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③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。
隅々まで撮らせて? 前編
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「………。」
由海広はベッドの中央端に腰掛けて
いつもと違う雰囲気に居心地悪そうに
体をそわそわさせていた。
まさか、こんなことになるなんて…。
温度設定は丁度いいはずの寝室なのに
仕事着のシャツの下を緊張の汗で
しっとりと濡らしていた。
由海広の視線は不安そうにチラチラと
ベッドの端から正面一メートルほど
先にある三点脚立の上に鎮座した
新品のデジタルカメラを往復する。
「夢ではないか」と僅かな希望に
すがって何度も確認しているようだ。
カメラを買ったのは恋人の燃夏だ。
色は彼の好きな、ちょっとお洒落な
メタリックグリーン。
小さくてボディの薄い新型。
初めて見たときは由海広も童心に
帰って興奮していたが、今は最大の
悩みの種のようなものだ。
カメラの後ろでは、神妙な顔をした
燃夏が初期設定に苦戦している。
「………これで、よし。」
「………っ!」
燃夏のその言葉に反応して
由海広は全身を硬く強張らせた。
ついにその時が来てしまった。
待ち望んでいたわけではないが
心音は速まり、握った拳の指先が
白くなり痺れている。
二つの瞳は少し怯えた様子で
デジタルカメラの中心のレンズを
凝視していた。
「それじゃあ、海さん…
始めていいですか?」
燃夏の口調もいつもより堅苦しい。
「すぅ……ふぅ。」
由海広は熱い目頭を瞬きで潤し、
胸いっぱいに深呼吸して
新鮮な空気で肺を満たす。
覚悟を決めていた。
それからパッと目を開けて
短く頷いた。
「うん、いいよ。」
そう答えたらもう逃げられないことを
決心して、恋人を想い、許したのだ。
「では、雰囲気を優先して
カウントから始めます。
…期待してますよ♡」
レンズを覗いていた燃夏が
一瞬、直接恋人を見つめて
ニコッと笑いかけた。
由海広は胸をトントン叩いて
冷静さを取り戻すおまじないをする。
「3…2…1…スタート。」
「………。」
指示されたように、
カメラの中央を意識して見た。
「…あなたの名前は?」
「…由海広です。優沢…由海広。」
「…整えた顎髭がセクシーですね。
年齢はおいくつですか?」
役に入りきった燃夏の質問口調に
戸惑いつつも正直に答える。
「先日一つ歳を重ねまして33歳です。」
「働き盛りのエリートおじさまですね。
お仕事は何をされているんですか?
あぁ個人情報がバレない程度に。」
「…っ!あ…その、えーと
一般的な会社員…です。」
今のはリアルを追及したのだろうか?
そう、彼の立案した
「えっちビデオ撮影ごっこ♡」を
より本物っぽくするために?
あ、本名で答えちゃったけど
そこは気にしてないみたいだ。
そのあとも服装や見た目について
やたらと褒められた。
気恥ずかしくなってその部分は
「あぁ。えぇ、どうも。」と
適当な相槌になってしまった。
「…………ふーむ。…ふふっ。」
「…!」
合間で顔を下げ、唇の下に指を当てて
質問を考えていた燃夏の堪えきれず
漏れた笑い声を聞いて確かに第六感が
働き、嫌な予感を察知していたんだ。
身構えてつい、カメラの向こうの
燃夏のほうを覗いていた。
「うみ…優沢さんカメラを見て下さい。
そうそう…恋人はいるんですか?」
「っ!」
第六感は当たるようだ。
なんとなくそういうことを
聞かれると予想していた。
握っていた拳をほどいて、
小さく深呼吸してから再び握り直す。
答えを急かされる前に言わないと…。
「はい…。優しい、恋人がいます。」
「…!そ、そうですか。
…えーと…同期の方ですか?」
今の答え方は少し動揺させたようだ。
ちょっとくらいバレないように
仕返ししてもバチは当たらないだろう。
「いえ、年齢も離れていますし
会社も違います。同性の恋人で、
異性からモテモテのすごくカッコいい
恋人ですが、こんなおじさんを
選んでくれた素敵な人です。」
「むぐぅ…っ。」
カメラに映らない彼も思わぬ反撃に
恥ずかしくなっているようだ。
澄ました無表情を貫きながら
由海広は心の中でガッツポーズをした。
「こ、こんな動画を撮られて恋人は
どう思うでしょうかね?」
「恋人が撮っているので平気でしょ♡
おかげで安心してますよ。」
「ちょ、海さんそれはずるい…っ。
こほんこほんっ。質問を変えます。」
自分から素を出した燃夏は
遅い咳払いで誤魔化し、レンズを覗く。
「趣味は何ですか?」
「趣味?ええと、色んなお茶と
コーヒーを淹れたり嗜むことが
好きです。焙煎やブレンドの割合で
全く別の味、それぞれの新しい
役割で引き立てられるハーモニー」
「す、すすストップ。長くなるので
他の趣味をお答え下さい。」
「むー。」
これからが楽しくなるのに。
由海広は不満そうに頬を膨らませた。
「他には、なんだろう…。
車でドライブしたり、買い物したり…
映画を見たり…あれ?結局恋人と
一緒にいることが趣味ですかね?」
「ねぇ、わざとですか?
