こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

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③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。

どうも、鷹橋です。 中編続き

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由海広ユミヒロは病院に居た。

気を失う前後のことを覚えていないが、
カフェで燃夏モカくんが救急車を
呼んでくれたらしい…。

簡素なベッドにカーテンが引かれ、
隣には点滴に繋がれた腕を握りしめる
モカくんがいてくれる。

モカくんの拳まで震え、汗をかいている。

頭がぼんやりする…。
現実味がなくて、夢を見ているようだ。

「海さん、海さんごめんなさい…。」

「…んん、…ありがとう……」

「違うんです、俺…、俺言えなかった…!
あの女に、二度と海さんに近づくなって…
ちゃんと、言えなかったです…。」

「……ありがとう……」

まだ意識がはっきりしない。
貧血だと言われたが、
それもいまいち腑に落ちない。

やはり私の心が弱いから。

自分で彼女を拒絶すること出来ない。
だから失神した。
内心モカくんも呆れてるんじゃないか…。

「海さん、ドクターが明日は大事を
とって休んだ方が、って……。」

「え…?」

仕事を休めと?
仕事をしなければ私はいよいよ役立たず。
モカくんにだって捨てられるかも知れない

その可能性がある以上
休むわけにはいかない。

「…明日は私がいないと回らない
プロジェクトがあるんだ…。
役に立たなくても、せめていないと…。」

「海…さん?仕事と体、
どっちが大事なんですかっ…!」

心配してくれてるのだろう。

だけど何故か今は恋人の言葉が煩わしい。

握られた手をそっと振り払う。

「海さん…?」

「帰って…。もう…。」

「……っ!!」

背を向けた彼がどれだけ悲しみに
突き落とされた絶望の顔をしているのか
今の由海広には確認できない。

ひどく混乱している。

恋人にすがりつきたい。
しかし自分は年上だ。
これ以上迷惑をかけたくない。

不安を打ち明けたい。
しかし呆れられたら?
飽きられたらどうしたらいい?

言い様のない恐怖に襲われる。

ただ甘えて抱き締められたい気持ちが
裏返り、突き放してしまう。

妄想と不安と自責と後悔。

はっと我に返り、背後を見ると
もうモカくんはいなかった。

ーーなんでこんなにだめなんだ。

唯一心配してくれる人を、
大好きな人を、守ってくれると
言ってくれる年下の彼を。

私のわがままで突き放してしまった。

嫌われたかもしれない。
嫌われたかもしれない。

確かではない最悪の恐れが
頭を胸を心を支配する。


「ううっ、…ふ、…ぐすっ…、うぅ…」

泣いても遅い。

自分が悪い。

この事態を引き起こしたのも
自分のせいなんだ。

暗闇の沼に沈む由海広に
手を伸ばす人が今はいない。

考えすぎてしまう悪い癖を
自覚しない由海広は、堕ちる。

一人、孤独に堕ちていく。





数時間の点滴が終わると、
ドクターに帰るように説明される。

正直家に帰るのも億劫だが
ここに迷惑は掛けられない。

考えて考えて、ふわふわまとまらない
頭で暗闇の病院を出る。

…タクシーを呼ぶか。

ぽつりぽつりと薄明かるい
街灯をたよりに目を凝らす。

「……っ?」

その姿に目を疑った。


街灯の下で捨てられた子犬のように
小さくなるモカくんが座っていた。

由海広を見て、歩み寄る。

「…帰りましょ、海さん。」

目の下が真っ赤に腫れている。

泣いていた?
私が泣かせた?
…それなのにどうしてここにいるんだ?

