって、まさか…。

「…エレベーターに閉じ込められた?」

静けさのあまり、サァと自分の
血の気が引く音まで聞こえた気がした。








つづきます→
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