今すぐ押し倒されたいですか?」
「ふえ?あ、えーっと。
あとはそうですね、本を読んだり
音楽を聴いたり人並みです、はい。」
背筋がヒヤリとしたので
ため息混じりにちょっと怒ってる風の
彼を刺激しないように簡単にまとめた。
どうやら彼を高ぶらせる地雷を
踏んだようだ?正直に答えたのに。
「ふー…。ふぅ。」
手の甲で額の汗を拭う燃夏を眺めた。
ちょっぴりカメラに
慣れた私より大変そうだ。
なんて思って見ていた。
「…おかしいですね。
事前に取ったアンケートに趣味は
『ひとりえっち♡』と
『恋人とえっち♡』って書いて
あるんですけどねぇ?」
「んんんっー!?意義あり!!
アンケートなんて答えてませんっ!」
天高く挙手をしてアピール。
しかし空振り。
「でも好きですよね?」
「………ううぅ。」
肯定…したくはないけど、
否定も出来ませんよ…!
カメラの視線を感じて俯き顔を隠す。
「さて、事実のようなのでどうぞ?
まずはひとりえっちを見せて
頂きましょうか。」
燃夏は自分のペースを
取り戻したようで機嫌よさそうに
「どうぞ」の手を差し出し自慰を促す。
「え、えええ…!?モカくんっ?
本当にするの…!?」
「一応監督の設定です。はい!開始!」
「ふぁあああ?」
手をパーンって叩いて「開始!」
なんて言われても理解が追いつかない。
シワを寄せた眉に指を当てる。
そうだ、そもそもどうして
私がカメラの前にいて、
モカくんが監督をやっているんだ?
混乱してしまったなら
最初から思い返して
謎解きの紐を解いてみよう…。
つづきます→
由海広はベッドの中央端に腰掛けて
いつもと違う雰囲気に居心地悪そうに
体をそわそわさせていた。
まさか、こんなことになるなんて…。
温度設定は丁度いいはずの寝室なのに
仕事着のシャツの下を緊張の汗で
しっとりと濡らしていた。
由海広の視線は不安そうにチラチラと
ベッドの端から正面一メートルほど
先にある三点脚立の上に鎮座した
新品のデジタルカメラを往復する。
「夢ではないか」と僅かな希望に
すがって何度も確認しているようだ。
カメラを買ったのは恋人の燃夏だ。
色は彼の好きな、ちょっとお洒落な
メタリックグリーン。
小さくてボディの薄い新型。
初めて見たときは由海広も童心に
帰って興奮していたが、今は最大の
悩みの種のようなものだ。
カメラの後ろでは、神妙な顔をした
燃夏が初期設定に苦戦している。
「………これで、よし。」
「………っ!」
燃夏のその言葉に反応して
由海広は全身を硬く強張らせた。
ついにその時が来てしまった。
待ち望んでいたわけではないが
心音は速まり、握った拳の指先が
白くなり痺れている。
二つの瞳は少し怯えた様子で
デジタルカメラの中心のレンズを
凝視していた。
「それじゃあ、海さん…
始めていいですか?」
燃夏の口調もいつもより堅苦しい。
「すぅ……ふぅ。」
由海広は熱い目頭を瞬きで潤し、
胸いっぱいに深呼吸して
新鮮な空気で肺を満たす。
覚悟を決めていた。
それからパッと目を開けて
短く頷いた。
「うん、いいよ。」
そう答えたらもう逃げられないことを
決心して、恋人を想い、許したのだ。
「では、雰囲気を優先して
カウントから始めます。
…期待してますよ♡」
レンズを覗いていた燃夏が
一瞬、直接恋人を見つめて
ニコッと笑いかけた。
由海広は胸をトントン叩いて
冷静さを取り戻すおまじないをする。
「3…2…1…スタート。」
「………。」
指示されたように、
カメラの中央を意識して見た。
「…あなたの名前は?」
「…由海広です。優沢…由海広。」
「…整えた顎髭がセクシーですね。
年齢はおいくつですか?」
役に入りきった燃夏の質問口調に
戸惑いつつも正直に答える。
「先日一つ歳を重ねまして33歳です。」
「働き盛りのエリートおじさまですね。
お仕事は何をされているんですか?