「な…んで…?」

「……俺は…海さんの恋人ですよね……。」

「…っっ…!」

「襲われるかもしれないのに…
恋人を見捨ててくなんて、
死んでも後悔できないですもん…っ!」

「そんな…こんな…おじさんなんて…。」

「海さんは海さんですっ…!」

「……っっ!」

すがるような抱擁ハグ
戸惑う由海広は、ただなすがままだった。

手を握りしめ、その手を引かれる。

「モカ、くん…おこ、って…ないの…?」

「…俺はガキですから、海さんの気持ちが
分からなくて…不安で怒ってます。
だけど、それとこれは違いますから…。」

見慣れたモカくんの車まで歩く。

助手席の前で手が離れて
モカくんが運転席に乗り込む。

申し訳なさと、反省と、後悔でぐるぐる。

それでも、扉を開けた。

「ごめんね、モカくん…。」

「………。」

返事はなく、無機質なエンジンが
けたたましく声をあげる。

ぱっとライトで暗闇が
照らされて、発進する。

車内の会話は一度もなかった。






「…その、モカくん…ありがとう。」

「……はい」

自宅の目の前まで燃夏はついてきた。

そしてここに来るまで、
絶えず警戒心を剥き出しにしていた。

「……海さん」

「ん…?」

「…いえ、おやすみなさい」

「…う、ん…。」

燃夏が由海広の額に短いキスをする。

本当は私が彼にしてあげないと
いけないのに…。

自分はいつも甘えてばかりだ。

「おやすみ…。」

すいっと離れる彼が
見えなくなるまで見送る。


「カシャッ」

「カシャカシャ」

扉を閉める由海広は、最後まで
向かいのマンションで微かに
光るレンズには気づかなかった。





燃夏は「自宅」に帰る。
大した物も置いていない。
ただの寝床。

ここが好きじゃないんだ。

海さんがいない。

海さんのそばにいたい。
一人を実感すると、途端に寂しくなる。

可哀想に怯える彼に枷をつけて
誰の目にも触れないように檻に閉じ込めて
不要なものを全て取り去り
抱きしめて毎日愛してあげられたら。

…違う。

それは「幸せ」じゃない。
一般的な幸福の価値観の話ではない。

日陰でお茶を飲んで穏やかに笑う。
弱気になる彼が欲するときに抱き締める。
彼の温かさに触れるのが何より幸せ。
それだけは確信しているはずなのに…。

全てが手に入らない彼が好き。
だけど俺は不安で欲張りで臆病な
どうしようもないガキだから。

自分の思うがままに「全て」を
雑多に隠せば安心すると錯覚してしまう。

今回の失態は自分にある。
「結婚」を持ち出されると、
強大な絆の前にびびってしまって
ちゃんと言いたいことを言えなかった。

女と結婚するのが由海広さんの幸せ?

例え彼が本心から結婚を望んだとしても
「あいつ」だけはありえない。

絶対ありえない。

…本当は一度あいつに負けてしまった。
だが冷静になればとんだ
お門違いと気づいた。

泣き腫らして痒い目をこする。

電気をつけない暗闇のテーブルに
広げられたばらばらの書類。

「及第点」を拾い上げ目を凝らす。
納得いかない。欠点が目につくが、
取り敢えず電話を掛けてみる。

prrrr prrrr prrrr…プツッ
いやまだだ。

相手が出る前に電話を切った。
まだ「時期」じゃない……。

そしてまぶたの裏に「敵」を思い浮かべる。

深呼吸をして、決意を固くする。

俺は海さんの味方だ。







都外の超高級マンション。
七色に輝く上品なライトの下で女が笑う。

壁一面のガラスの外に見える夜景は
ワタシを着飾るドレスの一部…。

最高のワインを嗜みつつ、
「しもべの一人」と電話でお喋りを楽しむ。

「本当…笑っちゃう。鷹橋家の影響を
知らないバカと話すのは不愉快だけど
満足感があるわ。バカを教育するのって
面白いのね。」

血のように赤いワインがお気に入り。
よく磨かれたグラスを傾け、味わう。

電話は画期的だ。

普段謁見を許されない弱者に
ワタシの言葉を伝えられる。

世間知らずのお嬢様が俗世を眺められる。

電話の相手の言葉に思わず吹き出す。

「結婚?なに、あんたまでバカが
うつったの?ふっふっふ、傑作。」

ガラスの外の俗世を鼻で笑う。

優沢ユサワなんておっさん当然捨てるわよ。
だって面白いじゃん。
必死になってるバカ同士の恋人ごっこを
引き裂くのってさ。」

何の悪気もなく純粋な笑いが溢れる。

なんだろう、この自分の余裕は。

全能感は。財力は。多幸感は。

物語に当てはめるなら、そう、ワタシは。

絶対的権力を持つ女王様。

なんて素敵で無敵で不敵な響き。

「それより
ちゃんと手に入れたんでしょうね、
例のもの…。」

ワタシの側近だけど、こいつもバカ。
指示した仕事がこなせたか
管理するのがワタシの役目。

「……………。」

満足気に微笑んだ。

「そう、いいこね。契約通り、
バカ犬は好きにしなさい。顔はいいけど
ワタシのレベルじゃない野良犬よ。」

わざとワイングラスを滑らせる。

大理石の床いっぱいに液体が広がる。

割れたガラスを
控えさせた付き人に素手で拾わせる。

ワタシは女王様。

何をしても許されちゃうから。



ーーーーーーー
ご注意
(必読)

※新章はストーカー行為をするキャラが
登場します。
作者は犯罪行為の助長や促し、
公認をしているわけではありません。
一つのお話としてご覧下さい。

※また、性差別な発言、同性愛の
否定のような表現もあります。
お話として表現しておりますが、
作者は愛の形や性別に差別はないです。
あくまでもお話として、の表現になります。

※このお話はフィクションです。
実在する名前、団体とは全く
関係ありません。

気軽に読んで頂くことが最大の喜びです



つづきます→
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