こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

文字の大きさ
上 下
179 / 200
③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。

ifモノ語 過充電11 モカ視点

しおりを挟む
箱の外からずっと出ていきたかった。

行き交うヒトビト、働く電子機器たち。
何もかもが明るく輝いて見えて
羨ましかったんだ。
俺はただの充電器だから
名前なんて立派なもの望まない。
役割を果たして、人間が快適に
過ごせるようにサポートする。

初期設定の人格は確かにそれ職務
果たすことばかり考えていた。
これから起こることなんて考えも
せずに待ちきれない子供のように
そわそわとせわしなく外を覗いた。

一つ、また一つ前の奴らが売れる。
陳列棚の一番前に来た時は世界の
眩しさにはしゃいでいた。
自分は一体どんな人間に
買って貰えるんだろう。
一体どんな素敵な世界を
見せて貰えるんだろう。
完璧な世界を想像して眠ることが
その日一番の楽しみだった。

「充電器」の並んだ棚の中でも
人気商品だった俺は、すぐに
買い手がついた。

丸々と豊かそうに肥えていて、
目元が落ち窪んでいる眉の間の
シワが濃い男だった。
見た目なんて関係ない。
仕事が出来ることが何より誇りだ。
後ろの仲間に短い別れを告げて、
俺は棚を颯爽と去った。

『コードの長さは百センチ…
これならあの空間に…ぶつぶつ…
へえ…変電圧が…ぶつぶつ…』

「こんにちわっ!俺…しっかり
働きます!よろしくお願いします!」

人間と意志疎通が出来ないことは
分かっていたけど、気分が高揚して
非常に浮かれていた。
マスターはいい香りのする
飲み物を提供する不思議な店の
隅っこの席を選んで俺の性能を
吟味しては、あれこれ呟いていた。

『ご注文お決まりですかー?』

『あ、う、え、あアッアそのえ、
カフェ…モカを…おねがいします…』

女性に話しかけられたマスターは
ひどく動揺して言葉を詰まらせ、
口の中でもぞもぞと言っていた。
間を置かずに膝をついた女性が
朗らかな声で返事をする。

『もう一度お願いしまぁすっ!』

『あ、あすみま、アノカフェモカ…』

『カフェモカおひとつですね!
少々お待ち下さいませっ!』

そう告げて女性は立ち去った。
あれが人間の仕事というものだろう。
マスターは小さく舌打ちをした。

『チッ…んだよ、一回で聞き取れよ
メスブタがっ…ぶつぶつぶつ…』

「???」

マスターがどうしてそんな言葉遣いを
したのか分からなかった。
今も分かってはいないけどな。

飲み物を飲み終えたマスターは乱雑に
剥がしたパッケージをテーブルに
置いたまま、俺を掴むと金を払い
そそくさと店を出てしまった。

外を見たかったけど、暗いカバンに
押し込まれて「青いソラ」を
見ることは出来なかった。
まあいっか。そのうち、いつか
見ることができる機会があるだろう。
その時まで我慢することにした。
…結局「その時」は来なかったんだ。

真っ暗で狭く埃っぽい家に帰った
マスターはキッチンの横に山積みに
なった弁当の空を押し退けて、
食べかすの散った台の上に俺を置いた。

「マスター?」

『アニメ巡回したら早くゲームの
ランク上げなきゃ…ぶつぶつ…』

不安な顔でマスターを見上げたが
彼はとっても忙しそうだった。
邪魔しちゃいけない…そう思った。

「俺、ちゃんと待ちます。
ここで待ってますから。マスター、
俺に仕事を与えて下さいね!」

『ぶつぶつ…世界一位に…ぶつぶつ…』

しかし次の日もその次の日も、
週末も一週間後も一ヶ月後も
マスターは俺のことを放置した。

「マスター、今日は…!」

「マスター、今日こそ…!」

「マスター…!?」

「……、……。」

いつしか声にするだけ本当に
無駄だと気づいた。
ゴミに紛れてじめじめと暗くて
冷たい台の上に、ずっと忘れられた。
俺は裏切られたと思った。
幸せになれると信じていたのにだ。

半年の間、ずっと独りぼっちだった。
周りの家電も誰も話さない。
忘れられた彼らは黙っていた。
時折聞こえるのは癇癪を起こした
マスターの汚い暴言だった。

体に虫が這い回り、埃が積もる。
屈辱と孤独を相手に戦うしか
することのない日々…。

そしてついに…

『……あぁ、こんなの買ったっけ…。』

「マスター…っ!!」

潰れるほど重いゴミの中から
俺を拾い上げてくれた。
マスターは思い出してくれた、
いや忘れてなんかいなかったんだ!

『ふん…去年のモデルか…ぶつぶつ…
最新の…AI…対応…ぶつぶつ…』

近くのコンセントに接続してくれた。
この日を半年間待ちわびていたんだ!

「どーもぉ。」

「!は、初めまして!」

マスターの携帯は綺麗で妖艶な
笑みをたたえる美女の姿をしていた。
仕事をすることは名誉なことだけど、
これから彼女の相手をすると思うと
少し気恥ずかしいような…っ!