あぁ個人情報がバレない程度に。」
「…っ!あ…その、えーと
一般的な会社員…です。」
今のはリアルを追及したのだろうか?
そう、彼の立案した
「えっちビデオ撮影ごっこ♡」を
より本物っぽくするために?
あ、本名で答えちゃったけど
そこは気にしてないみたいだ。
そのあとも服装や見た目について
やたらと褒められた。
気恥ずかしくなってその部分は
「あぁ。えぇ、どうも。」と
適当な相槌になってしまった。
「…………ふーむ。…ふふっ。」
「…!」
合間で顔を下げ、唇の下に指を当てて
質問を考えていた燃夏の堪えきれず
漏れた笑い声を聞いて確かに第六感が
働き、嫌な予感を察知していたんだ。
身構えてつい、カメラの向こうの
燃夏のほうを覗いていた。
「うみ…優沢さんカメラを見て下さい。
そうそう…恋人はいるんですか?」
「っ!」
第六感は当たるようだ。
なんとなくそういうことを
聞かれると予想していた。
握っていた拳をほどいて、
小さく深呼吸してから再び握り直す。
答えを急かされる前に言わないと…。
「はい…。優しい、恋人がいます。」
「…!そ、そうですか。
…えーと…同期の方ですか?」
今の答え方は少し動揺させたようだ。
ちょっとくらいバレないように
仕返ししてもバチは当たらないだろう。
「いえ、年齢も離れていますし
会社も違います。同性の恋人で、
異性からモテモテのすごくカッコいい
恋人ですが、こんなおじさんを
選んでくれた素敵な人です。」
「むぐぅ…っ。」
カメラに映らない彼も思わぬ反撃に
恥ずかしくなっているようだ。
澄ました無表情を貫きながら
由海広は心の中でガッツポーズをした。
「こ、こんな動画を撮られて恋人は
どう思うでしょうかね?」
「恋人が撮っているので平気でしょ♡
おかげで安心してますよ。」
「ちょ、海さんそれはずるい…っ。
こほんこほんっ。質問を変えます。」
自分から素を出した燃夏は
遅い咳払いで誤魔化し、レンズを覗く。
「趣味は何ですか?」
「趣味?ええと、色んなお茶と
コーヒーを淹れたり嗜むことが
好きです。焙煎やブレンドの割合で
全く別の味、それぞれの新しい
役割で引き立てられるハーモニー」
「す、すすストップ。長くなるので
他の趣味をお答え下さい。」
「むー。」
これからが楽しくなるのに。
由海広は不満そうに頬を膨らませた。
「他には、なんだろう…。
車でドライブしたり、買い物したり…
映画を見たり…あれ?結局恋人と
一緒にいることが趣味ですかね?」
「ねぇ、わざとですか?
今すぐ押し倒されたいですか?」
「ふえ?あ、えーっと。
あとはそうですね、本を読んだり
音楽を聴いたり人並みです、はい。」
背筋がヒヤリとしたので
ため息混じりにちょっと怒ってる風の
彼を刺激しないように簡単にまとめた。
どうやら彼を高ぶらせる地雷を
踏んだようだ?正直に答えたのに。
「ふー…。ふぅ。」
手の甲で額の汗を拭う燃夏を眺めた。
ちょっぴりカメラに
慣れた私より大変そうだ。
なんて思って見ていた。
「…おかしいですね。
事前に取ったアンケートに趣味は
『ひとりえっち♡』と
『恋人とえっち♡』って書いて
あるんですけどねぇ?」
「んんんっー!?意義あり!!
アンケートなんて答えてませんっ!」
天高く挙手をしてアピール。
しかし空振り。
「でも好きですよね?」
「………ううぅ。」
肯定…したくはないけど、
否定も出来ませんよ…!
カメラの視線を感じて俯き顔を隠す。
「さて、事実のようなのでどうぞ?
まずはひとりえっちを見せて
頂きましょうか。」
燃夏は自分のペースを
取り戻したようで機嫌よさそうに
「どうぞ」の手を差し出し自慰を促す。
「え、えええ…!?モカくんっ?
本当にするの…!?」
「一応監督の設定です。はい!開始!」
「ふぁあああ?」
手をパーンって叩いて「開始!」
なんて言われても理解が追いつかない。
シワを寄せた眉に指を当てる。
そうだ、そもそもどうして
私がカメラの前にいて、
モカくんが監督をやっているんだ?
混乱してしまったなら
最初から思い返して
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