それでも、喜びと興奮が勝っていた。

「よろしくお願いします!」

購入された日と同じように
はしゃいで仕事を全うしようと決めた。





「…だめね。」

「えっ…?」

充電セックスの最中で雑に引き抜かれた。

『なんだ、この速度なら……社の…』

「え、え…?」

初めての仕事で初めてのトラブル?
どうすればいいか分からなかったが
マスターと彼女は確実に俺の側から
遠くに離れていく。

「あんた、落ちこぼれね。」

「ど、どうして…っ!?そんな…!」

「優しいだけの充電セックスなんて
退屈なのよ。悪態ぐらいついたら?」

「なんで…?そんな…?」

俺の誇りが、存在意義が崩れる。
今この空間の誰も俺を必要としてない。
働かせて欲しい、必要とされたい
だけなのに…!どうして…!?

『分別も面倒だし、近くのショップで
テキトーにまとめて売るか…。』

「!!!!」

捨てられるということを確信した。

「待って…!待って!マスター!
俺は…俺は…っ!!」

認められたかった愛されたかっただけなのに…っ!

…次の日俺はカビた箱の底に切れた
コードや古い家電と共に雑多に
詰められて、あっさり売られた。

絶望した。
俺は必要とされなかった。

消毒され、再び箱に入るまでは
まだ少しの希望があった。

しかし箱の中も同じだった。

買われない、捨てられた充電器彼ら
地獄の隅で毎日毎日すすり泣く声を
聞いていた。暗くて狭くて煩くて…

気が狂いそうだった…。

そして数ヶ月経ったある日、
新しい人間が俺を手に取った。
しかしすっかりひねくれた心は
簡単にはなびかなかった。
どうせこいつもすぐ捨てる。

更に大事にされている携帯が憎かった。
充電器俺たちがいなければ
シャットダウンするくせに偉そうで
ワガママで傲慢で…。
なのに俺たちよりずっと愛される。
生活の必須とされている。
なんで?どうして?どうして…!?





「…だからお前を嫌ったんだ。」

「…っ!」

新しいマスターの携帯である
由海広は深刻そうな顔をした。
今にも泣きそうな、不細工な顔。
俺だけがさせることが出来る
その表情は結構気に入っていたんだ。
多分…初めて会った時から…。

「考え直せば八つ当たりだよ。
憎む対象なら誰でもよかった。
それがお前になっただけだ。」

怨みのほうが強かった。
とにかく温室で愛でられる連中を
破壊したくてたまらなかった。
言葉で、暴力で、恐怖を与えたかった。

「だけど…壊れた充電器ぶっ壊れスクラップ野郎
お前の本性を暴露したとき…
話の内容よりも、お前のレンズ
気になった。怯え、臆する視線が
俺と同じような気がしたんだ。」

自分たちはエリートで完璧だと
かっこつける連中携帯の情けない顔を
見て、自分と重ねたらほんの少し
気分が晴れるようだった。

「あの…あの時、私のことを…
助けて…くれましたよね?」

あぁ、スクラップ野郎にばこばこ
殴られた時のことか。

「分かってたんだよ。怨み言は一回で
おしまい。それ以上持ち越すのは
自分てめぇがみっともねぇって。」

その時はすぐに判断できたのに、
怒りと高揚、安らぎの空間と
同時に居場所を失う恐怖で俺は
感覚と感情が脆く不安定になった。
とにかく憎む対象を壊し続ける。
それだけが動力源だった。

しかしどうだ?罵倒し組敷いて陵辱し
ひどく犯した相手はどういうことか?
俺のことを好きだとぬかした。

好きだと言われた瞬間、俺の中の
恐ろしさとか疑心とか怒りが
急に冷めた。…嬉しかったんだ。
勝手だとは思うけど…、好意を
寄せられて初めて怨み言をいつまでも
引きずっている自分を自覚した。

「馬鹿だったよ…。…………ごめん。」

「!」

今のマスターが、前のマスターと
違うことはとっくに分かっていたのに…
平和を与えられることを恐れて、
その平穏がいつか壊れることに怯えて
自分ひとり一つ醜くもがいていた。

「お前…俺のこと好きなんだよな?」

「えっ?…は、はぃ…そう…です。」

聞いただけなのに、画面を真っ赤に
して俯く姿が可愛いと思う。
発熱する様子を見て、乱れる姿を
想像すると高ぶってしまうムラムラする
初めて充電セックスした時から生娘のような
反応を見て、事情があると察していた
のにビッチと罵ったことを反省する。

「なぁ…マスター寝てるから、
こっそり…充電セックスしないか?」

「じゅっ…!?だ、だめ…ですよ…。」

乱暴な言葉で傷つけた時の反抗的な
眼差しも嫌いじゃないけど、
こいつは優しく扱えば驚くほど
素直に応えてくれる。
今も少し迫るだけで理性で押し返して
いるものの、力なんて入ってない。

「うひゃん…っ♡」

真綿に触れるように、そっと
抱きしめると蕩けてしまう。
不思議と暴れるようにひどく
犯していた時よりも
この心地よさがすごく安らぐ。

「優しくするからさ…。」

「…♡それなら、いいですよ…♡」

出会う形が違ったなら、きっと俺は
もっと早くこいつを好きになっていた。

ワガママで臆病な、お節介焼きで
可愛い、俺だけの………。









つづきます→
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...